51 / 119
観覧車の終点、中天の星
1
しおりを挟む
水族館を出て、僕らは観覧車に乗った。
まだ日の長い夏の、欠けた日中の隙間から夕方が見え始める。
高い所と狭い所が苦手な僕にとって、観覧車はコスパの良い地獄でしかない。
「いやー綺麗でしたね水族館。アタシ将来水族館の飼育員になろっかな~」
対面に座った氷雨が、足元の水族館に瞳を輝かせる。
僕は目をつむって返した。
「生き物が好きなんだな」
「そりゃ好きっスよ。よぎセンみたいにひねくれてなきゃね」
「僕は人間が嫌いなだけだ。人並みに動物はかわいいと思う」
「えー。人間も愛してくださいよ~」
「無理だね。出来ても、ほんの一部だけだ」
「ふーん」
猫も好きだし、犬も好きだ。爬虫類は少し怖いけれど、それでも触れと言われれば触れられる。
薄っすらと目を開けると、氷雨の顔が近いところにあった。
「じゃあ、アタシとかどっスか?」
一瞬、呼吸を忘れる。
うなじを照りつける真夏が、体を火照らせていく。ヘーゼルの瞳に釘付けになった僕の耳に、叫びだしそうな心臓の音が聞こえた。
深呼吸を挟む。そして言葉を探す。
「そうだな」
ここで答えを間違えてはいけない。
僕は出来るだけ丁寧にはにかんで、氷雨の額を弾いた。
「そんな情熱的な告白をされちゃ、僕も照れるよ」
「全っ然照れてないくせに、よく言いますね~」
氷雨が唇を尖らせる。
その仕草にすら、弱虫な僕の心臓は音を上げた。
「人殺しとの恋なんて、ろくなもんじゃないぞ」
「だったら、ちょーどいいよくないスか? アタシだって人殺しなんですし。ね?」
氷雨が急に席を立って、微かにゴンドラが揺れる。
僕はとっさに目をつむった。
華やかで、けれど落ち着いた香りの香水が鼻先をかすめる。
目を開けると、氷雨が僕の隣に映っていた。
「ねぇ、よぎセン」
少し鼻にかかった声が、僕の鼓膜を甘く食む。
触れ合った肩は、水槽を見上げた時よりもずっと熱かった。
「もう諦めて、素直に好きって言わせてくださいよ」
体の芯が急激に熱を帯びて、頭がくらりと揺れた。
まだ日の長い夏の、欠けた日中の隙間から夕方が見え始める。
高い所と狭い所が苦手な僕にとって、観覧車はコスパの良い地獄でしかない。
「いやー綺麗でしたね水族館。アタシ将来水族館の飼育員になろっかな~」
対面に座った氷雨が、足元の水族館に瞳を輝かせる。
僕は目をつむって返した。
「生き物が好きなんだな」
「そりゃ好きっスよ。よぎセンみたいにひねくれてなきゃね」
「僕は人間が嫌いなだけだ。人並みに動物はかわいいと思う」
「えー。人間も愛してくださいよ~」
「無理だね。出来ても、ほんの一部だけだ」
「ふーん」
猫も好きだし、犬も好きだ。爬虫類は少し怖いけれど、それでも触れと言われれば触れられる。
薄っすらと目を開けると、氷雨の顔が近いところにあった。
「じゃあ、アタシとかどっスか?」
一瞬、呼吸を忘れる。
うなじを照りつける真夏が、体を火照らせていく。ヘーゼルの瞳に釘付けになった僕の耳に、叫びだしそうな心臓の音が聞こえた。
深呼吸を挟む。そして言葉を探す。
「そうだな」
ここで答えを間違えてはいけない。
僕は出来るだけ丁寧にはにかんで、氷雨の額を弾いた。
「そんな情熱的な告白をされちゃ、僕も照れるよ」
「全っ然照れてないくせに、よく言いますね~」
氷雨が唇を尖らせる。
その仕草にすら、弱虫な僕の心臓は音を上げた。
「人殺しとの恋なんて、ろくなもんじゃないぞ」
「だったら、ちょーどいいよくないスか? アタシだって人殺しなんですし。ね?」
氷雨が急に席を立って、微かにゴンドラが揺れる。
僕はとっさに目をつむった。
華やかで、けれど落ち着いた香りの香水が鼻先をかすめる。
目を開けると、氷雨が僕の隣に映っていた。
「ねぇ、よぎセン」
少し鼻にかかった声が、僕の鼓膜を甘く食む。
触れ合った肩は、水槽を見上げた時よりもずっと熱かった。
「もう諦めて、素直に好きって言わせてくださいよ」
体の芯が急激に熱を帯びて、頭がくらりと揺れた。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
15
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる