悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

文字の大きさ
37 / 84
そもそも悪役じゃないって声を大にして主張したい

36.しないけど

しおりを挟む
「ねぇお願い」
 ファランは、カトレアに向かって手を合わせてねだってみせた。
「………少しだけですよ?」
「やった!」
 ファランが両手を上げて喜んでいるのは、ミルクリゾットにチーズと胡椒を足しても良いか、という交渉に成功したからだ。
 完全に熱が下がってからも、一週間近く固形物をとっていなかったのだ。しばらくは大人しくドロドロで野菜やらの素材の味そのままな大麦ペーストのスープでも我慢した。翌日には塩気が増えたので、同じものでも大人しく平らげたし、更に翌日には、米のミルクリゾットに変わったので、喜んだ。
 だが、このミルクリゾットが曲者だった。
 さすがに、同じものが五食続くと、味やら具やらを大きく変えたくなってしまう。
「いい匂い」
 ハードタイプのチーズを、削り器で粉にしたものが、パラパラとリゾットの上に乗る。立ち上がる香りに、ファランは、思わずニンマリとしてしまった。
「…もう少し」
「いけません」
「…はい」
 ちなみに、胡椒は、更に後がけとなった。のだが、チーズの足されたリゾットが美味しくて、結局胡椒で味を変えるまでもなく食べきった。
「美味しかった!」
「よろしゅうございました」
 医師のジャンからは、出したものの状態や、固形物を増やしても腹痛がしないか、など、体調に合わせた食事をしなさいとだけ言われている。ファランとしては、もうそろそろ歯ごたえのあるものが入って来ても良いのでは、と思っているが、心配をしてくれている側の裁量に委ねる事にした。
 まぁ、要望は、出すが。
「お昼は、お魚の身とかあると嬉しいなぁ、なんて」
「料理長と相談しておきます」
「お願いします」
 こうして徐々に固形物が増えていった食事は、半月ほどで通常食となった。
 元気に庭を散歩したり、調子に乗って駆け出してみたりしても、おかしな所は何処もない。
「お嬢様! ご無理はなさらないで下さい!」
「無理はしてないわ」
 突然走り出した主人に思わず叫んだカトレアへ、笑顔で手を振って、ファランは庭木の間から飛び出した。
「えっ!」
 家の裏手に当たる場所に人が居るとは思わず、びくりと体を竦ませる。
「………お嬢様?」
 目を見開いた壮年の男性が確かめるように呼びかける。
 その呼びかけに、ファランは相手の顔を見つめて数度瞬いた。
「もしかして、レイモンド?」
「ご無沙汰しておりますお嬢様」
 大型の鞄を持った壮年の男性は、眩しそうに目を細めて、ファランへ頭を下げた。
「え、ええ、本当に、久しぶり…でも、どうしたの?」
「アルフレッドさんに、連絡をいただいて。お嬢様がお許しくださるのであれば、マーヴェラス家にお仕えできないかと思い、参りました」
 レイモンドが乞うている許しが、雇用の事だけではないと察せられて、ファランは笑った。
「助かるわ! 私じゃ帳簿付けは大変だから、家令を雇いたいと思ってアルフレッドに相談したの。良い人が見つかったって、レイモンドの事だったのね」
「有難うございます」
「こちらこそ」
 追いついて来たカトレアとも一緒になって、屋敷の中へ戻った。
 新領主に代わって初めての領地在住だというのに、約三ヶ月で横領犯と殺人未遂犯の逮捕劇が有り、新領主が毒で寝付いた、という悪い方向に色々盛り沢山だったマーヴェラス家だが。
 レイモンドを家令に迎え、アルフレッドの奮起もあり、ファラン自身も以前よりは出来る子になったため、領政そのものはおかしな事にならずに立て直せた。
 その約七ヶ月の間。
 ファランは、敢えて母と叔父の裁判に関わらないように過ごしていた。
 幸い、というか、なんというか。ファランは元々全くマーヴェラス家の財政面に無関係に過ごしていたため、事務的な対応はアルフレッドとレイモンドが担ってくれている。
 とはいえ、一つだけ、どうしてもファランがやらなければならない事の期限が、迫っていた。
(嘆願かぁ…)
 マーヴェラス家の紋章が薄く印刷された無地の紙を前に、ファランは、腕組みをして首を捻っている。
(………何を、望めば良いのかねぇ)
 毒殺されかかった日。
 なんとか一命を取り留めたものの、一週間半死半生だった間に、ファランは小さなファランの夢を見た。
 あの夢がなんであったのか。
 幼いファランが輝いて目を覚ました時から、変わった事が何なのかは解っている。
(ファランという少女の感情の記憶を取り戻した訳だが)
 生憎と、ファランに同情は覚えても、イレーヌを母とは思えなかったのだ。
(私が事情を理解して嫌いをひっくり返して好きになったのはあくまでファランだけなんだよ。ファランのこれからを幸せにしてやんぞって、気持ちだけなんだよ湧いたのは。もう、ぶっちゃけお母様酷い、どころか、イレーヌおいふざけんなよクソ女、くらいの怒り具合な訳で…と言って、じゃあ、ファランはそんな風に母親を切り捨てられる子だったかっていうと)
「違うからなぁ…」
 思わず独りごちて、ファランはペンを手にとった。
 嘆願を書くのなら、期限は今日までだ。おそらく明後日でも間に合いはするが、書いた上で、王都の役所に届くように手配する事を考えると、今日が確実だろう。
(私は、殺されそうになって、それでも謝ってたファランが好きなだけ)
 殺人の嘆願は、それほど意味を成さないと聞くが、それでも、ファランは嘆願書を出す事に決める。そうする事が、これからのためになると思ったからだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...