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アドベンチャーショップ

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    引き込み道路の向かい側のお宅は、店舗も兼ねているようだ。看板が立って驚いた。アドベンチャーショップの支店だ。
    ただ店舗部分は狭そうだから、あまり期待は出来ない。

    翌日、手土産を持って現れたのは、支店長でもある天津さんご一家。そこの息子である海人君は、年長さんから同じ幼稚園に通う事になるとか。
「いやまさか、ここのような田舎にアドベンチャーショップが建つとは。驚きました」

「基本的にダンジョンの側に建つようにしているんですよ。他社さんが入る前に押さえておきたいですからね」
    アドベンチャーショップが一番乗りらしいけれど、他にもダンジョン製品を扱う店はある。東日本はアドベンチャーショップが強いけど、西日本で強いお店も、東京には進出しているし、じわじわと浸透しつつある。

「まだ未知数のダンジョンなので、店の規模も小さいですが、今後は分かりませんし、私自身もダンジョンには潜ります」

    この人…強いな。いけないと思いつつも鑑定してみたくなったけれど、覗く事が出来なかった。レベルの差か、隠蔽系のスキルを持っているのだろう。

「店員さんが強い必要ってあるんですか?」
「ダンジョンを知らないと、お客様からの買い取りも、良い武器をお薦めする事も出来ませんので」

    成る程。でもこんな田舎に飛ばされてくるなんて、左遷…
「左遷になるか、栄転になるかはダンジョン次第ですね」
    …!びっくりした。心が読める?いやいや…私だって一応隠蔽持ってるし。ただ、念話もあるから、筒抜け…なんて事も?
「あはは。田舎過ぎて驚きましたか?確かに不便ですが、慣れれば良い所ですよ」
    お父さんと話してたのか…良かった。

「父さん、約束、忘れてないよな」
「こら海人。ダンジョンは店が落ち着いてからだ」
「おや。初ダンジョンですか。1階層はスライムしか出ませんし、うちの美優も毎日のように入っていますよ」

「ええ。驚きました。海人と同じ年齢なのに、かなりレベルが高そうですね」
「ははは。分かりますか?珍しいスキルも持っているので、伸ばさないのは勿体ないですし、美優もダンジョンで美味しい食べ物を取ってくるのが好きみたいです」

「タマ達も手伝ってくれるし」
「うちの犬、猫、鶏と一緒に潜るのですよ」
「ほお。興味深いですね。海人、お父さん達は暫く開店準備で忙しいし、1階層なら美優ちゃんと一緒に行っていいぞ。美優ちゃんも、いいかな?」

「…いいですよ」
    タマ達にお願いしておけば、海人君のフォローもしてくれるだろう。私はスキルアップに励んでもいいし、むかごも美味しいから、異存はない。

    同じ幼稚園に通うのだし、近所に住む事になったんだから、仲良くしよう。


    次の日。ゲートボールに使うような槌を持って海人君が来た。
「随分早いね。朝ごはん食べた?」
「勿論。美優ちゃんは大丈夫か?」
「うん。このままでも平気」
    ポチとタマ。それと朝は早いピヨちゃんが寄ってきた。

「本当にペットも行くんだな。武器は?」
「ちょっと待って」
    玄関まで行くふりをして、収納庫から杖を取り出す。
「玩具?」
「違うよ。可愛いけど」

    スライムの話をしながらホダギの後ろに回る。
「暗いから足元気をつけてね」

    ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。緊張しているのだろうか?
「中は明るいんだな…でも上は暗い。聞いていたのと同じだ」

    照明も何もないのに、不思議だよね。
    早速やってきたスライムに、海人君は槌を振り下ろす。
「よし!ステータス!」

    天津海人(4)
    レベル1
    
    スキル    強力    錬金術

    異世界神エストレイラの加護

「…は?錬金術って…加護って」
「加護?エストレイラ様の?」

    加護は他人には見えない。じゃあ…海人君もセンティアに住んでいた?
「…マジか…」
    何かを思い出したのか、海人君はその場に座り込んだ。

    寄ってくるスライムは、杖で突いて潰す。これ位なら魔力を込めなくても、倒せる。

    色々思い出している海人君のフォローだ。
(ちょっと、この子どうしちゃったの?)
(私の最初の時と多分一緒)
(…ふうん?)

「…悪い」
「ううん…私も一緒だから。海人君もセンティアからの転生者?」

「!え…美優ちゃんも?」
「うん…海人君はどこまで覚えてる?」
「うーん…確か、空の色がおかしくなって、何か弾ける感覚があって…あとは分からないな。天津海人としての記憶しかない」

「私も似たようなものかな…センティアはどうなっちゃったんだろうね」
「さあな…でもダンジョンにある空気は懐かしい感じがするし、答えはダンジョンにある気がするな」

「この杖もダンジョンの宝箱で見つけたんだよ。ほら…ここ見て」
「魔法文字か…地球ではあり得ないもんな」
    偉い人達が文字を解析しようと頑張ってるらしい。
    言葉として通じる所もあるけど、魔法属性を表す記号もあるから難しい。
    他にも杖とか見付かったのかな?魔剣にも文字は彫られているし、魔道具なんてもっと解析は難しいだろう。

「記憶が戻る切っ掛けはダンジョンだよね?他にも転生してきた人はいるのかな」
「いたとしても、確かめようがないし、同じ年齢かも分からない」
    同年代の人を全員ダンジョンに入れる訳にもいかないし。

    そもそもが戦える人ばかりじゃなかったし、海人君だって、得たスキルが錬金術って事は、そっちが前世からのスキルの可能性が高い。錬金術師も戦う人もいれば、採取する人に任せきりな人もいる。海人君はどっちだろう?強い力を出せるスキルを得たんだから、戦える可能性が高いかな?

「にしても…何だこれ?豆…種か?」
「むかごだよ?」
「むかごって何だ?」
「知らないの?美味しいよ!茹でて塩ふるだけでもいいし、炊き込みご飯にも出来るよ」

「それは、こっちの世界の植物って事か」
「え…今までどんな所に住んでたの?」
「東京。新宿ダンジョンにはさすがに入らせてもらえなくて」

「魔物が強いの?」
「いや…モグラみたいな奴とか、潜ってすぐの素材は対した物もないけど、みんな経験値が欲しいから、魔物の取り合いになってるってさ」

    違う意味で危険だね。誠一お兄ちゃんも言ってたっけ。
「その辺にも生えてるよ。今じゃなくて、夏頃だけど」
「ふうん…食べてみたい」
「いっぱい持ってるよ」
    今ここで茹でてもいいけど、休日の今日は、誰が入ってくるか分からない。

「お昼ご飯食べる時に出してあげるよ」
「そうだな。今日は1階層で上げられるだけレベルを上げよう」

    それから暫くは、美優は壁を背に、魔力自動回復のスキル上げを意識して行った。時折、目を開けて、むかごを一気に回収する。

    お昼に初めてむかごを食べた海人君は、ちょっと感動していた。
「これで強くなれるかな」
    違った。そっちじゃない。
「猪肉、お裾分けしようか?」
「いや…父さんも母さんも、多分ダンジョンに入るから、そのうち手に入ると思うし」
    あっという間に制覇しそうだな。
    私も10階層に現れるというボスと戦ってみたい。
    その為には9階層に行かないとね。

「午後もダンジョン?」
「勿論。…あー、でも付き合わせて悪いから、美優ちゃんは他に行っていいよ。僕は下に行ったら怒られるし」
「そう?なら少しだけ…昨日はどんな魔物か確認しないで戻っちゃったから、確認だけしてくるね」

「何階層?…って、こういうのもあんまり聞いたらだめだよね」
「おおよそのレベルが分かるからね。海人君のお父さんはどこまで行ったの?」
「あー。9階層?何かそこの階層が厄介で、先に行けないみたいだ。魔物は余裕で倒せるみたいだけどな」

    凄い…ほんの1日位で、先越された。厄介って、何かあるのかな?
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