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戦争編〜第二章〜

第143話 相棒だって喧嘩する

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「そう、俺たちの出会いは井戸を覗き込んだらたまたま目が合ったところから始まる」
「ちょっと停止」

 今ちょっと回想入ろうとした所申し訳ないけど今脳みそがイメージすることを拒否したからちょっと待って。

「えっと、あぁ、なるほど、井戸を覗く、顔ぞ上げる、すると反対側の目と目ぞ合う」
「いや、井戸の中を覗き込んだら井戸の中にいたリックと目が合った」
「なにゆえ!?」

 言葉通り受け取るとイメージが大変なことになるからグレンさんの説明で起こりうる常識の範囲内に自己解釈したのに悪しき方の想像で解釈させてこないでください。

「多分、5歳位のことだった」

 そんなアグレッシブな5歳いてたまるか。

「俺が鎮魂の鐘の枢密院出身だって言うのは教えたよな」
「はい。ええっと、枢密院自体は世界共通憲法案──通称世界法ぞ制定、そして各国と各貴族の法律ぞ細かき所の監視役。法の番人、と言うされる諮問機関ですたね」

 世界規模で定められている法律がこの世界にはある。
 本当に最低限の法律ね。
 ただ、国の全員が世界法を知っているかと言うと否。その内容自体はそれなりの権力者にならないと知れない。貴族当主とか。

 私も実際世界法があるというのは知っている。
 ・鎮魂の鐘及び冒険者ギルドの名を騙る事
 ・身分を実際よりも高くする身分詐称
 ここら辺が関わったことある内容で、貴族わたし所か調べようと思えば庶民だって調べられる内容だろう。

 恐らくあといくつか私でも知らない世界法がある。

 ちなみに世界法に続き、国法と民法がある。クアドラード法と、ファルシュ法、みたいな感じ。
 多少の例外はあれど国法と民法は大体同じだ。国法に貴族向けの法律が混ざっているけど、国法と民法の違いはファルシュ領だと『各家に武装の所有を義務化』とかが有名だったりする。

「…………お前」
「何ですか?」
「なんで白華教とかに関しては無知なのに世界法どころか枢密院の諮問機関のこととか知ってるんだ?」
「一般常識程度しかご存知無いですけど」
「この世の一般常識は白華教の部分だけです!!」

 法の番人の枢密院の存在は知っていた。ただ、そこが鎮魂の鐘の系列だとは知らなかったんです。
 私! これでもまだ高等学部通ってないの! 通う前に常識さて置き言語という基礎的なところで引っかかってるから知識にちょっと偏りがあるの! 同学年と比べても問題はないだろう、ってフェヒ爺言ってたけど! ……エルフのガバ認定はちょっと期待出来ないですね。

「……まぁいい。多分お前のことを考えると頭痛くなる」

 グレンさん多分私の正体を気付ける要素は持ってるけどあえて気付かないようにしているよね。恐らく無意識。
 なんて言うんだろう、素直に私の誘導にも乗ってくれる気がする。

「んで、枢密院は大陸にあるんだよ」
「大陸の何処か分からぬのですたっけ?」
「あ、それは総本山。総本山は世間と関わる必要ないから」

 えーっと、確か、天使様が降臨するんだっけ。私は堕天使という存在を知っているからまだ飲み込める情報だけど、多分カナエさんとかは飲み込みにくい情報だろうなぁ。転生と転移の違い。世界は非常にややこしいです。

「枢密院は大陸のシルクロ国にあるんだ。俺は生まれって意味でそこ出身」
「大陸に」

 世界地図はこの世界に存在しない。だから今暮らしているレーン島(人によっては大陸とも言う)の西側に巨大な大陸が存在している事と、大海原を挟んだ東に日本文化に近い文化を持つ島国があるという事くらいしか知らない。

 ま、隣のトリアングロならまだしも海を挟んだ他の国に出ることはないだろう。
 私、冒険者だけど冒険は好きじゃない。安全だと分かっている場所で保守的に暮らしたい。

「もうほとんど覚えてないけどシルクロにはめちゃくちゃでかい塔があって、そこが枢密院の本部。裏手に俺たちみたいな特殊な……まぁ死霊使いだけだと思うけど、こういう天使の加護のろい持ち一族がいるんだ。能力制御のためってやつかな」

 グレンさんは歩きながら説明を加える。
 説明が断定ではなく曖昧なのはグレンさんが随分前にそこを出たからなのだろう。

「俺の一族は元々魔力量が少ない。と言うよりは、常に視界に魔法を使ってるみたいな感じだと思ってたけど」
「それはちょっと違うみたきですけどね」
「あぁ。魔法が使えないトリアングロでも魂が視えるってことは、っと、魔法じゃないんだろうな」

 大きめの段差の階段を登る。
 まだまだ、道のりは半分くらいだ。

「俺の一族が魔法を使うには特殊な術で行使するしかない。枢密院には先生がいて、俺も先生に習ってた」
「ふぅ……。それがグレンさんの今の魔法ですぞね」
「俺は、幼いながらもぶっちゃけ魔法が好きだったな。だから先生が魔法大国と言われるクアドラードに行くって行った時について行ったんだ。それが俺が5歳の頃」

 やっぱりクアドラード王国って世界規模で見ても魔法に優れているんだ。
 この島、両極端だな。魔法排除国と魔法大国。そりゃ戦争も起きるよ。


「それでその時井戸で出会ったんだけど」

 ずるっ。
 ちょっと真剣なこと考えていたら井戸の中からこんにちはするリック(幼)さん側に脳内に戻ってきて階段からずり落ちかけた。命の危機だよね。

「何故?」
「未だに分からないな。あれほんとなんで井戸の中入ってたんだ」

 これリックさんが覚えてなければ迷宮入りしそうだな。

「それで俺は、そのまま島に居着くことになったんだ」
「え、何故?」
「……いやー。あのな、俺が辿り着いたのは……──21年前」
「あっ」

 21年前って言うと戦争の真っ只中で、翌年に停戦契約が結ばれたんだったね。

「俺はグリーン領の川よりのビス村の村長の所で待機、それで先生は王都に移動したんだけど、戦争が結構しっちゃかめっちゃかしてたみたいで」
「何故そんなタイミングで……」
「んー。外国だったから、としか。戦争があることも知らなかったし」

 クアドラード王国は自給自足できる土地だから国外との交流は少ない。というか魔法でなんでもやっちゃうから他国の文化や情報が入りにくいんだ。

 それは逆も言えて、海外にクアドラード王国の情報は伝わりにくいのかもしれない。

「そんで、折角魔法大国に来たんだからと村で交流深めたり、ダクアまで子供だけで遊びに行ってしこたま怒られたり。まァ、ちょっと迷惑かけたな」
「ちょっと?」
「つかの間の交流だと思ってたんだけど、中々先生が帰ってこない事に気付いて」

 グレンさんの先生がどんな用事で王都に行っていたのか分からないけど、他国の人間だから弟子を置いていくにしてもまぁ1年がいい所か。

「──それに気付いたのは上陸から5年後のことだった」
「遅きぃ!」

 遠い目をしていらっしゃる。遠くを見ても月が煌々と照らしているだけだぞ。

「そのまま村長の所で世話になって、未だに探しているんだけどほんとあの人どこ行ったんだ……」
「あー、つまるところグレンさんは保護者ぞ蒸発すた故に帰る手段ぞ無く、帰化すた、という事ですか」
「そう」

 はー、なるほど。
 それでグレンさんはリックさんと幼馴染だけど出身が違うのか。

「あのころのリックは大人顔負けの腕で熊とか狩ってたから、俺もその恩恵にはあやかったな」
「へぇ!」
「……まぁ、あいつ突っ走るタイプだから手綱は握らなきゃならなかったけど」

 苦笑いをしながらグレンさんがそう語る。

「……。俺は、あいつに救われたよ。何も知らなくて、常識も違う土地で。特に俺は親子とか家族とか、そういう形を知らなかったからさ。……底抜けに明るいバカがいて、本当に良かった」

 ポツリポツリと、グレンさんは言葉を零していく。リックさんに普段向けている態度は出来の悪い弟を叱る兄みたいな感じだけど、思い出話をしているグレンさんは気恥ずかしくも自慢の兄を自慢する弟みたいだ。

 ……いいなぁ。

「家族で、友達で、相棒・・?」
「ハハッ、そう見えるか?」

 嬉しそうに笑っていたけど、グレンさんはハッとなった。
 そのまま私を振り返る。

「どうしますた」
「あ、あー、いや、なんでもない」

 グレンさんはそのまま私の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、再び前を向いて歩き始めた。

「……」
「…………」

 ザクザクと土を踏みしめる音が夏の夜に落とされる。
 無言が続く。

 グレンさんって、優しい人なんだよなぁ。

「私、そのつもりで言うしたわけじゃなきですよ」
「……はー。俺カッコ悪いな」

 グレンさんは私がアイボーを失ったことを知っている。
 捉え方によっては私が『こちらを気にせずに相棒自慢とはいいご身分ですね』と言っているようにも聞こえるだろう。

 羨ましいとか憧れとか、そういうのじゃないよ。
 こっちの事は気にしないで欲しい。

 気を使った、というのが子供わたしにバレてしまった。


「2人は、喧嘩ぞ経験あるですか?」
「……。しょっちゅうしてる。俺がリックを叱るとか怒るとか、そういうんじゃなくて。あっちもめちゃくちゃ怒る」
「んぇ」

 私の話題転換にグレンさんは言葉を探したけど見つからなかったのか乗ってきた。

「意見の衝突がな……。冒険者としての活動は命の危険もあるし、なんでも抱え込もうとするリックとやっぱり衝突するんだよ。俺は、まァ切り捨てるものは普通に切り捨てるから」

 ……ふぅん?
 リックさんならナハナハ笑って誤魔化しそうな気はある。あの人も他人と衝突することがあるんだ。
 それにグレンさんは喧嘩なんて疲れることしないと思っていた。優しいから叱ったりはするだろうけど。

「最終的にさー、俺が折れることが多いけど。仲直りっていうか、一区切り着いたらサシで飲みに行く」

 グレンさんはそう言って私の頭に手を置いた。

「……リィンも仲直りの方法考えとけよ」




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「なぁ、なんでいどのなか、いるんだ?」
「えーーーー! なーーにーー? きーこーえーなーいー!」
「なんで! いどの! なかに! いるんだ!」

「ひみつーーーー!」
「いじわるだ!」

「おまえ、だれだーーー?」
「おれ、ぐれん!! せんせ、と、きた!」
「そっかー! おれはりっく! ところでぐれん!」


「──おれをひきあげてくれ!」
「おまえばかなのかよ!」


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