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番外編
第102話 レッツクッキング!
しおりを挟む「突然始まるリィンぞクッキングー!」
「本当になんなんだよ突然」
ダクアの宿、鰐の牙。
接客&チップ回収というひと仕事を終わらせた腹ぺこリィンが寝起きのライアーに文句を垂れた。
「この世界の料理は、想像よりずっと美味しきです!」
「スケール」
「でも、食べる不可能のレベルでは無き、というだけで」
姿はまさにプンスコ。
何に立腹しているのかライアーには理解ができなかった。お前の想像の料理はどんな味なんだよとか思いながら。
「というわけで宿のばあちゃんに」
「お姉さん」
「──お姉様に厨房ぞ借りるしますた!」
デン! と用意されているのは一定の食材。種類がそう多くないため、何が作られるのかは特定されている様だ。
ライアーは食べ物に関してはうるさいヤツだったな、だなんてことを思いながら頬杖をついて喚いているのを眺めた。
お姉さんと訂正を加えた女将は素直でよろしいと言わんばかりに頷いて仕事に戻って行った。殺気を感じ取ってしまったのは内緒だ。
「ご存知ですかライアー。この島の外には美食の国と呼ぶされる楽園があるということぞ!」
「お前そういう知識どっから仕入れてくるんだ? 卸業者を素直に紹介しろ。その情報絶対他に売った方がいい」
実はこの『世界』の中でも、リィン達の暮らすレーン島は比較的小さめなのだ。星と島の比率で言えば地球と日本くらいなものだ。世界は広い。
前世の個人的なエピソード等の記憶は無い上に、苦節14年、忘れかけている前世の常識的な範囲の記憶を頼りに頑張って思い出した。これも日本に近い東の国があるのが悪い。
「というわけで」
「どういうわけだよ。お前の頭かち割って思考回路覗いて見たいんだが」
知的好奇心が働いた。
「本日作るはじゃーん、さんどいっち!」
「さんど、いっち?」
ライアーは首を傾げる。なんか発音が微妙な気がするが正解が分からないので不思議言語呂律死亡娘の真似をせざるを得ない。大変に不服だ。
リィンが不満げな顔を浮かべているライアーに気付かないふりをして取り出したのは黒パンだ。しかもスープに入れて食べるタイプのものではなくちょっとお高めのそのまま食べれるやつ。白パンじゃないだけ金銭感覚はまともだが。
「まずはこれなるパン!」
そう言ってナイフを取り出したリィンがパンをザクっと2つに切り分ける。
「そうすて、てれー! まよねーず!」
「まよねーず。」
聞いたことがない名前にまたライアーは疑問符を浮かべて不完全言語形態娘の言葉を繰り返した。
「なんだそれ」
「卵黄と、塩と、酢と、油ぞ混ぜるしたやつ」
ちなみに1回全卵と酢と油を一気に混ぜ始めてしまい大失敗した。
水と油は混ざらないと言うのに無理矢理混ぜようとするからそうなる。酢も乳化が追いつかなかった。
「ちまちま混ぜるの大変に飽きるした……」
「…………お前って努力とか質実剛健とか確実狙って待ち伏せとか防御戦闘とか絶対向いてないよな」
バレていた。
リィンは何も言えなかったので手作りマヨネーズをペタペタ切り口に塗っていく。なんだかなぁ、とライアーは普通に嫌な予感がし始めていた。
生命に関わる事に関しては直感で生きる節があるので。
「それで、卵とまよねーずと、レタスと」
またマヨネーズだ。
ここで言っておくがリィンはサンドイッチによくある具材のトマトは普通に投げ捨てた。選択肢に入らなかった訳じゃないが純粋に嫌いな食べ物をぶち込みたくなかった。
そう、あれは約14年前のこと……。
要するに生まれてすぐ、やったートマトだーと思いながら庭園で口にしたトマトは普通に不味かった。この世界のトマトはまずい。ちなみに拾い食いでメイド長にしこたま怒られた記憶もある。苦く酸っぱい(物理)思い出だ。
種を明かすと、当時は単純に品種改良が進んでないのでトマトは観葉植物という意味合いが強いのだった。ただし今はリィンの前世と遜色ないトマトの品種が外国から輸入され、今や『食べれるトマト』は常識となっているのだが、断固として拒否しまくっている。
「あと、燻製肉の薄切る!」
「薄切りな。……なんでわざわざ肉を薄切りにしたんだよ」
「えっ」
肉は大きければ大きいほど美味しいだなんて野蛮な考え方を庶民はするのね……。なんて哀れみの視線を向けていたリィンに鉄拳が降り掛かった。物理で。
鉄(で出来た篭手の)拳は普通に卑怯だし殺す気しかない。
「うぅ……痛き……」
すん、と軽く泣くとリィンは悲しかったが数秒後にはケロッとした顔をして仕上げに取り掛かった。
パンに具材を挟み、そうしてライアーに手渡す。
「はい、サンドいっち!」
「サンド……あぁ挟むって意味か。イッチはどこから来たんだよ」
「………………スレ主?」
まっっったくわからない。
リィンも流石に分からなかったので首を傾げた。
なんだったらイッチかウィッチかも分からない。魔法職の手づくりなのでウィッチなのかもしれない。イッチって、何?
「つーかこれ俺が食べていいのかよ」
ライアーがサンドイッチを指さしながら首を傾げる。
リィンが食事に文句つけて作り始めたものだ。食べたかったものでは無かったのか。
そういう意味を込めて。
「……もちろんです! コンビ記念ですからね!」
リィンは数秒固まったあと、笑顔でそう答えた。
訝しげだったが仮にも女の手作り、断る訳にもいかずライアーは作る過程も見ていたし毒の耐性もあるのでかぶりついた。
「──────!」
そして音もなく気絶した。
倒れ伏す己のコンビを見下ろしたリィンは『また罪を重ねてしまったか』みたいな顔をして汚した手を見ると、くっ、と目を閉じた。白々しい。
「……何も、何も毒物入れるすてないのに!」
リィンの料理の腕前は遥か昔からポイズンしていた。
これがリィン七不思議の一つ、『何故か料理が毒になる現象』だった。多分七不思議は最終的に十不思議くらいになる予感がした。
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