若い聖女が現れたから私はお役御免！？それならこっちから婚約破棄します！ ～今更私の力に気づいて戻ってきてと言ってももう遅いです～

魔女とルカ

私が心を決めて魔女と向き合うと、魔女は嬉しそうな顔をして口を開いた。
「まぁ！じゃあ、早く準備しないとね！」
「準備……？」
私達が疑問に思った次の瞬間、魔女はぱちんっと指を鳴らした。
そして、私達の目の前には大きなテーブルと、美味しそうなお茶とお菓子が現れた。
魔女は席に着くと、優雅に紅茶を飲んでいる。
「さぁ、あなた達もどうぞ」
「えっ……いや……」
「安心して？毒なんて入ってないから。ほら、早く座ってください」
エミリアが戸惑っている事に気が付いた魔女は、笑顔でそう言った。
その言葉を聞いて、私達は恐る恐る椅子へと座る。
目の前の魔女は相変わらずニコニコと笑っていて、何を考えているのか全く分からなかった。
「さて、何から聞きたいですか？」
魔女は、そう言いながらティーカップを手に取り、一口飲む。
その姿はとても絵になっていて、彼女が魔女だなんて信じられなかった。
魔女は私と目が合った事が嬉しいのか、口元が少し緩んだ気がした。
「では……まず、貴女は……」
「”マリー”でしょう？」
「…………マリーはあの黒ローブの男の人の事を知っていると言っていましたよね？少しでいいので……知っていることを教えてください」
「そうですねぇ……教えてあげてもいいですけど……ルカの事も教えて欲しいな～なんて」
魔女は、可愛らしく首を傾げながら私を見つめる。
でも、その瞳の奥は鋭く光っていて、嘘は通用しないと言うのが伝わってきた。
それに、ここで断ったとしても彼女はきっと簡単には口を割らないと思う。
私は覚悟を決め、分かりましたと言うと魔女は嬉しそうに笑った。そして、ゆっくり立ち上がりこちらへ近づいてきた。
私は思わず身構えると、魔女はクスリと笑い、私の手を優しく取った。
「私ねずっとルカに会ってみたかったの」
「私にですか……？」
「えぇ、最強の聖女だなんて呼ばれてる貴女に会ってみたかったの、だからこんな風にお話しできてすごく嬉しい！」
魔女はそう言って、私に抱きついてきた。
私よりも身長が高いせいか、彼女の胸にすっぽり収まってしまった。
私は慌てて離れようとしたけれど、私を抱き締めている腕の力は強くなかなか離してくれそうに無かった。
「まぁ…………余計なモノも付いてきたけど…………」
魔女はエミリアとルークを睨みつけながら呟く。
その声は低く、さっきまでの彼女とは違う人のようだった。
すると、私の頬に触れていた手が首筋まで降りてきて、そのままゆっくりと撫でられた。
「ねぇ？こんな子達といないで私の物にならない？貴女の事は大切にするわよ？」
魔女は、甘い声で囁き、まるで誘うように見つめられ、私は何も言えなかった。
そして、魔女はまたくすりと笑うとゆっくりと私から離れていった。
「そんな怖い顔しないで、冗談だから。それで、あの子の事だっけ？いいわ、教えてあげる」
自分の席に戻り、紅茶を一口飲んだ後、魔女は語り出した。
「あの子と出会ったのはそう…………一年前だったからしら」
そう言って、魔女は昔を思い出すかのように遠くを見ながら話し始めた。