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11話 馬車の中で
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「で、この町の状況だけど」
ユリアがその話を切り出すと、院長は少し暗い面持ちで語り始めた。
「領主様が変わってからというもの、民からの徴収が増え、孤児院もこのように修繕すらかなわない状態です」
「それだけ大打撃を受けているのね。だけどこの状況はもちろん現領主に伝わっているのでしょ?」
「おそらくですが……けど実際このような状況が続いております。子供たちの世話もあります。これから先どうしたら……」
「助けてあげたい気持ちはあるのだけど、一つだけを選別するのは、ね」
「お嬢様、少しご提案がございます」
さきほどから沈黙を貫いていたサラが急に口を開いた。
「一度、現領主であられるシルク・ハイゼンベルク様にお伺いしてみては?」
「うーん、でもね。私がそこまで足を突っ込むのも」
「ユリアさんお願いです。僕も一緒に行きますから」
上目遣いでユリアを魅了するクレン。
そんな眼差しで見つめられたら断れるわけがない。
つぶらな瞳で真っ直ぐ見つめられては。
「はぁ……わかったわよ。では向かいましょうか」
「ユリアさんありがとう」
この笑顔をいつまでも守りたい、そう思ってしまう。
話を聞いていたサラは先に孤児院を後にする。
おそらく馬車の用意でもしに行っているに違いない。
――また丘を降りるのも面倒ね。
いやいや孤児院の外に出ると、ハンナが慌てて水筒を手渡してきたのだ。
丘を登った時に空になっていたはずの水は溢れんばかりにまで補給されてある。
サラがハンナにでも頼んでいたのだろう。
水筒を受け取ると、馬の鳴き声と一緒にガタガタと車輪の回る音が近づいてくる。
こんな急な坂を馬車で登ってくるとは、サラはあまりにも無茶苦茶なことをする。馬が疲弊し、ハイゼンベルク家に辿り着けないなんてことがあったらどうするつもりなのか。
「ご準備が整いました」
「ええ、では」
サラが馬車の扉を開けると、ユリアはドレスの裾を上げ慎重に乗り込んだ。
そしてクレンに手を差し出した。
乗り込むと馬車は移動を始め、またあの小さい振動にに揺られながら丘を降り、町中を通り、ひたすら海沿いを進み続けた。
海は日の光で宝石のように輝き、所々で水しぶきが上がる。
そこには吸盤が付いた触手が何本も生え、巨大な丸みを帯びた頭部、まるで人がキスをする際、唇を伸ばしたような口。
あれは……あれこそが俗言うオクトパースと呼ぶべき生き物だ。
「ユリアさん大きいですね。あの生き物」
「あれね、オクトパースと呼ばれる生き物よ。海の主とも呼ばれるわね。気性は荒くないから、こちらからなにもしなければ害はない生き物よ」
「さすがユリアさん。頭もいいし、綺麗だし、僕本当に幸せです」
「そ、そうかしら! ふふっ!」
「お嬢様、お顔が真っ赤です」
ユリアはとっさに手で顔を覆い隠した。
けど、よくよく考えてみると仮面で目元は覆われているはず。仮に顔が赤くなっていたとして、そんなはっきり見えるものなのか? と疑問を持ちつつも乙女の心は隠せないユリア。
それにまじまじ見てくるクレンになにも言えない。
だったらここは話題を変えるしか方法がない。
「後、どのくらいで到着かしら?」
「そうですね……五分ほどかと」
「………………」
ここで話が途切れてしまう。
本調子じゃないと何度も自分に言い聞かせるユリア。
しかしこのなんとも言えない空気に耐えられるはずもなく、サラに馬車を停めるよう合図を出した。
ユリアがその話を切り出すと、院長は少し暗い面持ちで語り始めた。
「領主様が変わってからというもの、民からの徴収が増え、孤児院もこのように修繕すらかなわない状態です」
「それだけ大打撃を受けているのね。だけどこの状況はもちろん現領主に伝わっているのでしょ?」
「おそらくですが……けど実際このような状況が続いております。子供たちの世話もあります。これから先どうしたら……」
「助けてあげたい気持ちはあるのだけど、一つだけを選別するのは、ね」
「お嬢様、少しご提案がございます」
さきほどから沈黙を貫いていたサラが急に口を開いた。
「一度、現領主であられるシルク・ハイゼンベルク様にお伺いしてみては?」
「うーん、でもね。私がそこまで足を突っ込むのも」
「ユリアさんお願いです。僕も一緒に行きますから」
上目遣いでユリアを魅了するクレン。
そんな眼差しで見つめられたら断れるわけがない。
つぶらな瞳で真っ直ぐ見つめられては。
「はぁ……わかったわよ。では向かいましょうか」
「ユリアさんありがとう」
この笑顔をいつまでも守りたい、そう思ってしまう。
話を聞いていたサラは先に孤児院を後にする。
おそらく馬車の用意でもしに行っているに違いない。
――また丘を降りるのも面倒ね。
いやいや孤児院の外に出ると、ハンナが慌てて水筒を手渡してきたのだ。
丘を登った時に空になっていたはずの水は溢れんばかりにまで補給されてある。
サラがハンナにでも頼んでいたのだろう。
水筒を受け取ると、馬の鳴き声と一緒にガタガタと車輪の回る音が近づいてくる。
こんな急な坂を馬車で登ってくるとは、サラはあまりにも無茶苦茶なことをする。馬が疲弊し、ハイゼンベルク家に辿り着けないなんてことがあったらどうするつもりなのか。
「ご準備が整いました」
「ええ、では」
サラが馬車の扉を開けると、ユリアはドレスの裾を上げ慎重に乗り込んだ。
そしてクレンに手を差し出した。
乗り込むと馬車は移動を始め、またあの小さい振動にに揺られながら丘を降り、町中を通り、ひたすら海沿いを進み続けた。
海は日の光で宝石のように輝き、所々で水しぶきが上がる。
そこには吸盤が付いた触手が何本も生え、巨大な丸みを帯びた頭部、まるで人がキスをする際、唇を伸ばしたような口。
あれは……あれこそが俗言うオクトパースと呼ぶべき生き物だ。
「ユリアさん大きいですね。あの生き物」
「あれね、オクトパースと呼ばれる生き物よ。海の主とも呼ばれるわね。気性は荒くないから、こちらからなにもしなければ害はない生き物よ」
「さすがユリアさん。頭もいいし、綺麗だし、僕本当に幸せです」
「そ、そうかしら! ふふっ!」
「お嬢様、お顔が真っ赤です」
ユリアはとっさに手で顔を覆い隠した。
けど、よくよく考えてみると仮面で目元は覆われているはず。仮に顔が赤くなっていたとして、そんなはっきり見えるものなのか? と疑問を持ちつつも乙女の心は隠せないユリア。
それにまじまじ見てくるクレンになにも言えない。
だったらここは話題を変えるしか方法がない。
「後、どのくらいで到着かしら?」
「そうですね……五分ほどかと」
「………………」
ここで話が途切れてしまう。
本調子じゃないと何度も自分に言い聞かせるユリア。
しかしこのなんとも言えない空気に耐えられるはずもなく、サラに馬車を停めるよう合図を出した。
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