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食事
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囲炉裏に火を入れて灰に串を突き刺して炙っていく。
仲居さんやシェフを呼びつける事を私が断ったから、私が給仕をするのは当たり前だ。
面倒じゃない?と野上さんはいうけれど、それはあまり苦には感じない。
「隣の居酒屋で散々扱き使われるから慣れちゃったのかもしれません。」
「ああ、幼馴染の家の。」
小さい頃からおたがいの家を行き来してきた。
特に一番よく手伝わされたのが中学生から高校生に掛けての頃だ。
部活に塾…夕方や夜に家に帰っても食べられる物はほとんどない。
店で忙しい私の両親の仕事はその時間帯は佳境だから。
「おばちゃん、何かある?」
と当たり前のように賄いを食べさせてもらい、お礼がわりに仕込みや洗い物を手伝っていた。
正規労働ができる年齢になると注文を受けたり料理や飲み物を運んだり…。
逆に小学生までは拓郎や芳兄達は夜になると我が家に来ていた。
我が家で風呂に入り、我が家で勉強して、我が家の布団で寝ていた。
朝、岸野のおじさんとおばさんは起きては来ない、いや来れない。だから朝ごはんを食べさせて学校に送り出すのは母の役目だった。
「まるで家族だね。」
「…そうですね。」
よく続いたな、と思う。それだけ両親、特に母親同士の仲は良かった。
そうしなければどちらの家も破綻してた、と母達は今でも笑って話す。
子供を夜中に見てくれる私の母がいなかったら…夕方に保育園に迎えに行ける岸野のおばさんがいなかったら…。
きっと私達は寂しい思いをたくさんしていたに違いない。
そうして出来上がったのが今の形。
もうどちらの家も子育てには全く手が掛からない。寧ろ居酒屋には芳兄が、美容室にはアコ姉が入れるから、疎遠になってもおかしくはないんだけど。
「もう習慣になっちゃってますね。
忙しければ誰かが手伝うのが。」
居酒屋だけではなく、我が家に帰ると拓郎や芳兄が美容室の床を履いている、タオルやケープを洗っているなんてザラだった。
逆も然り、だ。
そんな話をしながら、甲斐甲斐しく焼けた串を野上さんの前の皿に移したり、ビールのお代わりを注いだり、やっていることはまるでスナックのママみたい。
だけど、野上さんはなんだかとても楽しそうだ。
「俺がユキをもてなそうと思ってたのに…。」
「十分にもてなして貰ってますよ?」
こんなに高級な宿に車で連れてきてくれて、豪華な食事を食べさせてくれてる。
囲炉裏の炎のせいかもしれないけれど、頬が火照るからか、お酒の酔いが回るのが早そうだ。
注がれそうになったビールをあわてて断わる。
「もう水にしときます。」
「ユキは下戸なの?いつもあんまり飲まないね。」
「これでも大分飲めるようにはなったんですよ。」
初めは薄めのサワー半分で酔い潰れた。
それから少しずつ量を飲めるようになった。苦手なビールはグラス半分、頑張って一杯くらいまでならなんとかお付き合いは出来るくらいにまでは鍛えられた。
「一応モデルですから、浮腫むのは避けたいんですよ。」
「明日…撮影ないよね?」
こういうのは日々の積み重ねが大切なんです!と頬を膨らませてみせると、野上さんは楽しそうに笑う。
…なんでこんなに楽しそうなのかなぁ。
もっとたくさんの女の人と適当に遊びまくっているのかと思っていたのに。
初対面の印象は当てにならない。
お手軽テイクアウトされた…と思ったのに。
いつのまにか野上さんは私の中にスッと入り込んでいて、なかなか出て行ってはくれなさそうだ。
…さっき思い知った。
いつか来ると思っていたお別れの日がドンっと目の前にやってきたと思った時…。
私はこの日、野上さんが色々と私にしてくれる事に心地良さを覚えて、もっともっとと欲してしまうようになってしまった事に、私は気付いてしまった。
仲居さんやシェフを呼びつける事を私が断ったから、私が給仕をするのは当たり前だ。
面倒じゃない?と野上さんはいうけれど、それはあまり苦には感じない。
「隣の居酒屋で散々扱き使われるから慣れちゃったのかもしれません。」
「ああ、幼馴染の家の。」
小さい頃からおたがいの家を行き来してきた。
特に一番よく手伝わされたのが中学生から高校生に掛けての頃だ。
部活に塾…夕方や夜に家に帰っても食べられる物はほとんどない。
店で忙しい私の両親の仕事はその時間帯は佳境だから。
「おばちゃん、何かある?」
と当たり前のように賄いを食べさせてもらい、お礼がわりに仕込みや洗い物を手伝っていた。
正規労働ができる年齢になると注文を受けたり料理や飲み物を運んだり…。
逆に小学生までは拓郎や芳兄達は夜になると我が家に来ていた。
我が家で風呂に入り、我が家で勉強して、我が家の布団で寝ていた。
朝、岸野のおじさんとおばさんは起きては来ない、いや来れない。だから朝ごはんを食べさせて学校に送り出すのは母の役目だった。
「まるで家族だね。」
「…そうですね。」
よく続いたな、と思う。それだけ両親、特に母親同士の仲は良かった。
そうしなければどちらの家も破綻してた、と母達は今でも笑って話す。
子供を夜中に見てくれる私の母がいなかったら…夕方に保育園に迎えに行ける岸野のおばさんがいなかったら…。
きっと私達は寂しい思いをたくさんしていたに違いない。
そうして出来上がったのが今の形。
もうどちらの家も子育てには全く手が掛からない。寧ろ居酒屋には芳兄が、美容室にはアコ姉が入れるから、疎遠になってもおかしくはないんだけど。
「もう習慣になっちゃってますね。
忙しければ誰かが手伝うのが。」
居酒屋だけではなく、我が家に帰ると拓郎や芳兄が美容室の床を履いている、タオルやケープを洗っているなんてザラだった。
逆も然り、だ。
そんな話をしながら、甲斐甲斐しく焼けた串を野上さんの前の皿に移したり、ビールのお代わりを注いだり、やっていることはまるでスナックのママみたい。
だけど、野上さんはなんだかとても楽しそうだ。
「俺がユキをもてなそうと思ってたのに…。」
「十分にもてなして貰ってますよ?」
こんなに高級な宿に車で連れてきてくれて、豪華な食事を食べさせてくれてる。
囲炉裏の炎のせいかもしれないけれど、頬が火照るからか、お酒の酔いが回るのが早そうだ。
注がれそうになったビールをあわてて断わる。
「もう水にしときます。」
「ユキは下戸なの?いつもあんまり飲まないね。」
「これでも大分飲めるようにはなったんですよ。」
初めは薄めのサワー半分で酔い潰れた。
それから少しずつ量を飲めるようになった。苦手なビールはグラス半分、頑張って一杯くらいまでならなんとかお付き合いは出来るくらいにまでは鍛えられた。
「一応モデルですから、浮腫むのは避けたいんですよ。」
「明日…撮影ないよね?」
こういうのは日々の積み重ねが大切なんです!と頬を膨らませてみせると、野上さんは楽しそうに笑う。
…なんでこんなに楽しそうなのかなぁ。
もっとたくさんの女の人と適当に遊びまくっているのかと思っていたのに。
初対面の印象は当てにならない。
お手軽テイクアウトされた…と思ったのに。
いつのまにか野上さんは私の中にスッと入り込んでいて、なかなか出て行ってはくれなさそうだ。
…さっき思い知った。
いつか来ると思っていたお別れの日がドンっと目の前にやってきたと思った時…。
私はこの日、野上さんが色々と私にしてくれる事に心地良さを覚えて、もっともっとと欲してしまうようになってしまった事に、私は気付いてしまった。
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