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観覧車の終点、中天の星

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 水族館を出て、僕らは観覧車に乗った。
 まだ日の長い夏の、欠けた日中の隙間から夕方が見え始める。
 高い所と狭い所が苦手な僕にとって、観覧車はコスパの良い地獄でしかない。

「いやー綺麗でしたね水族館。アタシ将来水族館の飼育員になろっかな~」

 対面に座った氷雨が、足元の水族館に瞳を輝かせる。
 僕は目をつむって返した。

「生き物が好きなんだな」
「そりゃ好きっスよ。よぎセンみたいにひねくれてなきゃね」
「僕は人間が嫌いなだけだ。人並みに動物はかわいいと思う」
「えー。人間も愛してくださいよ~」
「無理だね。出来ても、ほんの一部だけだ」
「ふーん」

 猫も好きだし、犬も好きだ。爬虫類は少し怖いけれど、それでも触れと言われれば触れられる。
 薄っすらと目を開けると、氷雨の顔が近いところにあった。

「じゃあ、アタシとかどっスか?」

 一瞬、呼吸を忘れる。
 うなじを照りつける真夏が、体を火照らせていく。ヘーゼルの瞳に釘付けになった僕の耳に、叫びだしそうな心臓の音が聞こえた。
 深呼吸を挟む。そして言葉を探す。

「そうだな」

 ここで答えを間違えてはいけない。
 僕は出来るだけ丁寧にはにかんで、氷雨の額を弾いた。

「そんな情熱的な告白をされちゃ、僕も照れるよ」
「全っ然照れてないくせに、よく言いますね~」

 氷雨が唇を尖らせる。
 その仕草にすら、弱虫な僕の心臓は音を上げた。

「人殺しとの恋なんて、ろくなもんじゃないぞ」
「だったら、ちょーどいいよくないスか? アタシだって人殺しなんですし。ね?」

 氷雨が急に席を立って、微かにゴンドラが揺れる。
 僕はとっさに目をつむった。
 華やかで、けれど落ち着いた香りの香水が鼻先をかすめる。
 目を開けると、氷雨が僕の隣に映っていた。

「ねぇ、よぎセン」

 少し鼻にかかった声が、僕の鼓膜を甘く食む。
 触れ合った肩は、水槽を見上げた時よりもずっと熱かった。

「もう諦めて、素直に好きって言わせてくださいよ」

 体の芯が急激に熱を帯びて、頭がくらりと揺れた。
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