悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢の周りは慌ただしいようです

29.悪役令嬢がワガママを止めようとしていた頃

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「久しぶりにファリィに会ったが、随分美人になっていた。あれなら来シーズンには入婿くらいいくらでも現れるだろうな」
 毎度の事ながら事前連絡無しに現れたアルハルトは、ユールティアの神経をこれ以上なく逆撫でした。
 蹄鉄職人として会いに行くと言われ、許可を出した事を一瞬後悔しそうになったが、それを顔に出すと調子付かせると解っているのでただ溜息を吐く。
「彼女は昔から美人ですよ」
「まぁ、そこを否定はしないがな」
 入婿あたりに突っ込んでくる事を期待したのだが、躱されたな、と頭をかく。
 イカスの不正については順調に調査が進んでいると聞いた。
 アイラックについては、テスティアともども、アイラックの母の実家に転がり込んだと聞いている。
(ファリィにとっては、現実が辛過ぎるだろうと思ったが…存外元気だった)
 ここ最近は顛末がどうなるかが気になって、蹄鉄製作に身が入らずにいた。だが、久しぶりに面と向かって話をしたファランは、思いがけず顔色も良く。必要以上に落ち込んではいないように見えた。
 父の話をねだり、その話に楽しそうに笑って、まっすぐ立っていたように思う。
(…ファリィのためになると思ったが、俺達が間違えていたのかもしれないな、シクロン)
 もはや祖父の存在を無視して仕事をこなしている孫を見て、アルハルトはふと疑問を覚えた。
「そういえば、お前…いつファリィに会ったんだ?」
 考えてみれば、ユールティアがファランと接触するような機会は、なかったのではないだろうか。ずっと、ファランの祖母の血が濃く出たトーリシア寄りの顔立ちが好きなのだろうと思ってきたが、そもそも、その顔を何処で見たというのか。彼の口ぶりは、父を亡くす前のファランを知っているように思える。
「―――」
 ユールティアの脳裏に、初めてファランに会った、いや、彼女を見かけた時の記憶が蘇る。
 雲一つ無く晴れた空が美しい、長閑な日だった。
 勉強の合間の休息に、庭園へ出て、大好きなファレスピナリィの花を見に向かう。
 咲けば白鷹が羽ばたくように勇壮で、香り高く鮮烈で、なのにそれでいて、一茎に一輪だけの可憐な蕾姿をしている。ユールティアは、初めて見た日からずっと、咲き誇る百花の中で、ファレスピナリィが一番に好きだった。
(誰だ?)
 ファレスピナリィの花壇の側で、しゃがみこむ少女に気が付いたユールティアは、眉を寄せる。ここは王族と国王から許可を得た者のみが立ち入る場だ。幼子とは言え、見覚えの無い人間が居て良い場所ではない。
 注意をしようと思い足を踏み出したが、
「ファリィ!」
と、聞き覚えのある声が聞こえて歩みを止めた。
 そして、その声に振り向いた少女に目を奪われる。
(ファレスピナリィの精だ…)
 可憐な白い肌を桃色に染めた頬は、ふっくらと笑みを飾り、ドレスと同じ淡い青の瞳が、キラキラと光の中で輝いている。見慣れた相手に高く抱き上げられ、歓声を上げながら笑うその姿さえ、愛らしい。
(え…?)
 ユールティアは、自身の心臓が酷く強く脈打ち、その音が耳に聞こえるようで戸惑った。普通じゃないと慌てて、今曲がったばかりの角を戻り、しゃがみこむ。整えようと深呼吸をするが、鼓動は全くおさまらない。
(なんだ、これ)
 その動悸の意味をユールティアが理解したのは、ファレスピナリィの精がマーヴェラス家の令嬢で、次期グローリア侯爵であり、弟の婚約者だと知った時だった。
(そんな…)
 自覚すると同時に散った初恋は、ユールティアにとって、どうあってもぬぐい去れないものとなる。
(どうして、アイラックなんだ)
 常にファランの動向が気になり、父親を亡くしたと聞いた時は、どんな理由でも良いから駆け付ける術はないかと悩んだ。学園に入ってからは、アイラックの不甲斐なさに何度も憤り、自身が成り代わる道が無いものか探し続けた。
 そして今、かつてない僥倖が目の前にある。
「―――言いたくありません」
「あぁそうかい」
 素直に言うはずがないと解っていたアルハルトは大して引き下がりもせずに話を切り上げる。端から諦めていたために、ユールティアを注視していなかった。だから、気が付かない。
 ユールティアの済ました顔の横で、耳の先が赤く染まっていた事に。
(逃すものか…絶対に)
 もし、ファランがアイラックとの婚約継続を望むのなら、ユールティアはテスティアをどうにでもした。だが、彼女は終始冷めた様子で、テスティアとの仲を知っていると言い、婚約破棄に同意したという。彼女にとって望むものでなかったのなら、壊す事に躊躇いなど微塵も無い。
 ファランを傷付け、貶めようとした者達への報復は、今進めている。
 後は、己自身が、ファランに望まれるようにするだけだ。
(この人は、俺を彼女に縁付かせないために王太子に推したようだが…やりようはいくらでもある)
 寸暇を惜しんで働いている前でだらけた様子で寛ぐ熊を一瞥して、ユールティアは内心で嘲笑う。
「ん??」
 不意にアルハルトの背を寒気が襲ったが、それが何故なのか、彼は気付かなかった。
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