悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
30 / 84
悪役令嬢の周りは慌ただしいようです

30.悪役令嬢が悪役令嬢をすっぱり止めた頃

しおりを挟む
「ちょっと落ち着け。そもそもお前が口を挟む事じゃないだろう!」
 ユールティアが書いていた書類を取り上げて、アルハルトが叫んだのは、その書類がイレーヌのファラン殺害未遂に対する求刑書類だと気付いたからだ。
「何故ですか? 司法局は俺の管轄ですよ。求刑は極刑で決まりです。というか、極刑以外に選択肢がありますか?」
 さも当然という顔でユールティアは、首を傾げている。が、王太子としての仕事で司法局の最高責任者に据えられてはいるとはいえ、それと個人の求刑を決める事は全く別の話だ。
「止めろ。人命を失う方向での権力の行使だけは絶対にするな」
「散々私欲で権力を使ってきた割にまともな事言うの止めてもらえますか」
「自分勝手に生きたのは認めるが、それでも、言うぞ、止・め・ろ!」
「ちっ………どうせ法規に照らしたところで極刑が妥当ですよ」
「どうせ同じだというならその法規を無視するな」
 アルハルトは取り上げた書類を畳んで服のポケットに仕舞う。本気で書いていた物を使うとは思わないが、念のためだ。というか、もし本気でそんな権力の乱用を考えているのなら、目に付かないところでやるだろうから止めようがない。
(ふざけて気持ちを落ち着けようって事なんだろうが………ファリィに入婿探すより、コイツにさっさと嫁見つける方が良いかもしんねぇな)
 イレーヌの件についてはアルハルトも随分怒りを覚えていたのだが、目の前に怒っているというより復讐に燃えているような人間を見ると、少し落ち着いた。
 本来の執務を始めた孫に溜息を吐いて、ソファに座る。
「…イレーヌの様子は知っているか?」
 ここに来る前に様子を見たイレーヌは、かつて友の傍らに立っていた女性と、同一人物とは思えぬ有様であった。険しい顔で常にファランへの怨嗟を吐き続ける様は、正直気が狂れているのだと感じた。番をしている者に聞いた話では、イカスを陥れたファランを殺し、イカスを救うのは自分だ、というような事を主張しているらしい。
 ペンの音が止まった事に気付き顔を上げれば、怪訝そうな顔をした孫が見つめている。
「言っておきますが、心神耗弱など言い訳になりませんよ?」
「別に擁護しようってんじゃねぇよ。むしろ俺は頭にきてるんだ」
 弟を救いたいという感情は解る。だが、事の善悪が逆転し、実の娘が悪であるなどと、何故そう思い込めるのか。アルハルトには不可解だったのだ。
「ああ、そういう事ですか」
 ユールティアは、下らない、というように鼻で笑った。アルハルトの疑問を笑ったというよりは、どうやらイレーヌを笑っているらしい。
「イカス・トレッツォにもあの女にも会いましたが、どちらも実に下らない自己弁護に熱心な小物でした。皮を剥いていけばよく解る」
 ユールティアは睨むようにアルハルトを見つめた。
「俺が、彼女の側に居たなら、絶対にあんなのを野放しにはしませんでしたよ」
 アイラックの無能さはいっそ笑えますね、と微笑すら浮かべずに言い放つ様が、背筋を寒くする。
(………コイツを中和できるような女………って…あんま思い当たんねぇな)
 真っ先に脳裏に浮かんだ人物は居る。が、そもそもその人物から引き離そうと考えていたのだ。
 しかし、その後浮かび上がってくる女性は誰もいなかった。
(いや、まぁ、俺が年頃の娘と知り合いじゃないってだけだ。おう。探せば居るだろういくらでも)
 ユールティアの目をしっかりと見返して、アルハルトは笑った。
「まぁ、なんと言おうがファリィとお前の婚姻とか認める気はないがな」
「別に、今更貴方に認めてもらおうとか考えてませんよ」
「そうかよ」
 なんだって友人の娘ばかりがこうも変なのに周りを囲まれるのか、自分も割りとその変なのの部類に属している事は棚に上げ、アルハルトは肩を竦めた。
 何はともあれ、ゴタゴタは片付いたのだ。
 ファランも側にいた侍女が優秀で、何の後遺症もなく無事回復したと聞いている。
「近く見舞いに行くかな」
「許可しませんよ」
 呟いた言葉にそう返され、アルハルトは眉を顰めた。
「なんでお前の許可が要るんだよ」
「誓紙に署名をなさいましたよね」
「………あ?」
 脳裏にいつかのやたら項目の多い誓紙が思い浮かぶ。
「期限、きってませんよ、あれ」
「あぁ?!」
「だから、熊みたいなのは見た目だけにしてくださいよ。傷が付いたらどうするんです」
 椅子を蹴り上げるような勢いで立ち上がったアルハルトにユールティアが眉を寄せた。
 もっとも、眉を寄せたいのはアルハルトも同様だ。
「腕の良い職人紹介してやるよ! そんな事より、誓紙を出せ!」
「嫌ですよ」
「出せ! 燃やす!」
「だから嫌です」
「これから一々お前の許可取ってファリィに会うとか、やってられるか! 出せ! 燃やせ!」
「ああ。蹄鉄鑑賞会でしたっけ? あれについては許可しますよ。ご心配なく」
「そういう話してんじゃねぇよ!」
 こうして、ユールティアに小一時間近くおちょくられ続けたが、最終的に誓紙を燃やす事には成功した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...