悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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周りは先にアップを終えていたようです

51.まぁ

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 時を少しばかり遡って、ファランが山野局へ初登城していた頃。
「おじい様」
 マーヴェラス家の一室で、もう使用人ではないのだが、当然のように毎日やって来ては手紙を選別しているアルフレッドに、カトレアが声をかけた。
「どうしたね」
 別に祖父の行動に文句がある訳ではない。
「おじい様から、お父様に仰って頂けませんか? 私はご主人様がご結婚なさるまで結婚する気はないと」
 近頃、姉の話がまとまりかけているせいか、父が次はお前だとカトレアに手紙を幾通も寄越すのだ。ずっとファランが結婚してからでなくては結婚はしないと言い続けていて、納得していたはずなのだが。
「近頃本当にうっとうしくて」
 右手で額を押さえて溜息を吐くカトレアの左手には、その父からのうっとうしい手紙が三通ほど握られている。
 元々カトレアの父が納得していたのは、幼い頃から王子の婚約者だったファランなら、成人後すぐ結婚するもの、と思っていたからだ。その婚約がなくなった訳だから、これでは結婚がいつになるか解らない、と言い出した。
 アルフレッドとしては、娘を持つ父親として当然の対応だろう、とは思う。孫娘の仕事に対する姿勢と訴えも大いに理解できるところではあるが。
「娘に口を出すのはできるが、他家の義息には言い難いね」
 なので、少しやんわりと逃げてみる事にした。
「お母様からはもう言っていただいたのです」
「レイモンドに間に立ってもらってはどうだね」
「それは、さすがに、私的な事ですし頼み辛いのですが」
「構うものかね。有能な人材の人生の話であるのだから、マーヴェラス家にとっても大切な事だよ。それにお嬢様ほどの方ならすぐに結婚相手など見つかるよ。それまで時間が稼げれば良いのだろう? だったらどうあっても時間がかかるようにしてしまいなさい。まず、レイモンドに手紙を出して、良い話がないか相談をもちかけて、しばらく手紙をやり取りしてもらうと良い」
「なるほど…さすがおじい様です」
 遠くの他人を巻き込めば巻き込んだ分だけやりとりは長くかかるようになる。当然の話だが、カトレアには思いつかない事だった。
「あまり父親に冷たくするんじゃないよ? 娘を思っての事なんだからね」
 自分で孫娘の婚期を伸ばす手伝いをしてしまったが、アルフレッドは娘の夫の人が好いところが気に入って快く娘を嫁がせたのだ。マーヴェラス家は大事だが、肉親の事も大切に思っている。
「解っています。でも…一日に五通も六通も手紙を届けられるとうんざりしたくもなるんです」
 とはいえ、限度はあるが。
「………そんなに来てたのかい?」
「私の手紙もおじい様に選別していただきたいくらいです」
「すぐレイモンドに手紙を出しなさい。帰りがけに私も寄って話をしておこう」
「お願いします」
 カトレアの父親は、悪い人間ではないのだ。娘をとても大切に思っていて、ただ、その大切に思う気持ち故に、心配が少々行き過ぎなきらいがあるだけ。それだけなのだ。
「悪い男ではないのだがね…」
「私とて父を悪人だとは思っておりません」
 祖父と孫娘は、揃って溜息を吐いた。
「ただでさえご主人様がお忙しくなさっている時ですから、今はとにかく集中していたのです」
「解るよ」
 カトレアに頷いたアルフレッドは、だからこそ本人以外の身内は結婚を催促するのだけどね、という言葉をそっと飲み込んだ。
「そういえば、おじい様がお連れになった補佐人の、クライフさん」
「うん?」
「どちらでお知り合いになられたのですか?」
「気になるかね?」
 祖父の顔を見返して、カトレアは少しに眉を顰める。
「言っておきますが。異性として気になるといった話ではございませんよ。ご主人様が『眼鏡屋さんが一緒なのかしらね』と不思議そうになさっておいででしたので、お伺いしております」
 カトレアとしては、祖父と同世代の友人知人といった方々の孫なのではないか、と思っているのだが。考えてみると、そう言った場合は誰の孫、という紹介をするだろう。なので、ファランが言った言葉が彼女の中でも疑問符を生んでいた。
「眼鏡…」
 ぽつりと呟いてから、アルフレッドは少し笑った。
「いやいや。別にそうした訳では…クレイターとイカス殿の事を調べる際に、力を借りた伝手で知り合ってね。能力の高い人物だと思ったのでお嬢様にお繋ぎしても良いかと考えたんだよ」
 アルフレッドの言葉に、カトレアは少し驚いていた。祖父は、能力評価は厳しい人間だ、と記憶しているためだ。
「まさかとは思いますが…ご主人様のお相手にと考えていたりしませんよね?」
 今度こそはっきりと眉を顰めたカトレアに、アルフレッドはニコリと笑ってみせる。
「それはどうだろうね。勿論私は、悪くはないと思うが。まぁ、全てはお嬢様がお決めになる事だよ」
 決めるのはファランだと口で言いながら、その手元で選択肢を遠慮無く削ぎ落としているアルフレッドに、カトレアは呆れたという顔を作ってみせる。更に、深々と息を吐き、やれやれと首も振った。
「クライフさんが随分と高い評価を得ている事は解りましたが。その言葉は絶対ですよ? 全てに優先される事は、ご主人様がお幸せになる事、です」
「勿論だよ」
 ファランがまだ子供だった頃に、自分達にはもっと出来る事があったのではないか。不遜かも知れないと思いつつもそう考えているこの祖父と孫娘は、主人の為に成る事ならば、多少分を越えた事でもやっていこう、と決めていた。
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