悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea

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侯爵閣下、婚約者辞めるってよ

71.調査

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 執務室で白紙を前に、ファランは腕を組んで黙考していた。
(解らん………)
 歴代グローリア侯爵を継ぐ古からの名門であるマーヴェラス家。その家長である自身の結婚相手の条件についてだ。
(んー…もう全然解らない。元々は王子が相手だった訳だけど………よく話聞くとあんまり家柄って重要じゃないみたいだし)
 爵位を継ぐべき身分や家柄はファランが持っている。そのため、結婚相手は貴族であれば誰でも成り得るのだ。
(間口が…広すぎて)
 元々は、クライフの事を考えていた。
 華やかな一大イベントである迎夏祭を終えてはや二日。
 正直に言えば、初めはクライフにどうすれば告白できるかを散々考えていたのだ。
 雇用関係が問題なら、ひとまず領地に帰ってから手紙で告白するのはどうだろうか、とか。別の職場を紹介して自分との雇用関係を一度解消する、とか。仮定の話、あるいは冗談の一種としてほのめかしてみる、とか。
 だが、結局上手い方法が思いつかず、もう完全に条件のみで結婚相手を探して誠意で関係を築いていく方が建設的なのではないかと思い至ったのだ。
 しかしながら、幼い時から許嫁が居たファランには結婚の好条件がよく解らなかった。
「失礼いたします」
 涼を得るため開けていた扉から軽やかな声が聞こえた。
「ありがとう」
 ニーアとミモザが頼んでいた資料を運んできてくれたのだ。
「こちらの棚上に置いて良いですかぁ?」
「ええ」
 ファランは、資料を置いた二人が部屋を後にする前に声をかける。
「あ、ねぇ。二人にちょっと訊きたい事があるんだけど」
「はぁい」
「なんでしょう?」
「この家の旦那様に求める条件ってどんなものがあるかしら?」
 笑顔で首を傾げるファランの質問に、二人は目を見合わせてから口を開く。
「それはぁ、ご主人様の結婚のお相手という事ですかぁ?」
「侍女の立場で口を出す事ではないのでないかと…」
「そういう立場とかは一先ず横に置いて。この家に人が増えるんだって考えた時にね、こういう人だったら良いなぁ、っていうの無い?」
 ミモザが何か言おうと口を開いたが、声が出る前にニーアの声が耳に届く。
「ご主人様を第一に考える方でなくてはなりません」
 間延びした喋り方も封印して、はっきりきっぱりと言い切った。
「私達や他人に多少横柄であったり冷酷であっても構いません。ですが、ご主人様を第一に考え、ご主人様に誠意と忠義を尽くし、ご主人様へ愛と真心を捧げる人物でなくてはなりません!」
「………そうかな?」
「絶対にです!」
「…そう」
 ニーアの勢いに押され、ファランは思わず頷いてしまった。
 満足気な顔をして、ニーアは退室していく。
「ミモザ、ちょっと」
 慌てて後を追おうとしたミモザをそっと引き止める。
「はい」
「何か、言いたい事があったのでしょう?」
「あ…その…勿論、ご主人様が納得される方が一番なんですけど。この家の、明るい雰囲気を壊さないような方が良いな、と、思い、ます」
「なるほど。解ったわ。ありがとう」
「いえ。失礼いたします」
 出ていった二人を見送って、いちおう紙面にペンを走らせるが、文字を見て溜息を吐く。
(もうちょっと、具体的な条件が欲しい…)
 今の条件だと会って為人を知らなくてはならない。その前の会う相手を絞り込む条件が欲しかった。
「そうね」
 ファランは自分で自分に一声をかけると、カトレアがいるだろう自室に向かう。
 呼びつけても良いのだし、むしろ呼びつけるのがファランの立場では適切なのだが、つい家の中を動き回ってしまう主人は、今日も家の中が隅々まで綺麗な事に感心しながら目的地に着いた。
「あらカトレア、ここにいたのね。ちょっと良いかしら?」
 案の定室内を清掃していたカトレアに、ちょっと通りかかったついでに聞きたい事があって声をかけたフリをすれば、僅かな沈黙と溜息を挟んで、なんでしょうか、と返事をもらえた。
「この家の旦那様に求める条件って何かあるかしら? できれば、具体的なものを教えて欲しいのだけど」
「お見合いをお考えなのですか?」
「んー…まぁ、そんなところかな」
「然様でございますね…互いの家の関係もありますから、やはり伯爵位以上のお家柄の次子以降の方が望ましいかと。それと、ご姉妹がいらっしゃるですとか」
「姉妹?」
 最初の家柄身分については解るが、姉妹の有無がそんなに重要だろうか、とファランは首を傾げた。
「家の中に女性が居れば、女性がどういった事に時間を使うものなのか、ご理解しているはずですので。マーヴェラス家はご主人様を中心に動く以上、どうしても女性らしい時間の組み方をしております。男性ばかりの家で生活なさっている方は、まずそこを理解するのが大変かと」
「なるほど…」
 そんな考え方が有るのか、とファランは感心する。
「後は…勉強をなさる心積もりのある方なら問題ありませんが。即戦力を、という事であれば、領地経営についても知識のある方が望ましいかと。もちろん実務はレイモンドさんがいらっしゃいますが、いざという時にご主人様の代わりを勤められる方でなくてはなりませんから」
「ふんふん」
「未婚かつ初婚であるべきでしょうし。年齢もあまり離れていない方が良いですよね、せいぜい二十二歳まででしょうか。ご主人様はお立場上人目に触れる機会も多いですから、並んだ際のバランスなども考え――」
(何か、中途採用社員の条件を聞いてる気分になってきた…)
 その後は、あれば望ましい、と前置きした上でいくつか条件が足された。
 とりあえず、前半に出た条件を紙に書き足す。
「うーん…」
 伯爵以上の次子以降で、姉妹がおり、領地経営学などを学んでいるマーヴェラス家の家風、ならびにファランに馴染む男性。
 まとめた条件に、まとめる前よりも眉が寄ってしまった。
(これって、絞れる条件なのかしら? それが解らないわ)
 最終的には、よく解らないという事だけが解り、紙は机の片隅へと追いやられるのだった。
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