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冒険者編

第19話 後悔は後にしかやってこない

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 不協和音演奏会はおっさんが剣を取り上げたことにより閉幕となった。

「俺の剣……刃こぼれが……切れ味が……」

 何やらダメージを受けているみたいだけど、私は自分の物じゃないから問題なし!

「ゲボっ、ゲボ、ッ、ッ、」

 ドミニクは喉を火傷しているからか喉を押さえ痛みに悶えているまま。顔も火傷を負っている。
 こんな無力でか弱い少女でも大男に怪我を負わせる事が出来るのだから魔法って怖いよね。

「大丈夫です? お水いるです?」

 私はドミニクに駆け寄って手のひらの上に小さなウォーターボールを生み出した。
 ドミニクはウンウンと高速で頷く。

「はいどうぞ」

 私が差し出した水をドミニクは痛みを耐えながらゴクリゴクリと飲んでいく。

「盗賊さんは何人いるですか?」
「じゅ、ぅ、ろ、」

 ふむ。これで全部……というわけじゃないな。

 あと一人!
 緩めていた警戒心を高める。

 私の実家は多分戦闘民族なので時々物陰から襲われますが私は生きてます。
 いつものように、心臓すら止めるように静かに。息を殺す

 足音、風の動き。
 気配を探せ。
 命の音を。

「──ってそんなものぞ分かるしたなら苦労せぬ!」
「なんだいきなり」

 一応言っておくけど!
 『この屋敷にあと3人いる気配がするぜ……!』とか、『この森には怪しい匂いがする』とか、『あと10秒後、こいつは必殺技を使う……ッ!』とか! そういう武道の達人が到達する様な超人的な察知能力は! 私に存在しませんからぁ!

 便利なスキルがあるならいいし転生者チートとかあればいいのに。
 残念ながら私には唯一の努力で身につけた無詠唱魔法と、早くから自我が成立したからこそ可能とする脳みその使い方だけ。
 はぁ、残念だ。
 俺TUEEEEやりたかったのにやれるのは俺YABEEE。

 やばい状態? 実は敵じゃなくて自分です。
 転生者も周囲がやばけりゃチートにはならないのです。

 私が今よりもっと口調がボロボロだった時。
 お兄様のスパルタレッスンを受けました。あの時の突然やってくる気配を読めたら……!

 分かったのは確信に至らない胃痛と、ツッコミが飛んでくる瞬間のハリセンスイッチです。

「おう、それで盗賊さんよ。お前、奪ったモンはどこに置いてるんだ」
「ちょっとおっさん、高圧的やめるですよ! 大丈夫? まだ水必要です?」
「………………うっっっわ」

 甲斐甲斐しく看護をする。
 背後でバリバリドン引く声がした。

「コイツ自分でやっときながら飴と鞭使ってやがる……」

 黙ってろ。

「宝物庫は?」

 私が優しくそう問いかけるも、ドミニクは喉を押さえゲホゲホと咳き込んで痛そうにしていた。

 ……。

 私はウォーターボールを作り出す。

「さっさと言うしろ」

 そして思いっきり顔面にぶつけた。

「おいこらお前何してんだ!?」
「わざわざ優しき私が手間ぞ掛けて聞いてるってのに無視ですか? 自分のご身分分かってます?」
「突然標準語になるな」

 もういっちょウォーターボールぶつけようかなと右手を構えるとその手をおっさんが取り押さえた。
 邪魔しないで欲しい。

「ッ、ゲホッ、いり、ぐ、いりぐの……!」
「入り口のぉ?」
「みっ、みぎ! みぎ!」

 苦しそうに吐き出すドミニクに私は天使のような優しく清らかで可愛い笑みを浮かべる。

「よぉ~く出来ますた」

 箒の柄で鳩尾を思いっきり突く。そりゃもう遠慮なく。筋肉に阻まれるも、綺麗に決まった。

 体格差は無い方がいいけど、体が大きいということはその分弱点も大きいという事。鳩尾は入りやすいね。

「おやすみなさい」
「お前は拷問官か何かか?」

 これは冷や汗をダラダラ流しながら距離を取ったおっさんの言葉。
 流石に拷問はしたことないししてないよ。ちょっとお話しただけであって。全く! 失敬な!

 拷問っていうのはもっと残虐なことを言うんだよ。
 これは偶然の産物ですとも。

「さて、あと残るはぼっち」
「言い方」
「この調子で誘き寄せ……」

 トン、トン、トン。

 階段を降り、地下に向かってくる足音が聞こえた。
 背中を向けていた階段に同時にバッと振り返る。

 早速お出ましだ。

「……ッ」

 キリキリと痛んでくる胃。
 これは、これは。

 とんでもないプレッシャーによる胃痛……!

 どうしてだろう。嫌な予感がする。この場からすぐ逃げだした方がいい。それは確実なのに逃げ場が無い。
 足音と共に痛みが激しくなる。

 先手必勝。

 私は箒を手放して両手を前に差し出した。

「右に火、左に風」

 その言葉通りにイメージを強くして魔力を絞り出す。
 最初から全力。

 私が持てる最高火力で出迎えよう。

 風が火を巻き起こし、炎が踊る。



 ──姿が見えた!

「……あ」

 複合魔法〝ファイアトルネード〟ッ!

 ファイアボールはボールの形を保てなくなり風の回転で竜巻となった。

 発動したら約10秒は保つこの魔法。
 ちなみにファイアボールとウインドスラッシュを別々に発動させるよりも魔力を使う。
 つまりめっちゃ疲れる。

 大概はこれで死ぬ、はず。
 推測の域を出ないけど。

「──ぬん!」
「えっ」

 炎を弾き飛ばした筋肉だるまが私を見下ろした。
 驚き思わず固まる。

 傷1つとして無い姿。
 旅人みたいなローブを着ているのに、服の下にある筋肉が隠せないほど盛り上がっている。

 筋肉だるまは少しずつ歩みを進める。


 どうしよう。怖い。
 足が震えて動かない。
 これは本能的な怖さ。

 どうしてだろう。自分よりも強い人は実家で沢山見てきた。自分よりも体格の大きい人は沢山いる。なのに震えが止まらない。


 筋肉だるまが私の真ん前に立つ。
 ライアー、ライアー。助け……。


「やぁ~~ん♡ か~わ~い~い~」
「ぷぎゅっ!?」

 ぶっっっあつい筋肉に思いっきり抱き締められた。
 じたばたともがいても抜け出せない。

 なになになになに!? え、これなにごと!?
 今この筋肉だるまなんて言った? 可愛い? え、私知らず知らずの内に虜にしちゃったとか?

「助けるしておっさもぎゅぅ……!」
「ちょっとライアーちゃん! あんたねぇ、こんな可愛い子知ってるんならアタシに紹介しなさいよぉ!」
「……ソイツお前にやるよ」
「やぁ~ん愛してるぅ~! ちゅ!」

 おっさんが投げキッスを避けた気配を察知した。見えてないのに。

 えぇ……なにこれ。

「貴女っ! 名前なんて言うのよん!」
「ぴぎゃんっ!?」

 ようやく顔を上げられたと思ったのに、脇の下から手を入れられ猫みたいに持ち上げられる。
 顔をよく見ると、ケバッケバの紫メイクを施していた。

「ふぎゃあああああ!? おばけぇ!?」
「誰がおばけよふっっっっ飛ばすわよ」

 筋肉だるまがおかまだった。何を言ってるのかわかんないけどそれだけがただ事実。

 脳みそがパニックに陥ったまま抜け出せない。頑張れ私! 転生者なら多分理解出来る! 理解出来……理解……り……無理!

「おい。お前もしかして盗賊1匹倒してんのか」
「ん? そうだけど? これでもアタシ魔法職だからねぇ」
「!??!??? 嘘でしょ!? 筋肉ぞ泣くですよ!?」
「我が娘みたいなこと言ってるわぁこの子」

 貴様のその筋肉はどこから来たんだよ、それじゃあ!
 ……ん? 娘?

 私も自分で言った言葉に心当たりある。

「アタシ、リーベ。ダクアの街で魔法耐性持ちの防具を専門で取り扱ってるわ。貴女の魔法を打ち消せる位の、ね!」

 私は大きく息を吸い込む。

「おっさんテメェ黙るしてたな!!!!」

 こんな行方不明になっても自分の力で帰れるやつだとは思わないじゃん! 大人しく死んでよ!




 ちなみにウインクは汚かった。
 
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