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ダクア編

第38話 魔法の国の敵国

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 リリーフィアさんに急かされて退出して、それでホールで話し合って居たんだけど、他の職員もチラホラと見かけたので話し合いは終了。気分転換に依頼でも眺めていたが、面白い依頼は無い。そもそも働きたくない。

 仕方ないから嫌すぎて後回しにしていたリーベさんの所に来た。

本気マジ無理本当に無理」
「でも1番情報ぞ持つしてる」
「それでも嫌だ俺は帰る」

 駄々こねるライアーを連れて。

「リーベさんライアー!!!!!」
「バッ……!」

 馬鹿、と罵倒する時間も最早もったいないと言いたげに私の拘束を全力で解いて、ライアーは逃げ出した。

 ダッ。

 しかし回り込まれてしまった!

「ふぅ」

「ライアーちゃぁあん!」
「うわあああああやめろバカやめろカマ野郎!!!」

 テディベアの如く抱き締められるライアー。
 やり切った、とドヤ顔をする私。
 そして道の端に避けて絶対に関わりたくない通行人。

 リーベさんの筋肉に全力で抱き締められたら多分全身複雑骨折すると思うんだけど、そこで耐えれるライアーって結構鍛えてるんだなって思うよね。

「それでリィンちゃん何か用ぉ?」

 屍と化したライアーを抱き締めたまま、リーベさんが私に視線を向けた。

「素朴な疑問なのですけど、何故リーベさんはそんな草臥れるしたおっさんが好きなのです?」
「アタシの王子様だからよ」
「……あぁ、そう」

 聞くんじゃなかった。
 素直にそう思わせてくれる。興味が無いわけじゃないけど素直に聞きたくないな。

「リーベさん、盗賊に襲われるすた時に居た護衛の冒険者の話ぞ聞きたくて」
「あーーー。あの子達ね。何も不思議なことは無いわよ、盗賊の一味」

 うん、予想してた。
 リーベさんみたいな化け物を一時とは言え捕えられる、なんての騙し討ちしかないよね。そこで護衛が護衛らしい動きをしたら多分リーベさんは悠々と返り討ちにしてそうだし。

 ……というかリーベさん、別に牢屋に入ってなかったな。
 盗賊の一味、とか?

 いや流石に考え過ぎか。全てを筋肉で解決させそうだもの。

「やっぱり盗賊ぞぉ……」

 肩を落とす。
 拷問、苦手なんだけどな!

 今脳内で『即座に拷問が浮かぶところがおかしいんだよ!』って天の声が聞こえた気がするけど多分気の所為。




「──折角ですから奴隷商を覗いて話でも聞いてみますかな?」

 ……。
 …………。

 私の後ろからニョキッと白髪の老人が生えた。

「ぴぎゃあ!!???」
「ほほっ、ナイス驚きっぷりですぞ」
「何故驚かすですぞ!?」

 提案自体はとても良いとは思いますが心臓にはとても悪いです。


 ==========



「おや、ヴァイス・ハイトさん。奴隷をお求めですか?」
「こんにちはオーナーさん。実は今日は私ではなくこの子達の付き添いで参ったのです」

 奴隷商協会。
 この国にある奴隷を取り扱う店、とは聞いたことがある。

 執事について行ったはいいが、どうやら知り合いだったよう。

「執事さんヴァイス・ハイトって言うのですね」
「ライアーが言えなくてヴァイス・ハイトが発音出来るのちょっと俺はどうかと思う」

 リーベさんから開放され疲れ果てたライアーがそう言い出した。
 気持ちの問題です。でもリリーフィアさん、というかエルフ族の名前は絶対今後永遠に言えないと思う。

「ふぅん、奴隷商に、ね……」

 オーナーさんはジロジロとライアーを値踏みする。
 そして私を見て、ライアーに問うた。

「売りにでも来ましたか」
「お、いいなそれ」

「おいおっさんッッ!」

 いいな、じゃないんだよ全く良くないんだよばーか!
 実家が黙ってないぞ!

「ハハッ、冗談ですよ。うちは犯罪奴隷と労働奴隷しか取り扱ってないんで」

 どうぞ中に、とオーナーさんが笑いながら扉を開けた。

「犯罪奴隷と労働奴隷って、どう違うんだ?」
「犯罪奴隷はまあ盗賊とかそういう悪きことぞした人が落とすされる身分で、労働奴隷は生活ぞ困るしてとか、自らの意思で奴隷にぞなる人達のことですね」
「お嬢さん詳しいですね。えぇ、その通り。奴隷は国からの補助がありますので、例え売れなくても本当に最低限の生命活動が出来るんですよ」

 オーナーさんがそう言う。

 つまり、文化を全て捨てて人間をやめるという事。
 のっぴきならない事情であったり、あとは死ぬしかないという人が労働奴隷に落ちていくのだ。

 最低限の保証ってだけで、売れた先で仕事が厳しくても奴隷という身分からは解放されない。自分の買取額と同じ金額が払えるのなら解放されるかもしれないけど。

 死なない為に誰かの所有物になるって、大変だと思うんだ。

「まぁ、白華教もありますし物になるくらいなら死ぬ方がほとんどですよ。奴隷商で扱うのは殆ど犯罪奴隷ばかりですね」

 他の国がどんな形を取っているのか分からないけど、この国の奴隷商は首都でも大きな所でしか店を構えてないと聞く。

「さて、お話を伺いましょう」

 奴隷商の中は清潔であった。
 オーナーさんはソファに促す。私は執事のエスコートを受けてライアーの横に座った。執事は後ろで立っている。

「Fランク冒険者のライアーとリィンが預けるすた奴隷との対話を」
「やはりですか」

 オーナーさんがそう呟く。

「あの元盗賊奴隷、色々とありましたので。本来なら犯罪奴隷は奴隷落ちした瞬間から、人間と関わることは非常に少ないんですけど」

 疲れ果てた様にため息を吐き出すと、秘書らしき女性に顔を向けた。

「1人連れてきて」
「はい、すぐに」

 金にならない話なのに行動が早い。
 オーナーさんの目は真剣だ。

「関わることは珍しいって?」
「純粋に関わるしたくは無いではなきですか。金貰うしたら無関係ですぞ」

 犯罪者の命運を被害者(というか討伐者)が握っているって言うこの世界の法律。悪くはない。
 庶民が命を握っているということは、第三者が勝手に殺せないし、死ねないから、死ぬより辛い地獄を見せることも出来る。

 討伐者がしたくない手続きやら調教やら面倒を奴隷商が見てくれるってことだし。

「あー。なるほどな。たしかに喜んで関わりたくはねぇわ」

 ライアーはそう言ってドサッとソファにもたれかかった。
 これ、私がライアーを奴隷商に売ることは出来ないんだよね。ライアーが犯罪を犯さない限り。

 労働奴隷は自分に権利がある。
 奴隷に落ちるも落ちぬも自分の責任。

 だからファンタジーとかでありがちな『人攫いが人間を奴隷商に売って金稼ぎ』とかは出来ないってわけ。

「オーナー、連れてきました」
「あぁ、ありがとう」

 そこには大分衰弱した大男が居た。

「あっ」
「あぁ」

 私もライアーも互いに見覚えがあるので声を上げた。私たちが誰か、ということを認識した盗賊はギョッと目を見開き震え始めた。

「ドミニク」
「ごめ、ごめんなさい、助け……!」

 ドミニクが助けを求める様に私に駆け寄って来る。

──ドッ……!

 のを、ライアーが地面に叩き伏せる形で阻止した。

「…………あっぶね」

 ドミニクをボロボロにしたの私なんだけど、なんで私に助けを求めた?

 ライアーに頭を踏まれた状態でモゴモゴバイブレーションするドミニクを後目に、私は首を傾げた。

 そんな私にライアーはデコピンをぶっぱなす。

「気にすんな」
「いてっ」
「こういう輩は大概まともじゃねぇ。無理に考えようとすんな」

 ……そういうもんか。

 心理がよく分からないからどうにも言えない。ただ、私たちを見て怯えて、やらかした私に助けを求めるって。うーん。

「ま、いいか」
「尋問なら俺がする」

 私を背中に庇うようにライアーはドミニクの髪を掴んだ。

「よォ盗賊くん。きちんと話すのは初めてだなァ?」
「セリフが悪役のそれ……──いった! 蹴るなかれ!」
「お前に聞きたいんだが、なんで拠点に貴族の屋敷を選べた?」
「それはっ、……! ………………!」
「じゃあ次に聞くが、この魔導具に見覚えは?」
「………………!?」
「…………漏らさねぇな」

 ドミニクの反応からして何かを知っているようだった。
 でも喋らない。

 いや、正しくは『喋れない』……?

 怯えて震えまくっているし、漏らしそうな気配はあるんだけど。

「悪ィ奴だなァ」

 ライアーはポンと魔導具を私に預けた後、篭手の付いた左手で思いっきり殴った。

 ボキッと言う音。

「あよ、あにょ、ライアーさん?」
「あ?」
「ちょっと過激ではござりませぬ?」
「これくらい普通だろ」
「尋問すっ飛ばすして最早拷問なのですけど」

 過激か。
 というかドミニクが大分衰弱してるのってどんだけ尋問拷問しても口を割らなかったからなんじゃないだろうか。
 それで私に助けを求めたとか?

 いや燃やしたけど、私も顔面。というか喉まで。
 事故だから拷問じゃないよね。介抱もしたし。うん。

「実はこの盗賊達なんですけど……」

 オーナーさんが立ち上がりドミニクの服を捲る。

「……!」

 心臓の近くに、魔導具が。
 嵌め込まれていた。

「……──既に、奴隷だったのです」

 既に、奴隷?

 私が首を傾げたのに気付き、オーナーさんは説明を重ねる。

「我が国の奴隷商は奴隷紋を刻みます。そういう魔法ですね」
「あぁ、確かに」
「確かに!?」

 ライアーがギョッと私を見る。

「奴隷くらいなら見るしたことあるですし」
「お前ほんと何者……?」
「ひ・み・ちゅ」
「言えてねぇぞ」

 奴隷って基本的に契約破れないからそんじょそこらで捕まえた人間より、教育に時間かけて忠実な部下にした方が総合的に見れば得な事もあるんだよ。

「それで話を戻しますが。隣のトリアングロ王国。あそこは、魔法を使わない代わりに魔導具で奴隷にしますから」
「……ん? 魔導具を埋め込むして奴隷にぞするって、つまり解放を望めるしないのでは?」

 それこそ永遠に奴隷。
 外すことが出来ないもんね、埋め込んだってことは。

「一応出来なくは無いですが。専用の機材だったり技術者だったりが必要ですね。まぁ、この奴隷魔導具のせいで、奴隷紋を掛けられないのですが」

 それでか。
 オーナーさんも扱いに困っているって感じがする。

「なるほど、これがあちらの手ですか」

 ふむ、と執事が頷く。
 あー。これは隣国関わってくるならめちゃくちゃややこしくなるパターンだ。

「んじゃ、何も聞き出せねぇか」
「騎士団の方々も尋問しましたし、奴隷商の方でもあの手この手で聞き出したんですけど。どうやら魔導具が『情報を漏らせない』という契約を結ばせているようで」

 ライアーが飽きたのかドミニクから手を離した。
 そこそこライアーを分かってきたつもりでいたけど、本当にこいつよく分かんないな。所々闇が垣間見える。

「明日明後日辺りで何とか出来るとは思えますので」

 手配はしてたか。
 ライアーが息を深く吐いてオーナーに近寄る。

「所でオーナーよ」

 そして真剣な顔でオーナーさんを見た。

 今までに見た事ないくらい真剣な顔。
 い、一体……何を聞くつもりで……!



「──ここに、別嬪の姉ちゃんの奴隷は居るか」
「もちろん居ますとも男のロマンですから」

 私は思わずずっこけた。
 いったぁ、頭打った。

 執事が手を差し伸べてくれたのでそれを掴んで起き上がる。

ライアー殿は・・・・・・とても愉快な方ですな」
「ただ下手の女好きみたいな感じぞあるですが。多分あの人女性経験少なきですぞ」
「聞こえてんぞリィン」

 おっさんは私と執事を睨む。

 どうやら奴隷商で奴隷見学するらしい。そのまま奴隷になってくれないかな。

「リィン嬢はどうなさいますかな」
「奴隷は興味あるですけど、抱えるほど余裕は無きですし帰るです」
「おや」

 執事は恭しく私に手を差し出した。

「では、私にエスコートの名誉をくださいますかな?」
「ふはっ、ただのFランク冒険者に」

 私は執事の手を取って、微笑んだ。

「喜んで」

 さて、どうするかな。
 とりあえず明後日に奴隷商に来てみるか。



 ──その夜に、手掛かりが消えるとも知らずに。
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