人生七回目、さすがにもう疲れたので好きに生きます

木崎優

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番外編

前日談 とある少女の話2

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 それからも男の子は何度か村を訪れるようになり、私はそのたびに水汲みを手伝って、妹の話をよく聞くようになった。
 薬草が効いてくれたおかげで持ち直したという話に、会ったことのない私も嬉しくなる。
 だけど、彼が買っていく薬草は安いものではない。というか、普通に高い。
 このあたりでしか採れず、他の土地だと気風が合わないのか育たないので、結構な値段がする。完全に裕福な家向けの商品だった。

「……大丈夫?」

 会うたび疲れた顔になっていく男の子に不安になる。
 定期的に高い薬草を買っているから、生活が苦しいのかもしれない。それに、他領と村の間を頻繁に行き来しているのだから、どうしても疲れは溜まっていくだろう。
 だけどそう思いながらも、私にできることはなかった。
 薬草の管理は専門の人が行っているので、私程度の、ただの村娘が融通することもできない。
 心配なのにどうにもできず、言葉をかけてあげることしかできない自分に歯がゆくなる。

「うん。大丈夫。他の皆のほうが大変だろうから」
「あまり無理しすぎないほうがいいよ。ほら、水汲んであげたから……あなたも飲んだら?」

 桶を差し出すと、男の子は少し困ったように微笑んだ。
 その顔に、彼が貴族だということを思い出す。

「……綺麗なコップとか、あればよかったんだけど」

 こんな、桶に入ったままの水なんて飲んだことがないだろう。だけど家にあるコップを持ってきたとしても、あまり変わらない。
 貴族が使うような綺麗なコップなんて、私の家にはない。

「ううん、このままでいいよ。ありがとう」

 いたたまれなくなって俯いていると、男の子は桶を受け取り、少しためらながらも口を付けた。


 貴族は皆、おいしいものを食べて、綺麗な服を着て、穏やかに暮らしているのだと思っていた。
 だけど男の子と出会い、言葉を交わし、そうではないことがわかった。

 物語のお姫様はただの夢物語で、穏やかに幸せに暮らしていける保証なんてどこにもないのだと、私は知った。

 ――そんな頃だった。私のお父さんを名乗る人が現れたのは。


 男の子とが着ていたのとは違う、くたびれてもいなければほつれもない綺麗な服を着た男性。それがお父さんなのだと言われても、あまりピンとこなかった。
 娘として連れていきたいと言われても、どんな生活が待っているのかまったく想像できなかった。

 だけどそれでもお父さんと行く道を選んだのは――机の上に置かれたお金が理由だった。

 食うものに困る日もあるけど、これまではお母さんと二人でなんとか生活できていた。
 だけどそれは、私もお母さんも病気になったことがないからだ。もしも、お母さんか私のどちらかが病気になって――男の子の妹みたいに高額な薬が必要になったら、それだけでどうにもならなくなる。

 だから私は置かれたお金だけでなく、万が一のときには追加の援助をしてくれるようにお父さんにお願いした。そうすれば、お母さんが病気になっても、きっとなんとかなるから。

「……お母さん、元気でね」

 ぽろぽろと涙をこぼすお母さんに胸が痛くなりながらも、私はお父さんが乗ってきた馬車に乗りこんだ。


「あの子、ちゃんと水を汲めるかな」

 遠ざかる村を眺めながら、ふと月に一度村に来る男の子のことが頭をよぎる。
 彼はいまだに水が汲めない。私がいなくなったら、彼はどうするのだろう。

「さよならって言えなかったなぁ」

 せめていなくなることぐらいは、伝えたかった。だけどお父さんは急いでいて、彼が来る日を待つこともできなかったことに、私は遠ざかる風景を眺めながら小さくため息を落とした。
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