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第七話「初めての学校生活と護衛対象について」
歓天喜地高等学校
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私立歓天喜地高等学校。設立してからまだ十年と少しと言った校舎は、巨大な台形と長方形を組み合わせたような形をしていた。遠目から見ると愛媛城とか、大阪城と言った日本的な城のようだった。
後者を見上げていた比乃が、鯱鉾でも屋根に乗っかっていたら完璧である……と思った所に、屋上の隅に金色の狛犬らしき物が見えてしまい、比乃は「うっ」と呻いた。
そして校門もかなり異質であった、ICカードのタッチパネルらしきものがついた柱がズラリと並んでいて、まるで駅の改札のようになっている。その横から長く伸びる塀、その上にはねずみ返しまで付いており、本当に城壁のようであった。
「対テロ対策の一環なのかな……?」
「それにしては随分古風ですけど……」
ともかく、一行がタッチパネルに学生証をかざすと『ピッ』という電子音と共に改札が開いた。比乃は去年行った東京駅を思い出した。
(きっとラッシュタイムはすごいことになってるんだろうなぁ)
と、これからも少し早めに家を出ることを心に決めた。そうして校舎に入り、暗記して来たパンフレットの地図を頼りに歩く。数分ほど歩いて、妙に豪華絢爛な扉。プレートに『校長室』と書いてある扉の前にたどり着いた。
比乃の隣でメアリが「ジャックのカーテナみたいですね」と呟いたりするほど、その扉は派手であった。美術館で展示したら「天国の門」とかついてそうである。他の部屋の扉が普通なだけに、存在感が殊更強い。
しかし、いつまでも扉の前で立っているわけにはいかないので、意を決してノックする。すると間髪入れずに、中から「どうぞぉ!」という大声が返ってきた。
各々が「失礼します」と言って部屋に入る。外側の扉とは相対的に、室内は落ち着いた雰囲気だった。床に真っ赤なカーペットが敷き詰められ、少し金が多めの調度品が並べられているくらいだ。そう感じた比乃は、自分の感覚が早速麻痺していることに気付いていない。
そして、部屋の奥の重厚な木製机の後ろの椅子。背もたれが異様に高いそれに座った、小太りの男性がいた。
あだ名をつけるなら七福神、ちょんまげがついたらお殿様だろう、そんな感じの柔和な顔で、頭部をつるりと光らせていた。
「いやぁ待っておったよ! 君たちが日野辺くんの子供達と、英国から来た御一行だな! ワシは校長の有頂天という。ようこそ歓天喜地高校へ、歓迎するぞ!」
言って「ぬわあっはっはっは」と大笑いする。目の前に一国の王女がいるというのに凄い態度であったが、メアリはむしろ、面白いとくすくす笑っていた。
「笑う角には福来るってな、言うしな! もっと笑え笑え!」
本当にすごい態度だなぁと、比乃が思っているのを顔を見て察したのか、有頂天校長はにんまりとした笑みを浮かべる。
「この学校の生徒になったからには、王女だろうが自衛官だろうが関係無い! 皆、わしの学校の生徒である。面倒なことは大人に任せて、思う存分に勉学と青春に溢れる学校生活を楽しみたまえよ!」
高々に叫ぶと、どこからか赤に金箔を撒き散らしたド派手な扇子を取り出して「ぬわはははは」と椅子に座ったまま回転し始めた。ついでに、扇子からどういう仕掛けなのか紙吹雪も出てくる。
比乃を除く四人は「おおーっ」と拍手しているが、比乃は一人、顎に手をやってで考える。
(……東京は変人の巣窟なのだろうか)
比乃は訝しんだ。
***
数分後、担任になると言う男性教師に連れられて教室に入ると、中にいた生徒たちがざわついていた。
それもそうだろう。明らかな外国人が二人(しかも美人)に、高校生にしては背が低いが、長髪ツインテールなんて髪型をしている女子と、アルビノの白い髪と赤い瞳をした男子がぞろぞろと入って来たのだ。日本では中々見れない面子である。
ちなみに、比乃はなんとなく最後に入ったのとその容姿の地味さから、あまり注目されなかった。精々、足元から聞こえた機械音に近くの席の生徒が「ん?」と疑問の声を漏らしたくらいである。
「はい、全員静かにしろ! かなーりレアケースだが、今年からこのクラスに五人もクラスメートが加わることになったので、紹介するぞ!」
そのざわめきを諌めようと、教師が出席簿で教壇をバシリと叩く。早く紹介してほしいのか、二年A組の一同は口をつぐんだ。
「よし、えーでは……入って来た順番でアレクサンダさんから自己紹介して」
「はい」
偽名であるアレクサンダと呼ばれたメアリが、一歩前に出る。その一動作でさえも気品に溢れていて、クラスの男子が「おお……」「すげぇ、マジモンのパツキンだぜ」「ふつくしい……」などと慄く。
「メアリー・アレクサンダーです。気軽にメアリと呼んでください、仲良くしていただければ幸いです」
よく通る声で言って、一礼する。その礼もどこか高貴で、女生徒らもごくりと生唾を呑む。そしてメアリが一歩下がると、今度は「次は私だね!」とアイヴィーが前に出る。その高校生離れしたスタイルに、男子勢はやはり「おおーっ」と小さく歓声をあげた。
「アイヴィー・ヴィッカースだよ! メアリとは幼馴染なんだ、共々よろしく!」
と片手を高く挙げながら元気よく挨拶した。その際に弾んだ豊満なそれを見た男子が『うぉぉぉ……!』と嬌声をあげて、女子から白い目を向けられた。
ともかく、開幕から外国人の、それも美少女の転入生ということで、クラスの、主に男子からは歓迎された。女子からの視線も、美人に見惚れているといった様子で、悪感情は抱かれていないようだった。自己紹介にしては上出来だろう。
そして、比乃が先程から内心で「どうか変な事を言いませんように」と祈っている二人に、順番が回って来た。
「静かに! まだ三人いるからな、それじゃあ浅野さん、自己紹介を」
「ん……」
先の二人と打って変わって、動きからして物静かな心視が、教師に促されて一歩前に出る。
「浅野 心視……以上」
そう言って、さっさと元の位置に戻って黙り込んでしまった。自分の名前を名乗っただけのあいさつに、教師が「それだけ?」と聞いても「……それだけ」としか答えない。
また若干教室がざわつくが、ほとんどが「クール系ロリ……」「良いな……」「良い……」という男子勢の声だった。女子の「あの三人ちっちゃくて可愛くない?」などと言った声もあった。
数人の女子が「根暗よ根暗、やーね」などと懐疑的な事を言っていたが、それでも小動物を見るような目をしているのを隠せていない。
「次は俺か先生!」
「元気がいいな、では白間くん」
教師に促され、「はい!」と先ほどの心視とは対照的に元気良く前に出た志度が大声を出した。
「白間 志度です! 東京には初めて来たからわからないことが沢山あるけど、どうかよろしくお願いします! 」
と言って、ぺこりを頭を下げた、心視に比べるとかなりまともな挨拶であった。比乃はほっと胸を撫で下ろした。が、
「あと、殺したければダンプカーで来てください!」
最後の一言でずっこけそうになった。事前の予習で変なことを言うなとがっつりと言ったのに、比乃は頭を抱えたくなった。先日、ほぼ徹夜で行われた自己紹介の練習が、二人揃って全くと言っていいほど役に立っていない。
しかし、生徒たちは「ダンプカー?」「あれだろ、運動が得意とか、体が丈夫みたいな」「ちょっとバカっぽいけど、結構可愛い顔してない?」とじゃ、たまにいる頭をが弱い系だろうと、なぜか好意的に受け止めていた。
「はっはっはっ、先生、面白い冗談は嫌いじゃないぞ。それじゃあ最後に日比野くん」
「あー、はい」
同僚二人がなんとかクラスに受け入れられたことに安堵しつつ、最後に比乃が前に出る。これまでの四人に比べると地味な容姿だが、それでも整った中性的な顔と、どこか達観した大人が持つ、落ちついた雰囲気が、ごく一部の女子のハートを掴みかけた。
「日比野 比乃です。今の二人とは幼馴染で、そっちの外国人二人とは一応知人です。もし心視や志度が何かやらかしたら僕に言ってください、処理しておきます。よろしくお願いします」
言った直後、処理しておきます。は流石に言い過ぎたかと、少しどきっとしたが、
「処理しておくって?」
「あれだろ、尻拭い役なんだよきっと、苦労人の顔してるぜ」
「ちょっと地味目だけど、彼も悪くない顔してるね」
「ああ……俺の好みだ」
やはり不審がられたり引かれることもなく受け入れられた。このクラスの寛容性に、比乃は安心するよりも、別のことを心配し始めた。
(ちょっと懐深すぎない、このクラス?)
比乃は少し不安になった。適応能力、許容性が高いということは、すでにクラスに問題児、ないし変人がいる可能性が高いのでは?
実を言えば、そう考えた比乃の予想は的中していた。この新クラスでも問題児、あるいはトラブルメイカーと呼ばれる、男女二人組が存在する。そして、未だに姿を現していなかったその二人は、今、慌てて教室に飛び込んできた。
「すいません! 遅れましたぁ!」
ちょうど比乃の目の前に倒れこむようにして来た二人は、片方は見知らぬ男子生徒。そしてもう一人、その生徒にしがみついている女子は……部隊長に聞かされていた護衛対象だった。顔写真と特徴が合致している。
そんな中、その男子を見たメアリの目が大きく見開かれたのに気付いた者はいなかった。
何を隠そう、その男子は去年、メアリと俗に言う『英国の休日』をやらかした探し人。有明(アリアケ) 晃(アキラ)だったのだ。だが、一瞬喜びに満ちた瞳が、スッと、見る者に寒気を催すように冷たい視線になって、その腰にぶら下がっている女子生徒へ品定めするように向けた。
幸運にも、今そちらを見ている生徒はいなかったが、もしも見た者がいればこう言っただろう。
『昼ドラで泥棒猫を見る妻みたいな目をしていた』
後者を見上げていた比乃が、鯱鉾でも屋根に乗っかっていたら完璧である……と思った所に、屋上の隅に金色の狛犬らしき物が見えてしまい、比乃は「うっ」と呻いた。
そして校門もかなり異質であった、ICカードのタッチパネルらしきものがついた柱がズラリと並んでいて、まるで駅の改札のようになっている。その横から長く伸びる塀、その上にはねずみ返しまで付いており、本当に城壁のようであった。
「対テロ対策の一環なのかな……?」
「それにしては随分古風ですけど……」
ともかく、一行がタッチパネルに学生証をかざすと『ピッ』という電子音と共に改札が開いた。比乃は去年行った東京駅を思い出した。
(きっとラッシュタイムはすごいことになってるんだろうなぁ)
と、これからも少し早めに家を出ることを心に決めた。そうして校舎に入り、暗記して来たパンフレットの地図を頼りに歩く。数分ほど歩いて、妙に豪華絢爛な扉。プレートに『校長室』と書いてある扉の前にたどり着いた。
比乃の隣でメアリが「ジャックのカーテナみたいですね」と呟いたりするほど、その扉は派手であった。美術館で展示したら「天国の門」とかついてそうである。他の部屋の扉が普通なだけに、存在感が殊更強い。
しかし、いつまでも扉の前で立っているわけにはいかないので、意を決してノックする。すると間髪入れずに、中から「どうぞぉ!」という大声が返ってきた。
各々が「失礼します」と言って部屋に入る。外側の扉とは相対的に、室内は落ち着いた雰囲気だった。床に真っ赤なカーペットが敷き詰められ、少し金が多めの調度品が並べられているくらいだ。そう感じた比乃は、自分の感覚が早速麻痺していることに気付いていない。
そして、部屋の奥の重厚な木製机の後ろの椅子。背もたれが異様に高いそれに座った、小太りの男性がいた。
あだ名をつけるなら七福神、ちょんまげがついたらお殿様だろう、そんな感じの柔和な顔で、頭部をつるりと光らせていた。
「いやぁ待っておったよ! 君たちが日野辺くんの子供達と、英国から来た御一行だな! ワシは校長の有頂天という。ようこそ歓天喜地高校へ、歓迎するぞ!」
言って「ぬわあっはっはっは」と大笑いする。目の前に一国の王女がいるというのに凄い態度であったが、メアリはむしろ、面白いとくすくす笑っていた。
「笑う角には福来るってな、言うしな! もっと笑え笑え!」
本当にすごい態度だなぁと、比乃が思っているのを顔を見て察したのか、有頂天校長はにんまりとした笑みを浮かべる。
「この学校の生徒になったからには、王女だろうが自衛官だろうが関係無い! 皆、わしの学校の生徒である。面倒なことは大人に任せて、思う存分に勉学と青春に溢れる学校生活を楽しみたまえよ!」
高々に叫ぶと、どこからか赤に金箔を撒き散らしたド派手な扇子を取り出して「ぬわはははは」と椅子に座ったまま回転し始めた。ついでに、扇子からどういう仕掛けなのか紙吹雪も出てくる。
比乃を除く四人は「おおーっ」と拍手しているが、比乃は一人、顎に手をやってで考える。
(……東京は変人の巣窟なのだろうか)
比乃は訝しんだ。
***
数分後、担任になると言う男性教師に連れられて教室に入ると、中にいた生徒たちがざわついていた。
それもそうだろう。明らかな外国人が二人(しかも美人)に、高校生にしては背が低いが、長髪ツインテールなんて髪型をしている女子と、アルビノの白い髪と赤い瞳をした男子がぞろぞろと入って来たのだ。日本では中々見れない面子である。
ちなみに、比乃はなんとなく最後に入ったのとその容姿の地味さから、あまり注目されなかった。精々、足元から聞こえた機械音に近くの席の生徒が「ん?」と疑問の声を漏らしたくらいである。
「はい、全員静かにしろ! かなーりレアケースだが、今年からこのクラスに五人もクラスメートが加わることになったので、紹介するぞ!」
そのざわめきを諌めようと、教師が出席簿で教壇をバシリと叩く。早く紹介してほしいのか、二年A組の一同は口をつぐんだ。
「よし、えーでは……入って来た順番でアレクサンダさんから自己紹介して」
「はい」
偽名であるアレクサンダと呼ばれたメアリが、一歩前に出る。その一動作でさえも気品に溢れていて、クラスの男子が「おお……」「すげぇ、マジモンのパツキンだぜ」「ふつくしい……」などと慄く。
「メアリー・アレクサンダーです。気軽にメアリと呼んでください、仲良くしていただければ幸いです」
よく通る声で言って、一礼する。その礼もどこか高貴で、女生徒らもごくりと生唾を呑む。そしてメアリが一歩下がると、今度は「次は私だね!」とアイヴィーが前に出る。その高校生離れしたスタイルに、男子勢はやはり「おおーっ」と小さく歓声をあげた。
「アイヴィー・ヴィッカースだよ! メアリとは幼馴染なんだ、共々よろしく!」
と片手を高く挙げながら元気よく挨拶した。その際に弾んだ豊満なそれを見た男子が『うぉぉぉ……!』と嬌声をあげて、女子から白い目を向けられた。
ともかく、開幕から外国人の、それも美少女の転入生ということで、クラスの、主に男子からは歓迎された。女子からの視線も、美人に見惚れているといった様子で、悪感情は抱かれていないようだった。自己紹介にしては上出来だろう。
そして、比乃が先程から内心で「どうか変な事を言いませんように」と祈っている二人に、順番が回って来た。
「静かに! まだ三人いるからな、それじゃあ浅野さん、自己紹介を」
「ん……」
先の二人と打って変わって、動きからして物静かな心視が、教師に促されて一歩前に出る。
「浅野 心視……以上」
そう言って、さっさと元の位置に戻って黙り込んでしまった。自分の名前を名乗っただけのあいさつに、教師が「それだけ?」と聞いても「……それだけ」としか答えない。
また若干教室がざわつくが、ほとんどが「クール系ロリ……」「良いな……」「良い……」という男子勢の声だった。女子の「あの三人ちっちゃくて可愛くない?」などと言った声もあった。
数人の女子が「根暗よ根暗、やーね」などと懐疑的な事を言っていたが、それでも小動物を見るような目をしているのを隠せていない。
「次は俺か先生!」
「元気がいいな、では白間くん」
教師に促され、「はい!」と先ほどの心視とは対照的に元気良く前に出た志度が大声を出した。
「白間 志度です! 東京には初めて来たからわからないことが沢山あるけど、どうかよろしくお願いします! 」
と言って、ぺこりを頭を下げた、心視に比べるとかなりまともな挨拶であった。比乃はほっと胸を撫で下ろした。が、
「あと、殺したければダンプカーで来てください!」
最後の一言でずっこけそうになった。事前の予習で変なことを言うなとがっつりと言ったのに、比乃は頭を抱えたくなった。先日、ほぼ徹夜で行われた自己紹介の練習が、二人揃って全くと言っていいほど役に立っていない。
しかし、生徒たちは「ダンプカー?」「あれだろ、運動が得意とか、体が丈夫みたいな」「ちょっとバカっぽいけど、結構可愛い顔してない?」とじゃ、たまにいる頭をが弱い系だろうと、なぜか好意的に受け止めていた。
「はっはっはっ、先生、面白い冗談は嫌いじゃないぞ。それじゃあ最後に日比野くん」
「あー、はい」
同僚二人がなんとかクラスに受け入れられたことに安堵しつつ、最後に比乃が前に出る。これまでの四人に比べると地味な容姿だが、それでも整った中性的な顔と、どこか達観した大人が持つ、落ちついた雰囲気が、ごく一部の女子のハートを掴みかけた。
「日比野 比乃です。今の二人とは幼馴染で、そっちの外国人二人とは一応知人です。もし心視や志度が何かやらかしたら僕に言ってください、処理しておきます。よろしくお願いします」
言った直後、処理しておきます。は流石に言い過ぎたかと、少しどきっとしたが、
「処理しておくって?」
「あれだろ、尻拭い役なんだよきっと、苦労人の顔してるぜ」
「ちょっと地味目だけど、彼も悪くない顔してるね」
「ああ……俺の好みだ」
やはり不審がられたり引かれることもなく受け入れられた。このクラスの寛容性に、比乃は安心するよりも、別のことを心配し始めた。
(ちょっと懐深すぎない、このクラス?)
比乃は少し不安になった。適応能力、許容性が高いということは、すでにクラスに問題児、ないし変人がいる可能性が高いのでは?
実を言えば、そう考えた比乃の予想は的中していた。この新クラスでも問題児、あるいはトラブルメイカーと呼ばれる、男女二人組が存在する。そして、未だに姿を現していなかったその二人は、今、慌てて教室に飛び込んできた。
「すいません! 遅れましたぁ!」
ちょうど比乃の目の前に倒れこむようにして来た二人は、片方は見知らぬ男子生徒。そしてもう一人、その生徒にしがみついている女子は……部隊長に聞かされていた護衛対象だった。顔写真と特徴が合致している。
そんな中、その男子を見たメアリの目が大きく見開かれたのに気付いた者はいなかった。
何を隠そう、その男子は去年、メアリと俗に言う『英国の休日』をやらかした探し人。有明(アリアケ) 晃(アキラ)だったのだ。だが、一瞬喜びに満ちた瞳が、スッと、見る者に寒気を催すように冷たい視線になって、その腰にぶら下がっている女子生徒へ品定めするように向けた。
幸運にも、今そちらを見ている生徒はいなかったが、もしも見た者がいればこう言っただろう。
『昼ドラで泥棒猫を見る妻みたいな目をしていた』
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