悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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そもそも悪役じゃないって声を大にして主張したい

38.バカは辞めたのだよ

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 アルフレッドとレイモンド推薦の侍女は、最終的に三人が侍女として採用され、二人が家政として採用された。更に、別口で家政が二人と、庭師に厩番も増え、厨房へも見習いが二人入る。これでもマーヴェラス家の規模に対しては少なめなのだが、何とか最低人数からは脱却した。
 王都に戻り、アルフレッドは、レイモンドが居れば問題ありあませんから、とマーヴェラス家から再び身を引く。ファランは、引き止めたくも思ったが、冷静に考えて、主人の側では常に立っていなくてはならない仕事など、彼の歳では激務に他ならないだろうと諦めた。
 そうした訳で、アルフレッドは去ったが、全体は大幅増員したマーヴェラス家で、最後の追加人員とも言うべき補佐人と、ファランは初めて顔を合わせている。
(眼鏡…)
 カトレアに誘導で室内に入ってきた青年は、アルフレッドの伝手と聞いて想像していた人物像とは異なった。
(てっきりおじさんかと思ったのに、若い人だったのね…眼鏡店とかで知り合ったのかしら)
 アルフレッドは時折老眼鏡をかける。青年も、眼鏡姿だ。それ以外に共通点は思いつかない。
 茶髪で長身の青年は、眼鏡で顔立ちは見えにくいが二十歳そこそこではないだろうか。
「初めまして。アルフレッド様のご厚情により、グローリア侯の補佐人に推挙していただきました。クライフ・ヴォルフェンと申します」
「ヴォルフェン?」
「はい」
 アルハルトと同じ家名に一瞬驚いたが、考えてみれば彼のヴォルフェンというのは偽名だ。それに、王都では珍しくない。アルハルトもだから名乗っているのだろう。
「あ、ごめんなさい。何でもないわ」
 手を振って家名に引っ掛かりを感じた事を否定して、話題を変える。
「貴方が作ってくれた資料。とても読み易かったわ。ありがとう」
「お役に立ちましたのなら、幸いです」
「ええ、とても。こちらこそよ。貴方のように優秀な方が力を貸してくれるなんて、嬉しいわ」
 その後は、雇用形態について話した。
 本来の補佐人は週二日から四日、主人となる人物の登城に合わせて働く事になる。ファラン、もとい、グローリア侯爵は、週に二日が登城予定だ。とはいえ、登城日だけ補佐してもらえれば充分と言うには、彼女には経験が足りない。
 そのため、もらった資料も含め、勉強会などを開催したいと進言した。
「勿論、お給金はその分上乗せしますので」
「いえ、結構です」
「え?」
 ファランは、一瞬、こんな負んぶに抱っこな雇い主には付き合ってられないので、と断られたかと思った。が、杞憂だったようだ。
「私のような若輩者を雇ってくださった事だけで、十分です。実務経験を積める事こそ、何ものにも代え難い報酬ですので、どうぞ、通常の補佐人としての給金でお雇いいただければ」
「でも」
「お願いいたします」
 頭を下げられて、ファランはあわあわと頷く。
「解りました。では、その様にいたします」
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
 本当は、働きに応じてしっかりと給料を支払いたいという考えがある。だが、本人が、自分の実務経験不足を感じているのなら、支払おうとした給金がプレッシャーになる事もあるかも知れない。真面目そうなこの青年に、いらぬ責任を背負わせたい訳ではないのだ。
(アルフレッドとかレイモンドにでも相談して、何か良い形で報いられるようにしよう)
 ファランの元で働いていない時に働ける口を紹介するとか、良い筆記用具を贈るとか、何かお礼という形で返せるよう考える事にして、ひとまず納得する。
「では、時間と場所はこの通りに」
「はい。よろしくお願しますね」
「承りました」
 一週間後に控えた初登城の手はずを打ち合わせ、軽い雑談を挟んで、補佐人との顔合わせは終了した。
 退室については、別の侍女が案内したため、部屋に残ったカトレアに話しかける。
「アルフレッドのお眼鏡に適うだけの事はあるわ」
「感じの良い方でした」
「そうね。ふふ…私、てっきりレイモンドくらいの歳の人だと思ってたわ」
「私もです。資料も手紙も、とてもしっかりとしていらしたので」
「ね」
 くすくすと笑い合ってから、ファランは姿勢を正した。
「あんなに若い方があれだけしっかりしているのを見たら、何だかやる気が出てきたわ。私も頑張らなくちゃ!」
「然様でございますね」
 優秀な補佐人と、最初くらいはと顔を出してくれたアルフレッドのおかげで、ファランの準備は万全だ。
 翌朝。
 カトレアに見立ててもらった、シンプルな深緑のドレスも、気持ちを盛り上げてくれる。
(鈴蘭ファランも悪くないわよね)
 一度はげっそりと痩けた頬も元々の丸みのある顔に戻った。
 ハムなファランが持っていた脂肪の鎧はもういらない。誰に後ろ指を差されても、これからはちゃんと生きると決めた。反省はするが前を向くと決めたのだ。
(愛想笑いと当たり障りの無い世間話は大の得意よ!)
 成功させるぞ初出社、と気合を込めて、ファランは場車に乗り込んだ。
(ここが…これから私が管轄する山野局)
 打ち合わせ通り、城門で合流した補佐人を斜め後ろに従えて、グローリア侯爵は荘厳な門扉を、姿勢を正して颯爽とくぐり抜けた。
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