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番外編
前日談 とある王太子の話2
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それから何年か経ち、少しずつ色々なことが変わった。
僕は自分のことを俺と言うようになったし、父上と母上は以前より忙しくなり、政策の失敗が相次ぐようになった。
クレイグは相変わらず部屋にいるけど、僕だけが訪ねていた時と違って、最近は他の人たちも彼の部屋を訪れるようになった。
そして、マクシミリアン様がご存命なら――そんな声すら聞こえてくるようになった。
第二王子だった父上が王位を継いだ経緯は聞いている。だから、父上の兄を惜しむ声が聞こえてくるのはしかたないことだ。
声高に主張していないのは、どうしようもないことだと皆わかっているからだろう。
だが、父上の代はともかくとして、次の代ではどうだろうか。
賞賛されている父上の兄には、優秀な息子がいる。俺よりもそちらのほうが――クレイグのほうがふさわしいのではないだろうか。
困ったことがあればクレイグに相談するのは、俺だけではなくなっている。父上の家臣も、行き詰まった時にはクレイグに助言を求めるようになっていた。
どちらが王にふさわしいのかは、すでに明白なのではないだろうか。
マクシミリアン様がご存命なら――そんな声の中に、クレイグ殿下のほうがという声が少しずつ増えていくなかで、俺はそんな考えばかりが浮かぶようになっていた。
「父上はともかく、母上は反対するだろうな」
母上は昔からクレイグのことを快く思っていない。俺がクレイグに王位を譲ると言えば、何か吹き込まれたのかと考えるだろう。
「いっそのこと、悪いことでもしてみるか……」
国法を犯せば、否応なく王太子の座からは降りることになる。
だがどうしても、踏み出すことができなかった。そのほうが国のためにも、皆のためにもなるとわかっていなから、決断することができずにいた。
どうしてなのかは、わかっている。
「ハロルド様、どうかされましたか?」
淑女教育の成果か慎ましく微笑むようになったクラリス。
彼女の誕生日には花を贈り、庭園で綺麗な花が咲いた時には誘い、花が好きな彼女のために花の名前も覚えた。
「いや、なんでもない。それよりもこの間――」
そんな大切な婚約者である彼女のことを、どうしても手放すことができなかった。
「俺は優しいだろう?」
そして前のように、また優しいと言って笑ってほしかった。
だけど彼女は慎ましく笑い、同意するだけだ。彼女は家族のために、王太子妃になるために頑張っている。
慎ましく笑うのも、慎ましく話すのも、彼女が頑張った成果だ。
前のように、一度だけでもいいから昔の笑顔を見せてほしい、家臣に降ったとしてもついてきてほしい――そう思ってしまうのが間違いだということはわかっている。
今までの努力を捨てろと言えば彼女は嫌がるだろうし、国法を犯せば優しいとすら言ってくれなくなることは目に見えていた。
だから俺は、どうしても踏み出せなかった。慎ましい笑みすら見られなくなるのを怖がって。
国のためを思うのなら、俺は退いたほうがいい。それなのに彼女と共にいたいからという浅ましい理由で、王太子でいつづけた。
そんな、綿で包まれたような温かい世界で、息苦しさと虚しさばかりが募っていくある日、俺はセシリア嬢と出会った。
僕は自分のことを俺と言うようになったし、父上と母上は以前より忙しくなり、政策の失敗が相次ぐようになった。
クレイグは相変わらず部屋にいるけど、僕だけが訪ねていた時と違って、最近は他の人たちも彼の部屋を訪れるようになった。
そして、マクシミリアン様がご存命なら――そんな声すら聞こえてくるようになった。
第二王子だった父上が王位を継いだ経緯は聞いている。だから、父上の兄を惜しむ声が聞こえてくるのはしかたないことだ。
声高に主張していないのは、どうしようもないことだと皆わかっているからだろう。
だが、父上の代はともかくとして、次の代ではどうだろうか。
賞賛されている父上の兄には、優秀な息子がいる。俺よりもそちらのほうが――クレイグのほうがふさわしいのではないだろうか。
困ったことがあればクレイグに相談するのは、俺だけではなくなっている。父上の家臣も、行き詰まった時にはクレイグに助言を求めるようになっていた。
どちらが王にふさわしいのかは、すでに明白なのではないだろうか。
マクシミリアン様がご存命なら――そんな声の中に、クレイグ殿下のほうがという声が少しずつ増えていくなかで、俺はそんな考えばかりが浮かぶようになっていた。
「父上はともかく、母上は反対するだろうな」
母上は昔からクレイグのことを快く思っていない。俺がクレイグに王位を譲ると言えば、何か吹き込まれたのかと考えるだろう。
「いっそのこと、悪いことでもしてみるか……」
国法を犯せば、否応なく王太子の座からは降りることになる。
だがどうしても、踏み出すことができなかった。そのほうが国のためにも、皆のためにもなるとわかっていなから、決断することができずにいた。
どうしてなのかは、わかっている。
「ハロルド様、どうかされましたか?」
淑女教育の成果か慎ましく微笑むようになったクラリス。
彼女の誕生日には花を贈り、庭園で綺麗な花が咲いた時には誘い、花が好きな彼女のために花の名前も覚えた。
「いや、なんでもない。それよりもこの間――」
そんな大切な婚約者である彼女のことを、どうしても手放すことができなかった。
「俺は優しいだろう?」
そして前のように、また優しいと言って笑ってほしかった。
だけど彼女は慎ましく笑い、同意するだけだ。彼女は家族のために、王太子妃になるために頑張っている。
慎ましく笑うのも、慎ましく話すのも、彼女が頑張った成果だ。
前のように、一度だけでもいいから昔の笑顔を見せてほしい、家臣に降ったとしてもついてきてほしい――そう思ってしまうのが間違いだということはわかっている。
今までの努力を捨てろと言えば彼女は嫌がるだろうし、国法を犯せば優しいとすら言ってくれなくなることは目に見えていた。
だから俺は、どうしても踏み出せなかった。慎ましい笑みすら見られなくなるのを怖がって。
国のためを思うのなら、俺は退いたほうがいい。それなのに彼女と共にいたいからという浅ましい理由で、王太子でいつづけた。
そんな、綿で包まれたような温かい世界で、息苦しさと虚しさばかりが募っていくある日、俺はセシリア嬢と出会った。
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