悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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そもそも悪役じゃないって声を大にして主張したい

40.ワガママは…

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 次の出社、ではなく、登城は四日後だ。
(………これで良いのだろうか)
 いや、まだ様子見なだけだろう。だがしかし。もしかして。そんな風にファランは何度も頭を捻るが、考えてみれば納得するしかない。
 そもそも一年毎に入れ替わったり、不在になったりも珍しくない貴族がなるのだ、その役職は大概代替が利くようになっている。裏を返せば、絶対に必要な要員ではないのだ。存在としては、お飾り、あるいは、窓際が近い。
(やる気はあったんだが…やる事が無いとは)
 翌日には制服の採寸をして、オーダーメイドにしないのならすぐにでも手に入ると聞いたので、一番体型に合ったものを買って、カトレアに手を入れてもらう事にした。
 おかげで、次の登城では、制服まで着た気合充分な状態になれるところなのだが。
(………気合空回りして浮いた感じになるかなぁ)
 少し悩んだ末に畳んで鞄に詰める事にした。
 こうして二回目の登城へ向かう。
 ある意味気楽だが、どことなく気が重いような感じもしつつ足を踏み入れると、すぐ目の前に先日挨拶に来た局員が居た。
「あら、ネストさん。おはようございます」
「へ…あ、おは、ようございます!」
(おおぅ、そんなに気合を入れなくても大丈夫だぞぉ)
 九十度に近いお辞儀を返され、若干引きつつ歩を進めようとすると、
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「おはようございます!」
と、手前から次々に挨拶が起こる。
(お店かい)
 内心でツッコミつつ笑顔と会釈を返した。声がひとしきり収まったところで、脇の階段を上り、局長室へ向かう。
(あれ、私が来る朝は毎回やるのかな………挨拶については一概に駄目とも言えないんだけど、あんな端の人まで声を張り上げなくても良いよね。目が合った範囲くらいの人で別に…あ、でも、一階は仕切りがないからどうしてもああなるのかな?)
 考え込んでいたファランは、自分を追い越す影に気付いて、はたと視線を向けた。
 クライフが先んじて歩き、局長室の扉を開けてくれる。
(そう言えば、全然自分で開けてない。階段じゃ下にいて、廊下で追い越して扉を開けて、すごいなこの人、基本接客マニュアルもちゃんとしてるのか!)
 補佐人のレベルの高さに感心しつつ、入室した。
「荷物は既に中に運び込まれています」
「ありがとう」
 荷物、というのは、何もない局長室を過ごすのに適した環境にするための荷物である。
「お手伝いする事はございますか?」
「いえ、大丈夫。一人で出来るようにしてあるから、気にしないで」
「ではこちらで控えております」
「ええ、お願い」
 扉がしまったところで、そそくさと仕切りの向こうへ行く。
 送り出した箱が、ちゃんと置かれていた。
(さて、やるかって話なんだけど…)
 そもそも侍女を伴えないので、荷物についてはファランが独力で荷解き出来るように、工夫してあるのだが。一度、己の姿を見下ろして、首を捻る。すっきりしたスタイルとは言え、ドレスというのは荷解きに向かない気がする。
(裾が長いのよね………よしっ!)
 こんな時こそこいつの出番だ、とファランは鞄の中に詰めた制服に着替える事にした。
(ふっふっふっ…カトレアがいい感じにシェイプしてくれたから脚長腰高細見え効果もばっちりよ)
 ウチの侍女スゴイでしょう、と誰に向かって言っているのか、独りでドヤ顔決めて披露して、せっせと着替え始める。
 まず髪をざっとまとめて、グローリア領に帰って見つけた祖母の形見の簪を挿した。
 鞄に一緒に詰めてきたハンガーに脱いだドレスを掛け、まずはシャツを身に付ける。パンツを履いて、シャツを入れ込んでからボタンとベルトを留め、襟元を整えてから上着を羽織った所で、扉をノックする音がした。
「グローリア侯。よろしいですか?」
「はい」
 大声で返事をして、慌てて仕切りの向こうへ歩き出す。
「グローリア侯?」
 声がしたから開けたのにそこにファランが居なくて困惑している姿が見えるようだ。
「ごめんなさい。何かしら?」
「………」
 ファランは慌てて、詰襟の留め金と格闘しながら仕切りの向こうへ飛び出すと、ぽかんと口を開けた補佐人と目があった。
「?」
 あっという間にクライフの顔が真っ赤に染まる。
「着替えを、されるのであれば、一言、いや、鍵を! 鍵をかけてください!」
「え? あっ! そうね、ごめんなさい。私が迂闊でした」
(あわわわ、やってしまったぁ…これはカトレアにも怒られるやらかしだわ!)
 口止めをしなくては、と慌てて、謝りながらもうしないので家の侍女には言わないで欲しい、と訴える。
 しばしの困惑と沈黙の後、軽い咳払いを挟んで、
「解りました。もうこのような事が無いとお約束くださるのでしたら、黙っておきます」
と、言ってくれた。
「ありがとう!」
 カトレアにもそうだが、精神的な意味で、クライフにも頭が上がらなくなる日も遠くないな、と思う。
「あ、えっと、それで、何か用が有ったのよね?」
 落ち着いたところで、まだ留められていなかった詰襟をかけようと苦戦しながら口を開いた。
「はい。各部門長が集まる部会の日程が、月末と翌月初のどちらならば都合か良いか、との事で」
「どちらでも問題無いから、皆さんがより都合の良い日にしてください、と伝えて」
「承りました………あの」
「ん?」
「失礼します」
 いつまで経っても留まらないのを見かねたらしい。クライフが詰襟を留めてくれる。
(あれ? クライフさん、睫毛金色…?)
 よく見ようと目を凝らしたが、留め終わったクライフはすぐに身を離した。
「ありがとう」
「いえ………お似合いです」
「本当? 侍女があたってくれたの」
 スカートではないのでひらりとする訳ではないが、ファランはその場でくるりと回ってみせる。
「はい。とてもお似合いです」
 カトレアの力作を褒められて、ファランはつい外面を忘れる。
「へへ、ありがとう」
 侍女を自慢しつつ照れるファランを、クライフは微笑まし気に見つめていた。
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