人生七回目、さすがにもう疲れたので好きに生きます

木崎優

文字の大きさ
28 / 30
番外編

前日談 とある王太子の話2

しおりを挟む
 それから何年か経ち、少しずつ色々なことが変わった。
 僕は自分のことを俺と言うようになったし、父上と母上は以前より忙しくなり、政策の失敗が相次ぐようになった。
 クレイグは相変わらず部屋にいるけど、僕だけが訪ねていた時と違って、最近は他の人たちも彼の部屋を訪れるようになった。

 そして、マクシミリアン様がご存命なら――そんな声すら聞こえてくるようになった。

 第二王子だった父上が王位を継いだ経緯は聞いている。だから、父上の兄を惜しむ声が聞こえてくるのはしかたないことだ。
 声高に主張していないのは、どうしようもないことだと皆わかっているからだろう。

 だが、父上の代はともかくとして、次の代ではどうだろうか。
 賞賛されている父上の兄には、優秀な息子がいる。俺よりもそちらのほうが――クレイグのほうがふさわしいのではないだろうか。
 困ったことがあればクレイグに相談するのは、俺だけではなくなっている。父上の家臣も、行き詰まった時にはクレイグに助言を求めるようになっていた。

 どちらが王にふさわしいのかは、すでに明白なのではないだろうか。

 マクシミリアン様がご存命なら――そんな声の中に、クレイグ殿下のほうがという声が少しずつ増えていくなかで、俺はそんな考えばかりが浮かぶようになっていた。

「父上はともかく、母上は反対するだろうな」

 母上は昔からクレイグのことを快く思っていない。俺がクレイグに王位を譲ると言えば、何か吹き込まれたのかと考えるだろう。

「いっそのこと、悪いことでもしてみるか……」

 国法を犯せば、否応なく王太子の座からは降りることになる。
 だがどうしても、踏み出すことができなかった。そのほうが国のためにも、皆のためにもなるとわかっていなから、決断することができずにいた。


 どうしてなのかは、わかっている。

「ハロルド様、どうかされましたか?」

 淑女教育の成果か慎ましく微笑むようになったクラリス。
 彼女の誕生日には花を贈り、庭園で綺麗な花が咲いた時には誘い、花が好きな彼女のために花の名前も覚えた。

「いや、なんでもない。それよりもこの間――」

 そんな大切な婚約者である彼女のことを、どうしても手放すことができなかった。

「俺は優しいだろう?」

 そして前のように、また優しいと言って笑ってほしかった。
 だけど彼女は慎ましく笑い、同意するだけだ。彼女は家族のために、王太子妃になるために頑張っている。
 慎ましく笑うのも、慎ましく話すのも、彼女が頑張った成果だ。

 前のように、一度だけでもいいから昔の笑顔を見せてほしい、家臣に降ったとしてもついてきてほしい――そう思ってしまうのが間違いだということはわかっている。
 今までの努力を捨てろと言えば彼女は嫌がるだろうし、国法を犯せば優しいとすら言ってくれなくなることは目に見えていた。
 だから俺は、どうしても踏み出せなかった。慎ましい笑みすら見られなくなるのを怖がって。


 国のためを思うのなら、俺は退いたほうがいい。それなのに彼女と共にいたいからという浅ましい理由で、王太子でいつづけた。

 そんな、綿で包まれたような温かい世界で、息苦しさと虚しさばかりが募っていくある日、俺はセシリア嬢と出会った。
しおりを挟む
感想 358

あなたにおすすめの小説

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。