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王都編上

第72話 第3戦目、未知の魔法

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 準々決勝。
 不戦勝────


 ==========


 ダクアの悪魔(命名私)ことリリーフィアさんの妹弟子だということが発覚した私です。

 冒険者大会3日目、ここで勝てば報酬確定という所。
 ここまで残った冒険者がただ単に運がいい、なんてことは無いだろうと思っていた。流石に事前にライアーと打ち合わせをするくらいには力を入れていた。
 なんてったって、対戦相手はクアドラード王国の第2王子様。Aランク、というのも偽りがないらしく、ここまでソロで勝ち抜いてきたガチモンの強者。王族は素直に囲われてて欲しいと思いました。

 ところがどっこい。
 その第2王子様は現れず、だ。午前中ずっと待機させられていたのだが現れなかった。

 私達は無事、不戦勝という形で明日の決勝に向かうことになった。

「拍子抜け」
「文法的には多分合ってるんだろうがどこの言葉だそれ」
「東国だろ」

 ライアーと雑談していれば『よっ』と言いたげにフェヒ爺がどこからともなく現れる。

「ジジイエルフ」
「誰がジジイだ坊主」

 うへぇ、爺さんとおっさんがどんぐりの背比べみたいなことしてる……。

「お、いたいた。流石に来ると思ぉてたで」

 ぴょこぴょこ後ろに結んだ髪の毛を揺らしながらサーチさんが私たちに近づいた。


 今の場所は闘技場の客席。
 第3戦目が中途半端すぎたので折角だから次ぶつかる相手の面拝もうってことで見に来た。

 どの世界でもこういうイベントは金になるのだろう。そこら辺からエールの匂いが漂ってくる。端的に言うととてもお酒臭い。
 そういえばライアーって、タバコを吸ってるのは見たけどお酒を飲んでる姿は見てないな。

「残念やなぁ。第2王子さんが欠席で」
「そうだな。合法的に王子様の顔面殴りつけられる機会が無くなって」
「ほんまやな。代わりにペインの顔面でも殴っとき」
「おー、上がってきたらそうするわ。……つーかどっちが上がってくるか分かんねぇのによくリーダーを信じられるな」

 なんか不敬罪で奴隷落ちしてもおかしくなさそうな会話を繰り広げている人達が居る。

「微妙にちゃうんやけど、勝ち進むっておもうてるしあながち間違いでもないか……」

 サーチさんははーやれやれと肩を竦め首を振った。

「ウチ、戦闘出来へんけどランクをCに上げれるくらいにはちゃんと冒険者出来るで? ただ対人戦が苦手っちゅーだけで。そんなウチがペイン達見とってん。勝つに決まっとるやん」

 ハイハイ美しい信頼関係。
 どーせ私とおっさんのコンビには無い物だよ。

「せや、話戻すけど。そもそも冒険者大会に王族が出るのが異常やっちゅうに、何してるんやろか。おっちゃんどう思う?」
「誰がおっちゃんだ。リィンに出来ない高度なニュアンスでディスりやがって」
「何故私に被弾すた????」

 2人で言い争いしてたらいいのに矛先をこちらに向けてくるな。

 そのやり取りを黙って見ていたフェヒ爺はくるっと指先を動かした。

「小娘」
「ん?」

 ポスッ。
 私の頭に何かが落ちてくる。

「被っとけ」

 帽子だった。

「何故……?」
「小娘、お前顔はいいから余計な虫がくっつくんだよ被っとけ」
『お前の父親の出身は王都だから手遅れかもしれんが被っとけ』

 私が首を傾げるとフェヒ爺は口を開きながらも脳内に直接伝えてきた。私じゃなかったら頭パニくるし、しかもコイツナチュラルに2つ魔法を同時に使ったな……?
 帽子を取り出す魔法と、直接伝える魔法。

 しかも、よく考えれば体内に魔力がある人間と違って精霊を介して魔法を使うエルフって詠唱省略ならともかく呪文名すら言わないって、出来るの?

「凄っ、え、リィンの師匠さんそれどないしたん!?」
「普通に魔法で創造しただけだが」
「魔法に疎いウチでもそれは異様や思うで!?」

 はーー!? 0から創ったの!?
 いや、火魔法と地魔法の違いと同じなんだけど。何も無いところから物体を生み出すのってどれだけ大変だと思っているの!?
 火属性はプラズマだからそこそこ難しい、で済むけど地属性なんてその場の土使わないと上手く生成出来ないし、自然にあるものを操作するって形で魔法使うから……!

 とにかく、1から2を使えるのが普通の魔法職。0から1を創れるのが変態魔法職。
 同時に高度な魔法を使うな。

「ひえ……フェヒ爺怖……」

『──それではBブロック! 午後の部の準々決勝を初めまーす! 解説は毎度おなじみ、もはや聞くのも飽きたであろう皆の俺、イージー!』
『どうもギルドの苦労エルフ、実況のエティフォールです』
『って逆やないかーい! ってことで場も冷えたことで盛り上がっていきましょう!』

 私がボヤいているとどうやらBブロックの戦闘が始まるようだった。

「なんだ、エティのやつまだ生きてたのか」
「知る会う?」
「エルフは大概知り合いだろ。特にギルドに隷属……おっと口が悪い。ギルド職員のエルフなんて有名どころだし」

『それでは冒険者の紹介です! 本日はCランクパーティー対決! リーダーペインに続きぃ! ラウト! リーヴル! クライシス!』
『こちらのパーティー、とても面白いですね。バランスが微妙のように見えて噛み合っている。特に後ろの2人の攻撃が面白いです』

 ペイン達だ。
 特にクライシスなんて愉快戦闘スタイル選手権堂々1位になれるくらいには変わった武器を使っているし。
 そんな選手権は知りません。はい。

 というか彼らが勝ち進むだろうか、それとも相手のパーティーが勝ち進むか。
 ペイン達はかなりの実力を持っていると思うけど、クアドラード的に見てどれくらいの実力か分かんないし。

 個人的には知り合いであるペイン達を応援したいが、この後ぶつかることを考えると死ぬほど嫌だな。

『続きましてぇ! こちらはクランから登場! ザ・ムーンのCランクパーティー! クランリーダーリック! そしてグレン、ニコラス、レオン!』
『こちらは前衛ばかりが固まっているパーティーですね。面白い』

 って月組かい!
 こっちも知り合いかよ。

「これは……世界一愉快な大会だな」
「ザ・ムーンって、あれやろ、ダクアのクラン。あんたらの1戦目でぶつかったとこと同じやん」
「ダクア唯一のCランク共だな」

『それでは──開始ぃ!』

 実況のその声に飛び出して行ったのはグレンさんとリーヴルさん以外の全員。
 魔法対決と言うよりは物理対決になりそうな予感を察知。

「──〝ワックス〟」

 リーヴルさんの魔法が誰よりも速く発動する。
 するとグレンさん側の前衛が足を滑らせた。リックさんは盛大に尻もちを着くが、ニコラスさんはハンマーを地面に置くことで、レオンさんは片手を付くことで転ぶのを防いだ。

「へっ、水よ唸れ! 〝ウォータースラッシュ〟」

 駆け抜けていたペインが目の前で体制を崩す月組を鼻で笑うと刃に水を纏って斬りかかった。

「〝土ノ壁〟──急急如律令!」

 が、グレンさんが防ぎきった。それなのにグレンさんのメイスにはリボンが巻きついている。
 ロックウォールの上に狂人がぬるりと立っており、蛇のようなリボンがグレンさんから武器を奪おうと絡みついている。

「へぇ、面白いな」
「何が?」
「あの女の使ったのは生活魔法だ。生活魔法はその名の通り生活に必要なため詠唱はあまり必要ない。というかめちゃくちゃ短い」
「ほへー。それで」

 魔法の発動が速いし、生活に必要なその他の魔法だから万能。
 あぁ、そうか。

「生活魔法って、攻撃魔法の簡略化?」
「よく分かったな。ウィンドスラッシュをみじん切りに応用できる。ごく小さな範囲、簡単に時間をかけずに、が生活魔法の基本だ」
「グレンさんの魔法は?」
「あれは、俺たちエルフと似たような魔法……と言うよりは術だな。はー、珍しい。こっちの国じゃ見ねぇだろ」
「もしや魔術です!?」
「魔術では無いな。俺たちクアドラードが地水火風の四属性を信仰しているように、あの赤毛の坊主は五属性を使ってる。トリアングロも五行信仰だったな」

 私とフェヒ爺が魔法談義をしていると、サーチさんとライアーが顔を見合せた。

「……何言ってるんか全然わからん」
「奇遇だな、俺もだ」

 お、月組が優位に立っている。
 前衛3人に押し込まれてるペインとラウトさん。

 リーヴルさんの魔法はさっき言った通り範囲が狭いから入れ替わり立ち代わり攻撃を繰り出す月組のチームワークに手も足も出ないようだ。

 ああでもグレンの武器をハッピープレゼント野郎が奪い取った。

『ああー! グレンは無力化してしまいましたね』
『あの武器が杖だったのでしょう。杖無しだと魔法が使えませんから、隠している杖が無い限り魔法は使えませんね』

 そういやそうだったな。
 普通の魔法使いは杖が必要なんだった。魔石はめ込んだやつ。

「いや、あの赤毛はまだ使えるだろ」
「えっ」
「陰陽術ってのは式神を使うからな」

 式神……? 陰陽術……?
 なんか、思い出せそうな思い出せなさそうな。多分前世関連だろうけど日常に関わることの無い単語は忘れているのだろうか。記憶も無いし。

「あー、でも出す気ねぇな。手のうち漏らさないようにしてる。たかが大会に持ち出すわきゃねぇか」

 フェヒ爺の判断は正しかったようで、トリッキーなリボンに為す術もない月組の前衛3人は魔法を使おうともその暇が与えられず死亡していった。
 下手人はトリアングロ野郎。

『勝者! ペインパーティー!!!』

 新しい魔法を学び、3日目が終わった。


「明日か」
「明日ぞ」

 ──明日、ペイン達とぶつかる。
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