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わりと周りも悪役とは思ってないみたい
42.さる学園生の回顧2
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例えば、ファランの常時ニコリともしない態度は、普通に考えれば不愛想である。
ところが、そこにカメリアのような好意的な解釈を加えると、
「ゆくゆくは侯爵位を継がれる方ですもの、愛想笑いなど不要ですわ。ましてご自身が婚約者のある身でいらっしゃる以上、あのように高潔なお振舞いはむしろ素晴らしい事ですわ」
と、なる。
勿論かなり好意的な解釈なので、誰もがそう思っている訳ではない。だが、少なくともカメリアを含めた十数人の令嬢はそう考えていた。
そして、一部でもそこまで好意的な人間が居ると、大多数の意識も少しは影響を受ける。更に、一年目が終わる頃には、王子とテスティアがその仲を隠さなくなり、というよりも、耽り、溺れきって隠せなくなった事もあり、学園生徒の大半は、ファランへの同情と肩入れへと傾いていった。
そうした中、一年目の総決算とも言うべき、パーティが開かれる。
あくまで学園生徒のみが出席するもので、社交の礼儀や社会の規範を学ぶためにあるものなので、多少のマナー違反にも目を瞑ってもらえる気楽なダンスパーティだが。
目を瞑るのにも限度はある。
カメリアは、婚約者を目の前に、別の人間と最初のダンスを踊る人間の感覚が、全く理解できずにいた。
そしてそれは、一般的な感覚を持つ大多数の生徒の総意だ。
(マーヴェラス様は、全く気にされてないようだけど…)
ただ、当の婚約者が何も言わない、というより、二人の存在に気付いていないかのように見もしないため、口に出して批判する事はない。
それでも、ファランに擦り寄りたい、かつ、テスティアへの憤懣を溜め込んでいた令嬢が、連れ立って囁きには行ったのだ。
「マーヴェラス様、どうぞ、あんな女叱り飛ばして差し上げてくださいな」
「そうですわ。マーヴェラス様を差し置いて殿下とダンスを踊るなど。不敬ですわ」
「あの方育ちの悪さをもっと自覚するべきですわ」
「この学園で何を学んでいるのでしょう」
「男に擦り寄る事でしょう」
「不快な方ね。殿下はマーヴェラス様の婚約者でいらっしゃるのに」
だが、微笑みもしないファランに切って捨てられる。
「貴方達の声こそ不快よ。何処かへ行って」
令嬢達は頬を青く染めてファランの側を離れていった。
(マーヴェラス様は、ご自分の名前が使われている事にお気付きなのかしら。それに、もしかしたら、ニールベス様ご自身で気付いてくださるよう耐えていらっしゃるのかも)
ファランへ傾いている生徒の多くは、彼女の言動を基本的に好意で受け止めてくれる。
現に今、カメリアはファランを何処か尊敬の眼差しで見つめていた。
本当のところ。
侯爵令嬢ファラン・マーヴェラスの名前を出して、テスティアへ嫌がらせをする令嬢が居る事を、ファランは知らない。
王子殿下の婚約者ファラン・マーヴェラスの名前をたてに、テスティアへ暴言を吐く令嬢が居る事を、ファランは知らない。
だが、先ほどのやりとりは、そうした者を牽制した。
この後、結果として、テスティアへの嫌がらせは減る。
(マーヴェラス様はなんてお心の広い!)
カメリアは、元々持っていたファランへの好意も有って、すっかりキラキラした目でファランを見つめ、何とかして話しかけたいと側をうろうろとした。他にも何人もそうした令嬢が居たが、彼女達は上手く話しかけられないまま時間が過ぎていく。
この令嬢達が話しかけられない背景には、家やファランの態度意外にも理由があった。
ファランが物を壊すと同じものかそれ以上のもので弁償する行為を、悪用する生徒の存在だ。そうした生徒は、わざとファランに物を壊させて、さも大事なものを壊されたというような態度をとりつつ、弁償された新品を自慢気にひけらかす。
そのため、完全なる好意からファランに近付きたい生徒は、どうしても同じと思われたくない、と構えてしまうのだ。
(あぁ…でも何とか声を!)
終了の時間が迫ってきた事で、カメリアは一歩を踏み出す事にした。
(もうそろそろ終わりですね。この後はどうされるのですか。もしよろしければ、お話致しませんか)
ファランに話しかける内容を頭で考えながら、近くへ向かったカメリアは、先ほどファランに追い払われていた令嬢の存在に気付かなかった。まして、その令嬢が、少し前に自分と口喧嘩をした、ファランにペンを壊され新しくなったペンを自慢していた令嬢だという事など、解っていない。
ファランのすぐ側まで来て、呼吸を整え、意を決して口を開こうとした瞬間。
「きゃ?!」
カメリアは、背中を、どんと押された。
(駄目っ!)
手に持っていた葡萄ジュースを、ファランにかける事だけは避けようと体を捻った結果。ファランの肩あたりにぶつかりながら自分自身のドレスの裾へ紅いシミを広げる事になる。
「あ…」
すぐに自分を押した相手を確かめようとしたが、あっというまに人垣へ紛れて、後ろ姿がちらりと見えただけだった。
(やだ、もう)
手でシミを隠しながら、すぐにその場を離れようと立ち上がる。そこで、自分がファランにぶつかっていた事を思い出した。
「あ、あの」
視線を向けると、ファランがじっとシミを見つめている。
(あ…私…まるで、集りのような真似をしている方と同じ…恥ずかしい)
「不調法で、ご迷惑をおかけ致しました。申し訳ございません」
カメリアは俯いて早口に謝罪を口にすると、その場を去ろうとした。非は自分にあり、ファランに弁償をしてもらいたいなど思ってもいないと、伝えたかったのだ。
だが、ファランに声をかけられて、動きを止める。
「これを」
ファランはハンカチを差し出していた。
「どうぞ」
「…ありがとうございます」
受け取りながら、この機会を逃せば次など無いと覚悟を決める。
「………あの、もし機会がありましたら、パーティの招待状などお送りさせていただいてもよろしいでしょうか」
「え? ええ、かまいませんが」
唐突な誘いに、困惑させてしまったと思うが、カメリアは嬉しくて舞い上がった。さっとお辞儀をして、ハンカチでシミを隠しつつその場を去る。
(やったわ!)
ところが、そこにカメリアのような好意的な解釈を加えると、
「ゆくゆくは侯爵位を継がれる方ですもの、愛想笑いなど不要ですわ。ましてご自身が婚約者のある身でいらっしゃる以上、あのように高潔なお振舞いはむしろ素晴らしい事ですわ」
と、なる。
勿論かなり好意的な解釈なので、誰もがそう思っている訳ではない。だが、少なくともカメリアを含めた十数人の令嬢はそう考えていた。
そして、一部でもそこまで好意的な人間が居ると、大多数の意識も少しは影響を受ける。更に、一年目が終わる頃には、王子とテスティアがその仲を隠さなくなり、というよりも、耽り、溺れきって隠せなくなった事もあり、学園生徒の大半は、ファランへの同情と肩入れへと傾いていった。
そうした中、一年目の総決算とも言うべき、パーティが開かれる。
あくまで学園生徒のみが出席するもので、社交の礼儀や社会の規範を学ぶためにあるものなので、多少のマナー違反にも目を瞑ってもらえる気楽なダンスパーティだが。
目を瞑るのにも限度はある。
カメリアは、婚約者を目の前に、別の人間と最初のダンスを踊る人間の感覚が、全く理解できずにいた。
そしてそれは、一般的な感覚を持つ大多数の生徒の総意だ。
(マーヴェラス様は、全く気にされてないようだけど…)
ただ、当の婚約者が何も言わない、というより、二人の存在に気付いていないかのように見もしないため、口に出して批判する事はない。
それでも、ファランに擦り寄りたい、かつ、テスティアへの憤懣を溜め込んでいた令嬢が、連れ立って囁きには行ったのだ。
「マーヴェラス様、どうぞ、あんな女叱り飛ばして差し上げてくださいな」
「そうですわ。マーヴェラス様を差し置いて殿下とダンスを踊るなど。不敬ですわ」
「あの方育ちの悪さをもっと自覚するべきですわ」
「この学園で何を学んでいるのでしょう」
「男に擦り寄る事でしょう」
「不快な方ね。殿下はマーヴェラス様の婚約者でいらっしゃるのに」
だが、微笑みもしないファランに切って捨てられる。
「貴方達の声こそ不快よ。何処かへ行って」
令嬢達は頬を青く染めてファランの側を離れていった。
(マーヴェラス様は、ご自分の名前が使われている事にお気付きなのかしら。それに、もしかしたら、ニールベス様ご自身で気付いてくださるよう耐えていらっしゃるのかも)
ファランへ傾いている生徒の多くは、彼女の言動を基本的に好意で受け止めてくれる。
現に今、カメリアはファランを何処か尊敬の眼差しで見つめていた。
本当のところ。
侯爵令嬢ファラン・マーヴェラスの名前を出して、テスティアへ嫌がらせをする令嬢が居る事を、ファランは知らない。
王子殿下の婚約者ファラン・マーヴェラスの名前をたてに、テスティアへ暴言を吐く令嬢が居る事を、ファランは知らない。
だが、先ほどのやりとりは、そうした者を牽制した。
この後、結果として、テスティアへの嫌がらせは減る。
(マーヴェラス様はなんてお心の広い!)
カメリアは、元々持っていたファランへの好意も有って、すっかりキラキラした目でファランを見つめ、何とかして話しかけたいと側をうろうろとした。他にも何人もそうした令嬢が居たが、彼女達は上手く話しかけられないまま時間が過ぎていく。
この令嬢達が話しかけられない背景には、家やファランの態度意外にも理由があった。
ファランが物を壊すと同じものかそれ以上のもので弁償する行為を、悪用する生徒の存在だ。そうした生徒は、わざとファランに物を壊させて、さも大事なものを壊されたというような態度をとりつつ、弁償された新品を自慢気にひけらかす。
そのため、完全なる好意からファランに近付きたい生徒は、どうしても同じと思われたくない、と構えてしまうのだ。
(あぁ…でも何とか声を!)
終了の時間が迫ってきた事で、カメリアは一歩を踏み出す事にした。
(もうそろそろ終わりですね。この後はどうされるのですか。もしよろしければ、お話致しませんか)
ファランに話しかける内容を頭で考えながら、近くへ向かったカメリアは、先ほどファランに追い払われていた令嬢の存在に気付かなかった。まして、その令嬢が、少し前に自分と口喧嘩をした、ファランにペンを壊され新しくなったペンを自慢していた令嬢だという事など、解っていない。
ファランのすぐ側まで来て、呼吸を整え、意を決して口を開こうとした瞬間。
「きゃ?!」
カメリアは、背中を、どんと押された。
(駄目っ!)
手に持っていた葡萄ジュースを、ファランにかける事だけは避けようと体を捻った結果。ファランの肩あたりにぶつかりながら自分自身のドレスの裾へ紅いシミを広げる事になる。
「あ…」
すぐに自分を押した相手を確かめようとしたが、あっというまに人垣へ紛れて、後ろ姿がちらりと見えただけだった。
(やだ、もう)
手でシミを隠しながら、すぐにその場を離れようと立ち上がる。そこで、自分がファランにぶつかっていた事を思い出した。
「あ、あの」
視線を向けると、ファランがじっとシミを見つめている。
(あ…私…まるで、集りのような真似をしている方と同じ…恥ずかしい)
「不調法で、ご迷惑をおかけ致しました。申し訳ございません」
カメリアは俯いて早口に謝罪を口にすると、その場を去ろうとした。非は自分にあり、ファランに弁償をしてもらいたいなど思ってもいないと、伝えたかったのだ。
だが、ファランに声をかけられて、動きを止める。
「これを」
ファランはハンカチを差し出していた。
「どうぞ」
「…ありがとうございます」
受け取りながら、この機会を逃せば次など無いと覚悟を決める。
「………あの、もし機会がありましたら、パーティの招待状などお送りさせていただいてもよろしいでしょうか」
「え? ええ、かまいませんが」
唐突な誘いに、困惑させてしまったと思うが、カメリアは嬉しくて舞い上がった。さっとお辞儀をして、ハンカチでシミを隠しつつその場を去る。
(やったわ!)
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