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第五話 死後に届けられる忘却の宝物

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 玄関ドアが開いて、八枝さんが出てくるよりも先に、ハーネスを振り切ったミカンが飛び込んでいく。その様子をほほえましげに眺める八枝さんに招かれて、私たちは和室に通された。

 ローテーブルの前へ誠さんと並んで腰を下ろすと、お盆を持った若い女性が和室へ姿を見せた。

「あっ、菜月さんっ」

 と驚きの声をあげる私に、彼女は目を細めてほほえむ。以前よりも、柔和に笑うようになった彼女は、八戸城菜月さんだった。

 どうやら、私に会わせたい人というのは、菜月さんのことだったみたい。

 菜月さんは、誠さんがお世話になっていた先輩、堤達也の助手として、霊媒の仕事をしていた。

 達也が亡くなり、住む家も仕事もなくなってしまうと悩んでいた彼女が今どう過ごしているのかと心配していたが、連絡を取る手段もなくてやきもきしていた。しかし、その彼女がなぜ八枝さんのお宅にいるのだろう。

「一週間前にね、御影さんが菜月さんを連れてこられて、一晩泊めてやってくれないかというものだから」

 八枝さんが向かいに座ってそう切り出すと、遠慮がちにたたみの上へ正座する菜月さんが頭を下げる。

「一泊のつもりだったのだけれど、よく働くお嬢さんで、つい一週間も引き止めてしまって」

 くすりと八枝さんは自嘲ぎみに笑って、菜月さんへ座布団をすすめる。戸惑いながら、彼女が腰をずらすと、八枝さんはさらに続けた。

「菜月さんをこの家に住まわせようと思うの。もちろん、お仕事が見つかって、菜月さんが出ていきたいというなら引き止めるつもりはないのだけど」
「ありがとうございます」

 誠さんはすんなりと頭を下げる。まるで、最初からそのつもりで、菜月さんを紹介したみたい。

「あの、本当によろしいんでしょうか」

 不安げに、菜月さんが言う。

「ええ、かまいませんよ。こうして時折、御影さんが来てくれるけれど、私も独り身ですし、菜月さんのようなかわいらしいお嬢さんが側にいてくれたら心強いわ」

 恐縮そうに肩をすぼめる菜月さんが、ちらりと私を見る。

 彼女とはずっと仲良くしたいと思っていた。天目に暮らしてくれるなら、いつだって会えるし、お話もたくさんできる。うれしくなってほほえみかけると、彼女の気持ちも同じだったのだろうか、ほほえみ返してくれた。

「荷物はもう片付きましたか?」

 誠さんが菜月さんにそう尋ねたとき、キッチンの方から機械的なメロディが流れてきた。

「あら、電話。珍しいこと」

 ちょっとごめんなさいね、と言って腰をあげた八枝さんが部屋を出ていく。すると、今度は庭の方から「ギャーギャー」という、けんかするような、泣きわめくような悲鳴が聞こえた。

 びっくりして誠さんと目を合わせると、「ミカンとマヨイくんでしょうか」と彼は言う。

「ちょっと見てきます」

 すぐに立ち上がり、私も廊下へ出ると、鳴き声の聞こえる庭の奥へと向かった。
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