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4 嫁さん娘を会わせる
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「こ、こんにちは…」
翌日、連れてきた娘さんの琴音(ことね)ちゃんは、美星さんに似て可愛い女の子だった。年齢は今年で5才って…ことは保育園の年長さんくらいだろうか?でも、それよりも気になったのは琴音ちゃんの仕草と格好だ。
長袖なのは時期的にも仕方ないかもしれないが、服がめくれることを極端に恐れているような振る舞い。俺の顔を見てから怯えているのか震えるその姿にかつての自分の姿を重ねてしまい、俺は反射的に手を伸ばしていた。
ビクンと怯えて目をぎゅっと瞑る琴音ちゃんの頭を優しく労わるように撫でながら俺は言った。
「辛かったね……ごめんね、もっと早くに助けられれば良かったんだけど………」
「……ないてるの?」
「え……」
言われて気づく。俺も何故か涙を流していた。俺が泣くなんてお門違いもいいところだし、いい歳した大人が泣くなんてみっともないけど、涙は止まらなかった。
「おじさんもね、昔君のお父さんだった人に色々されたんだ。だからそうやって痣が目立たないように隠したり色々大変だったんだけど…そんな苦労を君にさせたのが多分悔しくて泣いてるんだと思う」
ああ、本当に最悪の第一印象だと思っていると、ふと俺の手を震えながら握って琴音ちゃんは言った。
「おじさんはわるくないよ……でもね、おじさんにあったらおれいがいいたかったの」
そう言いながら俺の手を必死で握ってから震えながら言った。
「たすけてくれてありがとう……」
「……うん、こちらこそありがとう」
何もしてないのにこんなことを言うなんて親子揃って優しすぎる。俺にはそんな価値はないし、現に俺がいなくても美星さんは勝手に自分で解決していたかもしれない。それでも、こんな風に言われると、本当に助かって良かったと心の底から思う。
兄貴がしたことは到底許せることではない。でも、兄貴がいなかったら琴音ちゃんが生まれることもなかったから、兄貴を完全に否定は出来ないし、してはいけない。
だって、琴音ちゃんが生まれたことは本当にいいことなんだから。生まれてきた子供に罪はない。そして産んだ美星さんにも罪はない。だからそう…あえて罪があるとすれば、それは俺と兄貴にあるものだ。
だからこの先、俺はこの人達に関わらずに裏からバックアップしようと頭ではわかっているのだが…彼女達の優しさを心地よく思っている自分と、こんなに優しい人達を守りたいという気持ちが勝手に芽生えてしまっているのがなんとも愚かなことだ。
彼女達を苦しめた自分が彼女達の側で笑う資格なんてないのに。
「清隆さん、明日も娘と一緒に来ますね」
だというのに彼女は俺に関わろうとしてくれる。勘違いだとわかっていてもこれでは俺も本気になってしまう。それは許されないのに…馬鹿な妄想までしてしまう。
彼女の夫になって、琴音ちゃんの父親になって3人で笑う未来。わかってる。自分にはそんな資格はないって。自分なんかをこんな素敵な人が受け入れてくれることはないってことも。
いつもそうだから。大切だと思った人が微笑むのは兄貴に対してのみ。近づいてくる人も兄貴目当ての人ばかり。俺は兄貴の劣化品で、ただのサンドバッグでいろといないはずの兄貴が脳内で囁くんだ。
ま、こんな思考になるんだから多分病んでもいるんだろう。
兄貴と同じ血が流れているからいつ兄貴のようになってもおかしくない。大切な人には笑顔でいて欲しいとこの想いは蓋をしておこうと…そう、決めている俺の心を解きほぐすのはいつだって彼女だった。
それは入院生活も終わりに迫ってくる頃のことだった。
翌日、連れてきた娘さんの琴音(ことね)ちゃんは、美星さんに似て可愛い女の子だった。年齢は今年で5才って…ことは保育園の年長さんくらいだろうか?でも、それよりも気になったのは琴音ちゃんの仕草と格好だ。
長袖なのは時期的にも仕方ないかもしれないが、服がめくれることを極端に恐れているような振る舞い。俺の顔を見てから怯えているのか震えるその姿にかつての自分の姿を重ねてしまい、俺は反射的に手を伸ばしていた。
ビクンと怯えて目をぎゅっと瞑る琴音ちゃんの頭を優しく労わるように撫でながら俺は言った。
「辛かったね……ごめんね、もっと早くに助けられれば良かったんだけど………」
「……ないてるの?」
「え……」
言われて気づく。俺も何故か涙を流していた。俺が泣くなんてお門違いもいいところだし、いい歳した大人が泣くなんてみっともないけど、涙は止まらなかった。
「おじさんもね、昔君のお父さんだった人に色々されたんだ。だからそうやって痣が目立たないように隠したり色々大変だったんだけど…そんな苦労を君にさせたのが多分悔しくて泣いてるんだと思う」
ああ、本当に最悪の第一印象だと思っていると、ふと俺の手を震えながら握って琴音ちゃんは言った。
「おじさんはわるくないよ……でもね、おじさんにあったらおれいがいいたかったの」
そう言いながら俺の手を必死で握ってから震えながら言った。
「たすけてくれてありがとう……」
「……うん、こちらこそありがとう」
何もしてないのにこんなことを言うなんて親子揃って優しすぎる。俺にはそんな価値はないし、現に俺がいなくても美星さんは勝手に自分で解決していたかもしれない。それでも、こんな風に言われると、本当に助かって良かったと心の底から思う。
兄貴がしたことは到底許せることではない。でも、兄貴がいなかったら琴音ちゃんが生まれることもなかったから、兄貴を完全に否定は出来ないし、してはいけない。
だって、琴音ちゃんが生まれたことは本当にいいことなんだから。生まれてきた子供に罪はない。そして産んだ美星さんにも罪はない。だからそう…あえて罪があるとすれば、それは俺と兄貴にあるものだ。
だからこの先、俺はこの人達に関わらずに裏からバックアップしようと頭ではわかっているのだが…彼女達の優しさを心地よく思っている自分と、こんなに優しい人達を守りたいという気持ちが勝手に芽生えてしまっているのがなんとも愚かなことだ。
彼女達を苦しめた自分が彼女達の側で笑う資格なんてないのに。
「清隆さん、明日も娘と一緒に来ますね」
だというのに彼女は俺に関わろうとしてくれる。勘違いだとわかっていてもこれでは俺も本気になってしまう。それは許されないのに…馬鹿な妄想までしてしまう。
彼女の夫になって、琴音ちゃんの父親になって3人で笑う未来。わかってる。自分にはそんな資格はないって。自分なんかをこんな素敵な人が受け入れてくれることはないってことも。
いつもそうだから。大切だと思った人が微笑むのは兄貴に対してのみ。近づいてくる人も兄貴目当ての人ばかり。俺は兄貴の劣化品で、ただのサンドバッグでいろといないはずの兄貴が脳内で囁くんだ。
ま、こんな思考になるんだから多分病んでもいるんだろう。
兄貴と同じ血が流れているからいつ兄貴のようになってもおかしくない。大切な人には笑顔でいて欲しいとこの想いは蓋をしておこうと…そう、決めている俺の心を解きほぐすのはいつだって彼女だった。
それは入院生活も終わりに迫ってくる頃のことだった。
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