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そもそも悪役じゃないって声を大にして主張したい
36.しないけど
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「ねぇお願い」
ファランは、カトレアに向かって手を合わせてねだってみせた。
「………少しだけですよ?」
「やった!」
ファランが両手を上げて喜んでいるのは、ミルクリゾットにチーズと胡椒を足しても良いか、という交渉に成功したからだ。
完全に熱が下がってからも、一週間近く固形物をとっていなかったのだ。しばらくは大人しくドロドロで野菜やらの素材の味そのままな大麦ペーストのスープでも我慢した。翌日には塩気が増えたので、同じものでも大人しく平らげたし、更に翌日には、米のミルクリゾットに変わったので、喜んだ。
だが、このミルクリゾットが曲者だった。
さすがに、同じものが五食続くと、味やら具やらを大きく変えたくなってしまう。
「いい匂い」
ハードタイプのチーズを、削り器で粉にしたものが、パラパラとリゾットの上に乗る。立ち上がる香りに、ファランは、思わずニンマリとしてしまった。
「…もう少し」
「いけません」
「…はい」
ちなみに、胡椒は、更に後がけとなった。のだが、チーズの足されたリゾットが美味しくて、結局胡椒で味を変えるまでもなく食べきった。
「美味しかった!」
「よろしゅうございました」
医師のジャンからは、出したものの状態や、固形物を増やしても腹痛がしないか、など、体調に合わせた食事をしなさいとだけ言われている。ファランとしては、もうそろそろ歯ごたえのあるものが入って来ても良いのでは、と思っているが、心配をしてくれている側の裁量に委ねる事にした。
まぁ、要望は、出すが。
「お昼は、お魚の身とかあると嬉しいなぁ、なんて」
「料理長と相談しておきます」
「お願いします」
こうして徐々に固形物が増えていった食事は、半月ほどで通常食となった。
元気に庭を散歩したり、調子に乗って駆け出してみたりしても、おかしな所は何処もない。
「お嬢様! ご無理はなさらないで下さい!」
「無理はしてないわ」
突然走り出した主人に思わず叫んだカトレアへ、笑顔で手を振って、ファランは庭木の間から飛び出した。
「えっ!」
家の裏手に当たる場所に人が居るとは思わず、びくりと体を竦ませる。
「………お嬢様?」
目を見開いた壮年の男性が確かめるように呼びかける。
その呼びかけに、ファランは相手の顔を見つめて数度瞬いた。
「もしかして、レイモンド?」
「ご無沙汰しておりますお嬢様」
大型の鞄を持った壮年の男性は、眩しそうに目を細めて、ファランへ頭を下げた。
「え、ええ、本当に、久しぶり…でも、どうしたの?」
「アルフレッドさんに、連絡をいただいて。お嬢様がお許しくださるのであれば、マーヴェラス家にお仕えできないかと思い、参りました」
レイモンドが乞うている許しが、雇用の事だけではないと察せられて、ファランは笑った。
「助かるわ! 私じゃ帳簿付けは大変だから、家令を雇いたいと思ってアルフレッドに相談したの。良い人が見つかったって、レイモンドの事だったのね」
「有難うございます」
「こちらこそ」
追いついて来たカトレアとも一緒になって、屋敷の中へ戻った。
新領主に代わって初めての領地在住だというのに、約三ヶ月で横領犯と殺人未遂犯の逮捕劇が有り、新領主が毒で寝付いた、という悪い方向に色々盛り沢山だったマーヴェラス家だが。
レイモンドを家令に迎え、アルフレッドの奮起もあり、ファラン自身も以前よりは出来る子になったため、領政そのものはおかしな事にならずに立て直せた。
その約七ヶ月の間。
ファランは、敢えて母と叔父の裁判に関わらないように過ごしていた。
幸い、というか、なんというか。ファランは元々全くマーヴェラス家の財政面に無関係に過ごしていたため、事務的な対応はアルフレッドとレイモンドが担ってくれている。
とはいえ、一つだけ、どうしてもファランがやらなければならない事の期限が、迫っていた。
(嘆願かぁ…)
マーヴェラス家の紋章が薄く印刷された無地の紙を前に、ファランは、腕組みをして首を捻っている。
(………何を、望めば良いのかねぇ)
毒殺されかかった日。
なんとか一命を取り留めたものの、一週間半死半生だった間に、ファランは小さなファランの夢を見た。
あの夢がなんであったのか。
幼いファランが輝いて目を覚ました時から、変わった事が何なのかは解っている。
(ファランという少女の感情の記憶を取り戻した訳だが)
生憎と、ファランに同情は覚えても、イレーヌを母とは思えなかったのだ。
(私が事情を理解して嫌いをひっくり返して好きになったのはあくまでファランだけなんだよ。ファランのこれからを幸せにしてやんぞって、気持ちだけなんだよ湧いたのは。もう、ぶっちゃけお母様酷い、どころか、イレーヌおいふざけんなよクソ女、くらいの怒り具合な訳で…と言って、じゃあ、ファランはそんな風に母親を切り捨てられる子だったかっていうと)
「違うからなぁ…」
思わず独りごちて、ファランはペンを手にとった。
嘆願を書くのなら、期限は今日までだ。おそらく明後日でも間に合いはするが、書いた上で、王都の役所に届くように手配する事を考えると、今日が確実だろう。
(私は、殺されそうになって、それでも謝ってたファランが好きなだけ)
殺人の嘆願は、それほど意味を成さないと聞くが、それでも、ファランは嘆願書を出す事に決める。そうする事が、これからのためになると思ったからだ。
ファランは、カトレアに向かって手を合わせてねだってみせた。
「………少しだけですよ?」
「やった!」
ファランが両手を上げて喜んでいるのは、ミルクリゾットにチーズと胡椒を足しても良いか、という交渉に成功したからだ。
完全に熱が下がってからも、一週間近く固形物をとっていなかったのだ。しばらくは大人しくドロドロで野菜やらの素材の味そのままな大麦ペーストのスープでも我慢した。翌日には塩気が増えたので、同じものでも大人しく平らげたし、更に翌日には、米のミルクリゾットに変わったので、喜んだ。
だが、このミルクリゾットが曲者だった。
さすがに、同じものが五食続くと、味やら具やらを大きく変えたくなってしまう。
「いい匂い」
ハードタイプのチーズを、削り器で粉にしたものが、パラパラとリゾットの上に乗る。立ち上がる香りに、ファランは、思わずニンマリとしてしまった。
「…もう少し」
「いけません」
「…はい」
ちなみに、胡椒は、更に後がけとなった。のだが、チーズの足されたリゾットが美味しくて、結局胡椒で味を変えるまでもなく食べきった。
「美味しかった!」
「よろしゅうございました」
医師のジャンからは、出したものの状態や、固形物を増やしても腹痛がしないか、など、体調に合わせた食事をしなさいとだけ言われている。ファランとしては、もうそろそろ歯ごたえのあるものが入って来ても良いのでは、と思っているが、心配をしてくれている側の裁量に委ねる事にした。
まぁ、要望は、出すが。
「お昼は、お魚の身とかあると嬉しいなぁ、なんて」
「料理長と相談しておきます」
「お願いします」
こうして徐々に固形物が増えていった食事は、半月ほどで通常食となった。
元気に庭を散歩したり、調子に乗って駆け出してみたりしても、おかしな所は何処もない。
「お嬢様! ご無理はなさらないで下さい!」
「無理はしてないわ」
突然走り出した主人に思わず叫んだカトレアへ、笑顔で手を振って、ファランは庭木の間から飛び出した。
「えっ!」
家の裏手に当たる場所に人が居るとは思わず、びくりと体を竦ませる。
「………お嬢様?」
目を見開いた壮年の男性が確かめるように呼びかける。
その呼びかけに、ファランは相手の顔を見つめて数度瞬いた。
「もしかして、レイモンド?」
「ご無沙汰しておりますお嬢様」
大型の鞄を持った壮年の男性は、眩しそうに目を細めて、ファランへ頭を下げた。
「え、ええ、本当に、久しぶり…でも、どうしたの?」
「アルフレッドさんに、連絡をいただいて。お嬢様がお許しくださるのであれば、マーヴェラス家にお仕えできないかと思い、参りました」
レイモンドが乞うている許しが、雇用の事だけではないと察せられて、ファランは笑った。
「助かるわ! 私じゃ帳簿付けは大変だから、家令を雇いたいと思ってアルフレッドに相談したの。良い人が見つかったって、レイモンドの事だったのね」
「有難うございます」
「こちらこそ」
追いついて来たカトレアとも一緒になって、屋敷の中へ戻った。
新領主に代わって初めての領地在住だというのに、約三ヶ月で横領犯と殺人未遂犯の逮捕劇が有り、新領主が毒で寝付いた、という悪い方向に色々盛り沢山だったマーヴェラス家だが。
レイモンドを家令に迎え、アルフレッドの奮起もあり、ファラン自身も以前よりは出来る子になったため、領政そのものはおかしな事にならずに立て直せた。
その約七ヶ月の間。
ファランは、敢えて母と叔父の裁判に関わらないように過ごしていた。
幸い、というか、なんというか。ファランは元々全くマーヴェラス家の財政面に無関係に過ごしていたため、事務的な対応はアルフレッドとレイモンドが担ってくれている。
とはいえ、一つだけ、どうしてもファランがやらなければならない事の期限が、迫っていた。
(嘆願かぁ…)
マーヴェラス家の紋章が薄く印刷された無地の紙を前に、ファランは、腕組みをして首を捻っている。
(………何を、望めば良いのかねぇ)
毒殺されかかった日。
なんとか一命を取り留めたものの、一週間半死半生だった間に、ファランは小さなファランの夢を見た。
あの夢がなんであったのか。
幼いファランが輝いて目を覚ました時から、変わった事が何なのかは解っている。
(ファランという少女の感情の記憶を取り戻した訳だが)
生憎と、ファランに同情は覚えても、イレーヌを母とは思えなかったのだ。
(私が事情を理解して嫌いをひっくり返して好きになったのはあくまでファランだけなんだよ。ファランのこれからを幸せにしてやんぞって、気持ちだけなんだよ湧いたのは。もう、ぶっちゃけお母様酷い、どころか、イレーヌおいふざけんなよクソ女、くらいの怒り具合な訳で…と言って、じゃあ、ファランはそんな風に母親を切り捨てられる子だったかっていうと)
「違うからなぁ…」
思わず独りごちて、ファランはペンを手にとった。
嘆願を書くのなら、期限は今日までだ。おそらく明後日でも間に合いはするが、書いた上で、王都の役所に届くように手配する事を考えると、今日が確実だろう。
(私は、殺されそうになって、それでも謝ってたファランが好きなだけ)
殺人の嘆願は、それほど意味を成さないと聞くが、それでも、ファランは嘆願書を出す事に決める。そうする事が、これからのためになると思ったからだ。
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