悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢が、悪役令嬢になる理由

33.バケモノ

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 その日から、ファランは明らかに塞ぎ込むようになった。
 日に日に顔色が悪くなっていき、レイモンドやカトレアがどんな言葉をかけても、笑みを浮かべる事はない。
 イレーヌは、
「時が解決するでしょうから、しばらく、そっとしておいてあげてちょうだい」
と、家人に言い含めた。
 そっとしておけ、と言われても、歳が近く祖父からも話を聞いていたカトレアは、言葉通りにはできない。ファランに気を配り、声をかけ、僭越だが手を握ったり抱き締めたりもした。それでも、ファランの様子は快方には向かわなかったが。
「寒くはございませんか?」
「へいき」
「…では、なにかございましたら、お呼びになってください」
「うん」
「おやすみなさいませ」
「うん」
 ファランはベッドの中から、心配そうなカトレアに返事をして、扉が閉まる音を聞くとベッドを這い出した。
 眠る父を見送った日から、毎夜、ファランは母の部屋へ通っている。
 そこで、扉を隔てて聞く声と、昼間に屋敷で見る姿。母と叔父の二面性に、恐怖しながらも、確かめずにはいられなかった。
 本当に自分が聞いている声は母のものなのか。今聞こえている声は叔父のものなのか。この会話は、本当に二人がしているものなのか。
「レイモンドを追い出す件は順調?」
「心配ないよ」
「そう…ねぇ? カトレアはあっ…はぁ、追い出せないかしら」
「あの子はアルフレッドに繋がってる…あの爺さんがくたばるまでは下手に追い出さない方が良いと思うよ」
「んぅ…あぁ、そうっ…なら、しかたないわね」
「ここで焦ったらお仕舞いだよ、ゆっくり、慎重にいかないと」
「あまりっ…焦れったいのは、嫌よ?」
「解ってるよ」
 聞いた事のない声で笑う二人。
「ああ、ファラン。これ、お土産だよ」
「あら。良かったわね、ファラン。ほら、叔父様にお礼を言って?」
「ありがとうございます」
「良いんだよ。僕の可愛い姪っ子に、きっと似合うと思ったら思わず買ってしまっただけだから」
「まぁ、羨ましい事。わたくしには何もないのかしら?」
「嫌だな、姉さん。ちゃんと買ってきたよ」
 笑顔でファランに土産を渡し、笑う二人。
(………これは、何…)
 会話の無い日も、勿論有った。それでも、毎夜、隠し通路に入っては戻り、ベッドの上で頭を悩ませる。
 そんな日々は、ついに一ヶ月。
 今日、クレイターという執事がやってきて、レイモンドがマーヴェラス家を去る。
「お嬢様、何かありましたら、カトレアに言ってください。私にも、アルフレッドさんにだって、ちゃんと伝わりますからね?」
「うん………またね、レイモンド」
「…はい」
 何度も振り返りながら去っていくレイモンドの背に手を振って、その姿が見えなくなると、ファランはその場に崩れるようにしゃがみこんでしまう。
 カトレアが駆け寄ってきて、声をかけてくれるが、応えられない。
 家政夫の手を借りて自室のベッドに運ばれ、そのまま、眠りに就いた。
『醜い子』
(ごめんなさい)
『どうしてあんな子を産んでしまったのかしら』
(ごめんなさい)
『貴方の子供さえできれば殺してしまえるのに』
(ごめんなさい)
『悔しいわ、まだあんな子を生かしておかなきゃいけないなんて』
「…………さい」
 微かに漏れた声に、カトレアはベッドのファランを覗き込んだ。
「お嬢様?」
「………」
 仰向けに横たわるファランの目尻から、止めど無く涙が流れていた。
「カトレア」
「はい! 何ですか?」
「ごめんなさい…」
「どうしてですか? お嬢様が謝る事など何もありませんよ」
 涙を拭い、手を握り、頭を撫でてくれるカトレアに、ファランは謝り続ける。
 カトレアは、その度に、大丈夫だと、お嬢様は悪くないと、何度でも答えてくれた。
「ごめんなさい」
 何もかも全てに謝り続けてから、ファランは笑う事ができなくなった。
 笑わない少女に、事情の解らない人々は自然と距離を取るようになる。どんな場に出て行っても、ファランに友人などできない。ただ、笑わないファランの顔色を伺うように、阿る人間が周りを囲んでいくだけだ。
 まともに眠る事ができないため、次第に体調を崩しがちになり、精神的にも苛々としやすくなった。
 新しく入ってきた使用人には一切心を開けず、部屋に引きこもりがちになり、毒殺を恐れて食事もまともに取れない。毒を混ぜようがなさそうなものを偏食したり、外で買ってきたお菓子を夜中に貪るように食べたりして、次第に太り始める。
 鏡で自分を見たファランは、心のどこかで安堵した。
(ひどいかお…かわいくない…みにくいこども)
 自分が醜いのは太っているからだと、それは、いつの間にか、ファランの中ですり替わっていった。ファランは太る事をわざと続け、自分が醜いのは、太っているからだと自分に言い聞かせる。
(みんながかまわないのは、ワガママだから…ちがう…ひとりでいいの)
 ワガママに振るまい、迷惑をかけ、呆れられても、相手を罵って自分が突き放しているのだと信じ込んだ。自分は、構ってもらえないのではない。構われたくないのだ。
(どうせ、わたしは…)
 学園を卒業すると同時に殺されるのだ。
 でも、もしかしたら、それまでの間に何か救われる道があるかもしれない。
 だから、馬鹿な子供でいよう。
 いつでも、どんな理由をつけてでも排除できるような、馬鹿で救いようのない存在でいれば、無理に殺されはしない。卒業までの、その時までは。
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