悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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悪役令嬢が、悪役令嬢になる理由

35.卒業

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 ファランは、自分の足元が見えない。
 誰かの持ち物を踏み壊したり、ぶつかって落としたり、そんな事をよくやらかした。物を壊してしまった場合は、その都度、同じものかより良いものを贖い、カトレアが謝罪とともに届けるのだ。そして、金で何でも解決できると思っている女と認識された。
(これで良い)
 体の大きさも規格外なため、周りの物にぶつかりがちだが、そうした場合によろけたり倒れたりするのは相手だ。だが、ぶつかられた不快さに眉を顰め、どこに目をつけているのかと罵倒する。そうしなければ、いけない。
(これで良いの…)
 自分の周りでおかしな行動を取っている人間は、叔父が雇った監視かも知れない。だから、時折癇癪を起こして人を辞めさせる。例え、それが、本当は関係なかったとしても、そうするしかない。
(こんな…)
 学園に入って、一年半が、過ぎた。
(こんな女…いったい誰が、助けてくれるというの)
 今まで、ずっと、ファランは、アイラックと何の話もできないでいる。
 母と叔父は、王都のマーヴェラス家へ帰って来た。
(どうにかしないと…早く…なんとかしないと………)
 簡単に信じてもらえるとは思えなかった。だが、それは彼女がどうしようもない人間だと信じられている証でもある。現に、母と叔父は頻繁に家を開けていたし、息がかかった使用人が送り込まれたりもしていない。
(とにかく…どうにかして、アイラック殿下に味方になっていただかなくては)
 ファランは、まだ、この時、自分の婚約者を無条件に信じていた。誰の目にも触れないように、二人きりで、真剣に訴えれば、自分の話を信じてもらえると、思い込んでいたのだ。
(多少強引な手を使っても…)
 どうせ、今更落ちる名などない。
 二年目に入って、しばらく経った頃から、ファランはアイラックの周りから何とかして人を遠ざけようとした。その対象が、主にいつぞや見かけたブロンドの少女である事が多いと気付いたのは、そんな事を始めて、数ヶ月経ってからだ。数ヶ月といっても、週に二日程度しか学園へ行かないファランからすれば、中々気付かなかったが。
(いつも一緒にいらっしゃるのかしら? でも、どうにかして、離れてもらわないと…)
 ファランは、なんとかアイラックの側から立ち去ってもらおう、と婚約者という立場を語ってみたり、突き飛ばしてみたり、罵ってみたりもした。
(ああ………もうだめだわ)
 だが、気が付いた。
 少女にファランが近付けば、アイラックは少女の側に立つ。そして、少女と去っていくのだ。
 アイラックに近付けば、憎々し気に睨まれ、避けられる。
(どうしよう…どうしたらいいの…)
 自分で作り上げたファランという存在が、ファランを追い詰めていた。
 結局。
 学園を卒業する前日になっても、ファランには何もできないままだ。
 このまま成人すれば、おそらくファランは結婚後に殺される。子供が居なかったとしても、王族の血筋をもつ夫、アイラックならば、グローリア侯爵の爵位を継げるだろう。ならば、結婚さえしてしまえば、ファランは用済みだ。むしろ、金食い虫の穀潰しなど、障害だろう。
 そして、二人の婚約関係は、成人すれば即結婚となるものだ。ならば、卒業が期限のようなものである。
(もう、どうにもならない…)
 今日は、母と叔父が家にいる。ファランは、惰性のように、隠し通路へ入っていった。正直、もうギリギリの体型だが、それでも、この行為を止められないのが何故なのか、彼女には解らない。
「いよいよね」
 母の心底楽しそうな声がする。
「明日、何があるか、姉さんは知ってる?」
「修了証授与式でしょう?」
 叔父の、愉快そうな笑い声が響いていた。
「何笑ってるのよ」
「明日開かれるのは、ファラン・マーヴェラスの公開処刑だよ」
 ぞくりと、ファランの背筋を寒気が走り抜けた。
「なぁに、それ」
 これほど嬉しそうな母の甘えた声を、初めて聞いた。
「アイラック殿下はニールベスのお嬢さんにご執心だろう? だからね、二人で幸せになれる方法を教えてあげたんだ」
「あはっ…貴方、本当に素敵」
 二人の笑う声は、バケモノの哄笑だ。耳で木霊して、離れない。どこまでも付き纏う。ファランは、逃れる術を知らない。
「………」
 薄暗い部屋に戻って、重い足取りでベッドへ向かう。のろのろとした動作で仰向けに寝転べば、天蓋の自画像が、白く浮かび上がっている。
「あぁ…そうね」
(何もかも…間違えたのね…私)
 白い肌の異国情緒にあふれた綺麗な女性。
 もし、こんな絵のようになれていたら、きっと、誰かが手を差し伸べてくれたのだろう。
 優し気な笑みを浮かべる聖女のような女性に、成れていたのなら。
「ふっ…はは、あっはは…」
 ファランは、久しぶりに声を上げて笑った。
(何もかももう終わりよ。でも良いわ。もう疲れたもの…)
 だが、顔は少しも笑っているようには見えない。
「もうすぐ…会いにいくわ、お父様……っ…ひくっ」
 抱き締めてもらいたい。昔のように。
 こんな見違えた娘など、嫌われてしまうかもしれないが、それでも良い。とにかく、父に会いたかった。
(だって、もう…誰も…)
 くぐもった嗚咽だけが、誰もいないファランの寝室に響く。
「………たすけて」
 誰にも届かないファランの声は、ひどく小さく、掻き消えてしまった。
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