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1章 わがまま少女、始まりの物語
2話 また会えましたわ!
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そう思っての行動は早かった。危険が伴うのも承知していた。しかしここは懐かしき故郷。一目見るだけでも……そう思って進めば恐怖はなかった。
かつてリリーアがお世話になった冒険者ギルドに訪ねると、そこには懐かしい人物が受付嬢として働いていたのだ。
その姿を見ると、嫌でも涙が溢れ出てしまう。必死に堪らえようとするも……抑えられない。彼女が生きていた、生きてくれていた。
それだけでリリーアは何よりも嬉しかったのだ。
あの姿――茶色の髪を後ろでまとめ、整った顔立ちをしているお姉さん属性。目はキリッとしていて怒ると手を付けられないほど恐ろしい女性へと変貌を遂げる。
そしてこの冒険者ギルドで務める古株であり、以前の出来事が夢ではないのだとしたらリリーアの侍女として最後まで……ずっと尽くしてくれた大事な人。
「……エーリカではなくて?」
「あら、リリーアちゃん? その話し方はどうしたの? 貴族様の真似事してるの?」
「今の私は立派な貴族ですわ。エーリカも元気そうでなりよりですわ」
「小さい貴族様、か……。なんだか可愛いわね! まだ10歳だし真似もしたくなるよね。貴族様ってかっこいいものね」
完全にお子ちゃま扱いをされているリリーアであった。
どうすれば信じてもらえるのか?
前世で起きた出来事を話す?
頭のおかしい娘だと笑われるのが手を取るように理解できた。
――だったらどうすれば……そうですわ!!
私は懐からプレートを取り出した。そしてエーリカに見せると思ってた通り驚愕している。あのSが2つも付いているのだから当然だ。
なのでSランクなんかよりも遥か上に違いないのだ。
何度も何度も目を離しては近づけて確認するエーリカ。信じられない、そんな表情をしているが、これは紛うことなき事実である。
「リリーアちゃんどう改ざんしたのよ」
「決してしてませんわ。目が覚めると……こうなっていましたわ」
「ふーん……嘘はよくないわよ」
「だから嘘じゃありませんわ!」
この時、リリーアはふと思った。
自分が未来の出来事を知っている、もしそう知られれば今後起きるはずの出来事に大きな変化をもたらすかもしれない。しかしリリーアにとってそれこそが逆に恐ろしくてたまらないのだ。大きな変化が訪れる、それ則ち断頭台までの過程が変化する。
リリーアは最低限の行動、最低限の変化で断頭台を回避すべきと考えていたのだ。
――この場合、どうすれば……そうですわ!
そしてリリーアは屈辱ながらも小さな嘘を吐いた。改ざんしていないにも関わらず、あの断頭台から過去に戻るといった不思議な経験をしたのにも関わらず、自身が貴族となり、裕福な生活をほどほどに送り、傲慢にはならない。
そんな生活が送りたいがために……。
「か、かかか改ざんしましたわ」
正直者なリリーアにとって嘘は難しいものだった。
顔を引きずり、口元がピクピクと動いている。そんなおかしな――いや、純粋なリリーアの姿を見て、エーリカは腕を組んでのお説教が始まったのだ。
「リリーアちゃんこういうのはよくないと思うの」
「は、はいですわ……」
「何があったのかわからないけど、いえ理解したくもないけど不正は不正よ。よってリリーアちゃんには罰としてこの魔物の討伐に向かってもらいます!!」
バンッと机の上に置かれた古びた紙。
そこにはゴリラらしき魔物の姿が描かれていた。目が赤くギロッとして尻尾が長い。全身は茶色い体毛で覆われ年中冬眠はせず近くの山を徘徊しているようだ。
しかしこの魔物の危険度はAランク。かつてリリーアが取得していたランクと同程度である。
――これが……罰ですの? ありえませんわ!
そう思うのも当然である。かつてAランク冒険者として活躍はしていたものの貴族となってからはダラダラとした悠々自適な生活を送っていたのだ。よって剣の腕は落ち、魔法なんてものはとっくに使えなくなってしまっていたのである。本来魔法は体内にある魔力を活用し、詠唱することで発動する。
だが、リリーアは剣の腕と同じく魔法に関しても勉学に励むことなく、さらには鍛錬を積もうとしなかったのだ。その傲慢さゆえに、いざという時、役にも立たずあの断頭台での出来事が……。
――今の私はSSランクですわ。かかってらっしゃい!
あんな経験した、リリーアはどこが傲慢であったか全然理解していなかったのだ。
何の装備も持たず、冒険者ランクが謎のSSとなり、プレートの数字は文字化けしている。それでもなお、謎の自信に満ち溢れているのだ。
リリーアは少しおバカさんなのだ。それでいて自信過剰。貴族としての生活に慣れ、専属の守護騎士に守られ、エーリカに身の回りの世話をされていた。
そんなどこぞのお姫様みたいなリリーアにとってはゴリラとの戦闘は酷に違いない。違いないのだ。
そしてリリーアはサンギス村の後ろに位置する山に足を踏み入れた。鬱蒼とした茂み、野獣の遠吠え、ほのかに感じる風。陽の光は差し込まず薄暗い。
そんな場所に一人ポツンッとリリーアは手ぶらで歩き続ける。喉が乾いても、飲水は持参していない。グ~と腹が鳴っても食料がない。
このままだと飢え死にしてしまう。
ここに来てようやく気づいたリリーアだった。
――し、しまったあああ!!
かつては貴族様だったとは思えない心の声。
ここまで頼りにならない貴族は歴代いただろうか。まあ、冒険者上がりの貴族令嬢、それも階級は子爵だったために、致し方ないのかもしれないが……。
かつてリリーアがお世話になった冒険者ギルドに訪ねると、そこには懐かしい人物が受付嬢として働いていたのだ。
その姿を見ると、嫌でも涙が溢れ出てしまう。必死に堪らえようとするも……抑えられない。彼女が生きていた、生きてくれていた。
それだけでリリーアは何よりも嬉しかったのだ。
あの姿――茶色の髪を後ろでまとめ、整った顔立ちをしているお姉さん属性。目はキリッとしていて怒ると手を付けられないほど恐ろしい女性へと変貌を遂げる。
そしてこの冒険者ギルドで務める古株であり、以前の出来事が夢ではないのだとしたらリリーアの侍女として最後まで……ずっと尽くしてくれた大事な人。
「……エーリカではなくて?」
「あら、リリーアちゃん? その話し方はどうしたの? 貴族様の真似事してるの?」
「今の私は立派な貴族ですわ。エーリカも元気そうでなりよりですわ」
「小さい貴族様、か……。なんだか可愛いわね! まだ10歳だし真似もしたくなるよね。貴族様ってかっこいいものね」
完全にお子ちゃま扱いをされているリリーアであった。
どうすれば信じてもらえるのか?
前世で起きた出来事を話す?
頭のおかしい娘だと笑われるのが手を取るように理解できた。
――だったらどうすれば……そうですわ!!
私は懐からプレートを取り出した。そしてエーリカに見せると思ってた通り驚愕している。あのSが2つも付いているのだから当然だ。
なのでSランクなんかよりも遥か上に違いないのだ。
何度も何度も目を離しては近づけて確認するエーリカ。信じられない、そんな表情をしているが、これは紛うことなき事実である。
「リリーアちゃんどう改ざんしたのよ」
「決してしてませんわ。目が覚めると……こうなっていましたわ」
「ふーん……嘘はよくないわよ」
「だから嘘じゃありませんわ!」
この時、リリーアはふと思った。
自分が未来の出来事を知っている、もしそう知られれば今後起きるはずの出来事に大きな変化をもたらすかもしれない。しかしリリーアにとってそれこそが逆に恐ろしくてたまらないのだ。大きな変化が訪れる、それ則ち断頭台までの過程が変化する。
リリーアは最低限の行動、最低限の変化で断頭台を回避すべきと考えていたのだ。
――この場合、どうすれば……そうですわ!
そしてリリーアは屈辱ながらも小さな嘘を吐いた。改ざんしていないにも関わらず、あの断頭台から過去に戻るといった不思議な経験をしたのにも関わらず、自身が貴族となり、裕福な生活をほどほどに送り、傲慢にはならない。
そんな生活が送りたいがために……。
「か、かかか改ざんしましたわ」
正直者なリリーアにとって嘘は難しいものだった。
顔を引きずり、口元がピクピクと動いている。そんなおかしな――いや、純粋なリリーアの姿を見て、エーリカは腕を組んでのお説教が始まったのだ。
「リリーアちゃんこういうのはよくないと思うの」
「は、はいですわ……」
「何があったのかわからないけど、いえ理解したくもないけど不正は不正よ。よってリリーアちゃんには罰としてこの魔物の討伐に向かってもらいます!!」
バンッと机の上に置かれた古びた紙。
そこにはゴリラらしき魔物の姿が描かれていた。目が赤くギロッとして尻尾が長い。全身は茶色い体毛で覆われ年中冬眠はせず近くの山を徘徊しているようだ。
しかしこの魔物の危険度はAランク。かつてリリーアが取得していたランクと同程度である。
――これが……罰ですの? ありえませんわ!
そう思うのも当然である。かつてAランク冒険者として活躍はしていたものの貴族となってからはダラダラとした悠々自適な生活を送っていたのだ。よって剣の腕は落ち、魔法なんてものはとっくに使えなくなってしまっていたのである。本来魔法は体内にある魔力を活用し、詠唱することで発動する。
だが、リリーアは剣の腕と同じく魔法に関しても勉学に励むことなく、さらには鍛錬を積もうとしなかったのだ。その傲慢さゆえに、いざという時、役にも立たずあの断頭台での出来事が……。
――今の私はSSランクですわ。かかってらっしゃい!
あんな経験した、リリーアはどこが傲慢であったか全然理解していなかったのだ。
何の装備も持たず、冒険者ランクが謎のSSとなり、プレートの数字は文字化けしている。それでもなお、謎の自信に満ち溢れているのだ。
リリーアは少しおバカさんなのだ。それでいて自信過剰。貴族としての生活に慣れ、専属の守護騎士に守られ、エーリカに身の回りの世話をされていた。
そんなどこぞのお姫様みたいなリリーアにとってはゴリラとの戦闘は酷に違いない。違いないのだ。
そしてリリーアはサンギス村の後ろに位置する山に足を踏み入れた。鬱蒼とした茂み、野獣の遠吠え、ほのかに感じる風。陽の光は差し込まず薄暗い。
そんな場所に一人ポツンッとリリーアは手ぶらで歩き続ける。喉が乾いても、飲水は持参していない。グ~と腹が鳴っても食料がない。
このままだと飢え死にしてしまう。
ここに来てようやく気づいたリリーアだった。
――し、しまったあああ!!
かつては貴族様だったとは思えない心の声。
ここまで頼りにならない貴族は歴代いただろうか。まあ、冒険者上がりの貴族令嬢、それも階級は子爵だったために、致し方ないのかもしれないが……。
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