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戦争編〜第二章〜

第142話 ブーメランは回避が基本

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 帰ってきたリックさんは、既に正座中のカナエさんとエリィ、そしてそれを見下ろしているグレンさんと私の姿を見た瞬間流れるような土下座をきめた。


「おかえりなさいリックさん、随分遅くなるますたね」
「…………はい」
「あの……リック君はリィンの為に頑張って考えて……」
「止める所か最終的に同じ行動すた人は弁護出来ませぬ。帰宅が時間差であるということも含めるすて、カナエさんにその様なる『保護者』とすての発言の余地は一切なきです」
「……うっ」
「そもそも、誰かの為という言葉はただの責任放棄です。善意は悪意よりタチぞ悪きですよ、善意だからは免罪符になりませぬ。悪意なき悪行です」

 カナエさんが私の発言に『ぐうの音も出ない……』なんて言いながら伏せっていった。

「…………はぁ。とはいえ、別に私があなた達の行動ぞ縛る権利は無きです。それぞれぞ考えるすた結果を否定することも不可能。ただ私が言いたき事はひとつ」

 このパーティーは臨時パーティー。誰がリーダーとか、誰が指揮系統を持っているとか、上に立ったのは誰かとか、明確な身分差や地位差がある訳じゃない。

 だけど、ある訳じゃないからこそ重要なことがある。

「報告と連絡と相談! ほう! れん! そう!」
「うっっわ小学生が習うやつ……」
「事後報告なんて論より外ッッ!!!!!」
「まぁリィンも事後報告タイプだけどな」

 ……。
 今ノイズ酷くてグレンさんの言葉は全く聞こえていませんでしたよ。はい。聞こえないったら聞こえない。

 よそはよそ、私は私。人のフリは見るけど自分に当てはめないことで上手く生きて行けます。

 ともかく!
 この臨時のズッコケパーティーでは連絡が必要不可欠!

「はい復唱! 報告連絡相談!」
「「報告連絡相談!」」
「…………………………お前ら何してんだ?」

 入ってきた猫さんにその姿を見られ、ドン引きした音色でツッコミを入れられた。
 ちなみにエリィは正座しながら寝ていたことをここに記する。



 ==========



 陸軍〝猫〟コーシカの要件は『鶴が第二都市に帰ってくる』という件だった。
 予め情報を掴んでいたことだが、幹部直々に改めてもたらされた情報にターゲットとして補足した。

 コーシカの話はそれだけではなく、タイムリミットを定めるという話もあった。

 曰く、『獣人であるコーシカが即座に見つけられないわけが無い』
 他の幹部にそう指摘され、なるほどなと納得したらしい。

 コーシカが私達の追っ手であるということは違わないので、私にとって今は慈悲を貰っている時間なのだ。
 コーシカはその指摘に『泳がせている最中』と答え時間を稼いで貰ったらしいのだが、せいぜいその程度。追尾能力で他の追随を許さないコーシカの能力を、幹部として買われているのであれば伸ばせて数日。



 3日。

 コーシカが言った。3日後の日暮れ、幹部を殺せば切符の用意を、出来なければ本来の仕事として襲い来る。

 ……デットオアアライブって感じ。

 つまり私達はコーシカ以外の幹部の目をかいくぐりながら、土地勘の無いこの場所で3日以内に鶴を殺さなければならない、というわけだ。
 一生気付かなければ良いものを……!

「誰ですぞ、その指摘すた幹部」
「鯉野郎」
「あのむっちりどぐされピュア軍人め……!」

 パパ上、なんでトドメ刺してくれなかったの?


「……で、俺とリィンで幹部の屋敷を調べよう、ってことか」
「そうです」

 はいということで現在。
 日も暮れて夜になりましたがタイムリミットがあるので早速行動したいと思います。

 明日が1日目、明明後日が3日目。
 たった3日しかない上に、鶴はまだ帰ってきてない。一度暗殺に失敗すると警戒するだろうからチャンスは得られないと、予想している。
 なぜ鶴に標的を絞っているのかと言うと、第二都市にいる幹部は推定3人。もちろんそれ以上にいる可能性もあるだろうけどね。

 1人目、〝猫〟トール・コーシカ
 言うまでもなく、私達おもちゃで遊んでいる最中。

 2人目、〝鯉〟クライム・クラップ
 国境の罠が不発となれば間違いなく追っ手側に回る。手負いとはいえ、実力は遥か上。

 3人目、〝鶴〟グルージャ
 コーシカ曰くなよなよした坊ちゃん。前任のクライシスが若いこともあり、後任の弟である鶴は他と比べて実力不足だろう。

 魔法ありで私がクライシスととんとん、もしくは私の方がちょっと上回るくらいの実力だから、魔法が使えない状態では1番可能性が高いのだ。
 
「神使教の傍にあるのが鶴の屋敷か……。屋敷から見下ろしたら神使教の敷地内は見えるな」
「ここよりも崖の本当に上の方……、あの黒い漆喰壁の屋敷は烏らしきですぞ」
「じゃあ検問側にある2つの屋敷が残りの2人? ……うーん、どっちみち帰ってこないっぽいんだよな」
「人はいると思うですけどね」

 崖に富裕層の屋敷や建物が並んでいる。
 平野ではなく崖に屋敷を構えている理由は、麓までやってきてようやくわかった。

「…………これ、侵入きっっっついな」
「です」

 階段、階段、階段。
 もう、登りたくもない。体力的な意味で絶対しんどいもんコレ。箒を寄越せ。

 幹部は身体能力が優れていると聞くし普通に登れるだろう。
 ただ本当に、屋敷まで辿り着くのが馬鹿らしくもある。しかも幹部の屋敷に辿り着く階段は右に行って左に行ってと長い道のりを登る必要がある上に、段差が多い。

「これ、あれですね」
「ん?」
「他の都市ぞ見ていないので予想ですけど、第2都市って不在がちの空軍幹部の拠点じゃなきですか」
「おう。……あ、なるほど、不在がち」
「そうです、恐らく利便性より侵入者ぞ拒む傾向にある街づくりなのだと思うです。クアドラードに1番近い場所に都市があるですし、実際私達もこうやって侵入を拒むされてますし」
「維持費のかからない防衛設備」
「階段が崩れるしてもそれはそれで侵入拒むが可能」
「…………俺ら、何しに来たんだっけ」
「少なくともアスレチックではなきですね」

 2人で顔を見合わせて同時にため息を吐く。

「登るますか」
「うっす」

 1番近いグルージャの屋敷でさえ億劫になるんだ。これ、グルージャを入り待ちして貧民層で仕留めた方がいいかもしれない。あーでも目撃者多くなるからリスクが高いな。乱入される恐れもあるし……。

「あ、参るすた」

 えんやこらえんやこら正規ルートで歩いているとそれに気付いた。

「……っ、何、が」

 私の前を歩いていたグレンさんが振り返った。
 私はそのまま街を見下ろす。

「これ、バレるするやつ」

 今は夜中だから平気かもしれないけれど、下が見えるということは下からも見えるということ。
 これ、隠密活動出来ないわ。

 他の幹部の屋敷は辿り着くまでの道のりが険しいけれど、見られる可能性は低くなる。
 しかしグルージャの屋敷は比較的道のりが楽だけど、身を隠せる場所がない。

「……なんっっだそれ」
「魔法なしの国ですから、こういった知恵に優れるしているのではなきでしょうか……。うーん、移動は夜中に限るされる……? いやでも時間帯が確定ぞしているのであれば護衛だってその時間に当てる。幹部の居ぬ屋敷は手薄でも、幹部が帰還すれば人力で防衛が強く…………」

 ブツブツ考えながら風にあおられる。
 グレンさんは汗を拭いながら私を見た。

「なんで、お前疲れてないの?」
「体力の基礎ぞ違うですね」

 これでもクアドラード国境出身ですから。

「急速話題転換……グレンさ」
「きゅうそ、え、なんて?」
「──グレンさんって! 出身どこです? リックさんと幼馴染というのは聞くしますたけど、彼はどう考えるすてもクアドラード王国ですぞね? でもグレンさん鎮魂の鐘の枢密院出身と……」
「おま、誤魔化したな?」

 わしわし頭をかくと、グレンさんは再び足を進めた。

 今まで出てきたグレンさんとリックさんの情報って、『グレンさんが鎮魂の鐘の枢密院出身』『2人は幼馴染』『リックさんは田舎の出』くらいなんだよね。幼馴染だけど、環境的に考えたら出身地違うんだよね。

「別にそんな複雑なことは無いが……。屋敷に辿り着くまでに時間はあるし」

 グレンさんはボソリとつぶやくと、咳払いをして語り始めた。

「んじゃちょっと昔話に付き合ってもらおうかな」



 ──俺とリックの、昔話に。
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