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観覧車の終点、中天の星

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 その言葉が、単なる友人へ贈られたものでないのはわかっていた。
 だからこそ僕は、言葉を喉に詰まらせる。

「君にそれを言わせるだけの理由が、僕に」
「あー。いーんスよ、そゆの」

 氷雨の意外に小さな手のひらが、僕の頭の上に優しく置かれる。
 言い聞かせるような優しい声だった。きっと親に愛された子供が、寝る前に聞かされる絵本の朗読みたいに。氷雨は柔らかく微笑んだ。

「意味も理由も、後から着いてくるものじゃないっスか。だから今、そゆのなしでお願いします」

 柔らかな手の温もりが、僕の頭を優しく撫でる。
 背中から後頭部にかけてゾクゾクと熱が伝わって、視界の端が微かにぼやけたような気がした。

「それなら、代わりに一つ教えてくれないか」

 一度強く目をつむってから、僕は氷雨の手を取る。

「おっ、いいっスよー。もうなんでも答えたげます」
「君が自殺させた同級生について教えてくれ」

 氷雨に惹かれている自分も、確かに存在する。
 けれど本質に近いところでは、僕は氷雨を信用しきれていない。
 彼女を信用しようとするのは間違いなのだろうか。二人にとって不要なことなのだろうのか。
 かつての事件を口にすると、氷雨は弱々しく笑った。

「あー、ハハ。やっぱ、そこ気になりますよね」

 氷雨の顔を見ると、近頃やけに胸が痛む。
 いつもながら、わかりやすくて陳腐な反応だと思う。僕は自分自身を落ち着かせる意味も込めて、長い言葉で注釈を入れる。

「あくまで君を理解するためだ。人殺しに惹かれる女の子がいて、その子に自分も惚れていたとしたら、何でもいいから知りたいと思うのは当然だろう?」

 慣れないセリフをいくつか吐くと、氷雨の表情が微かに和らぐ。

「いいっスよ、教えたげます」

 観覧車は中天をとっくに過ぎて、ゆっくりと終点に近づいていた。
 足の震えが徐々に収まってくる。氷雨は僕の足元を見て、ニンマリと笑った。

「でも、それはウチに帰ってからっスね」
「ここじゃなダメなのか?」
「二周目に突入してもいいなら、いくらでも話します」
「降りよう」

 ちょうど係員が見えてきたところで、話を切り上げる。
 逃げ場のないゴンドラは棺桶を思わせる。
 僕は扉が開いた瞬間に外に出て、氷雨を待つ。
 彼女は優雅に「とうっ」と叫びながら飛び降りて、僕の前に出た。

「やー、楽しかったっスね~。ビビリ先輩」

 氷雨が振り返ってくる。
 弱点を見つけられるのは面白くない。僕は目をそらして、わざとらしい舌打ちを送った。

「ああそうだな。情熱的な告白も聞けたことだし、とても得るものの多い棺桶だった」
「アタシもアタシも。告白された時のよぎセン顔、貴重でしたわ~」
「僕はそんな顔してない」
「いやいやぁ~。あんなかわいい顔できるんスね~」

 僕らは憎まれ口を叩きながら、元来た道を辿って駅に向かう。
 地元の駅にたどり着く頃には、夜が少しずつ滲み出していた。
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