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戦争編〜第二章〜

第150話 自己中心的な存在

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 人に魔石が存在する。
 その衝撃的な真実に全員が言葉を失った。

「なるほど」

 その真実を知っているのは国王、貴族当主、中立組織。他にもあるかもしれないけれど、そんな所だろう。
 魔石があるからこそ魔法が使える。だけど魔物と一緒の種族だと思われたくない。だからクアドラードは隠している。トリアングロは隠さないでいる。

「……これ、世界法ですね」

 世界法。
 世界中にある全ての国が守らなければならない法律。中には貴族当主だけしか知らない物だってある。

 恐らく魔石の件は世界法で秘匿しなければならないと決まっているのだろう。

 トリアングロは兵士を全て貴族当主にすることで世界法を守りながらも、法律の穴をついて広げているんだ。
 だから、秘密を共有するトリアングロ兵士は団結力が高い。例え下剋上制度があろうとも。

「よくお分かりで」
「待ってくれ、ちょっと待ってくれ……。じゃあ、俺たちは魔族よりもずっと魔物に近いのか……? クアドラード王国は知っているのか?」
「もちろん。例外なく、この世界の全て、知らないのは国民だけだ」

 べナードは言う。

「ゴブリン、いるでしょう。人間はアレですよ。私たち人間はですね、神様が作り方を間違えてしまった。完全な人間にはさせてくれなかった。我々は、魔物であるのにも関わらず、勝手に人と名乗ってい──どぉい!?」

 私は足を踏み込んでべナードに殺す気で攻撃した。避けられた。

「何をキレ……てない。え、なぜ真顔なんだ!? というかなぜ今会話に割って入って完全に殺す気の攻撃仕掛けた!?」
「え……あとでも良きですよね……?」
「敵幹部から知らされる衝撃の真実に動揺しろよお前は!!!!!!!!! シリアスにカッコつけた俺とグルージャが可哀想だと思わないのか!!!!!!!」

「私の人生にとっては不必要ですぞね?」

 いやごめん。今お前らに聞かされなくてもあとで確認のしようなんていくらでもあるしなんなら敵幹部って意味なら猫ちゃんにでも聞けばいいから。シュランゲとかもいるから。
 日暮れっていう時間制限がある今、話をする余裕なんてものはないんだよね。空を見ろ空を、もうオレンジなんだよ。後がねぇんだよ。

「リィンのそのエクストリーム自己中精神ってどっから来たの? 前世で牢屋にぶち込まれたとかしたの? 純粋に親の顔が見てみたい」

 自動翻訳の割にはカナエさんの台詞回し独特過ぎる。

「前世どころか今世は牢屋2回経験すてます」
「なんで!?」
「そいつのせい」

 そっとべナードを指さした。さっきまでツッコミを入れていたのに、ニコニコ胡散臭笑顔で手を振ってきた。
 ……ここを心霊スポットにしてお前をオープニングスタッフにする。

「あのですね、今更変えられぬ問題にあーだこーだ悩む暇はなきなのですよ。そんなね、世界規模の問題に首ぞ突っ込む気は微塵もありませぬし。私はアイボー様ぶち殺すに限るですし……。そもそも、そもそもですぞ?」

 そのさ、人間に魔石がある問題。
 私、一つの疑問と一つの予想が立てれたんだよね。予想は非常に最悪な。

 答え合わせは、今度にしよう。

「──それ、私達に言うした貴方達、世界法違反ですぞね」

 冷ややかな目を向けると、動物2匹の表情は固まった。
 ふっふっふっ。簡単な話だ。トリアングロが魔石のことを教える為にわざわざ兵士にさせて爵位を設けるなんて回りくどいことをしてでしか周知させることが出来ない(しかも兵士以外には漏らせない)という事はだよ。特定の立場の人間以外への情報流出を禁ずる、みたいな法なんじゃないかと睨んだのだ。
 メンツを見てみよう、冒険者、冒険者、冒険者、エルフ、異世界人。傍から見て一般人と言っても過言ではない。

 ……世界レベルの法律、知ってはならないことを知った私は消されないか素直に心配なのですが。というか胃が痛いのですが。

 頼むから、禁忌事項をこれ以上喋るな。(本音)

「あ、あー。じゃあ、あれです。冥土の土産ってことで」

 グルージャの縋るような視線に冷や汗をタラタラ流しながらべナードがそう言った。ちなみに1人頑張ってシリアスしようとしていたグレンさんは肩を落としていた。どんまい、次があるって!


 と、言うわけで。
 私はもう一度踏み込んで今度はグルージャを狙った。先程とは違い隙があまり無い為、簡単に避けられる。

「お前らを殺すして私は生きる」

 剣は苦手、なんだけどな! これしか攻撃手段がないから。
 本当は接近戦は命の危機感が全然違う。あと一歩踏み間違えれば死ぬという怖さ。果物ナイフだけでも怖いのに上級者相手にペーパードライバーが挑むとか普通に無理ゲー。

 魔法は、同じ命を奪う物って認識はあるけど、なんだか現実味がなくて恐怖は薄い。私なら魔力で無理矢理何とか出来るからさ。

「でも」

 向かってくる剣を紙一重で避ける。パラリと金の髪の毛が数ミリ舞った。

「パパ上よりは怖くなき」

 トリアングロ最強格クラップを半殺しに出来るレベルの化け物に毎日毎日バカスカ投げ飛ばされてたと思えば恐怖も薄れるってもんだ。

 私はそのまま避けた剣を掴んだ。

「な……ッ!?」

 掴んだと言っても誤解がある。グルージャは恐らく私の首筋で刺突した後、避けられた場合は横一文字に振って首をはねるつもりだったのだろう。

 だから私は横に振られる前に左肘と左膝で剣を挟んだのだ。

 肘で首筋にあった剣を膝の位置までガンっっと思いっきり勢いよく下ろしてそのまま膝もあげて白刃取りっちゃっただけ。

 そして私は左半身を後ろに捻った。
 剣を持っていたいけれど、予想外の動きに体制を崩すからグルージャは武器を手放さざるを得ない。
 その微かな迷いに私はそのまま前に出た右手を突き出して首筋に剣をはわせた。

「これで、死にますたね?」

 グルージャににっこりと微笑む。
 私が剣を止めなければ絶対にこの首は切れていた。首を狙われたんだから首を狙い返すのは当たり前。やられたらやり返すしやられなくても普通にやる。

 観念したのか目を閉じて苦笑いを浮かべると、降参の代わりに手を上げた。

「べナードさんすいません」
「いい。動きは覚えた。今度はこちらが相手をし──」

 トスッ。
 小石が落ちてきたような軽い音だった。

「──中々やるじゃねぇか、ガキンチョ」

 私とグルージャ、そしてべナードの間に落ちてきたのは獣人。幹部のコーシカだった。

「おや、猫さんじゃあありませんか。いつの間に」
「最初っから見てっぞ鹿ちゃん」
「まっっって????」

 その呼び方はどうなの???????
 何、いい歳したおっさん共が猫さん鹿ちゃんって呼びあってんの? 素直に気持ち悪いな? 何、酔っ払って呼び合い始めたの? お前ら今素面だよね? それともずっと酔っ払ってんの? 自分に寄ってる?

「それでガキンチョ」

 約束の繋がりを見られるのはまずい。互いに。
 だからここは何とか初対面のフリで誤魔化して……。

「もうすぐ日暮れだ。さっさと殺せよ」

 Why??

「幹部1人殺すのが条件だっただろうが」

 いや、うん、ちょっと待って。
 お前、今の状況読めてる? 表情が固まったべナードが視界に見えるしなんなら隣に困惑したグルージャもいるんだけど。

 ちなみに私の剣はべナード対策でまだグルージャの首筋にはわせたままだ。

「この状況見えぬのですか?」
「てめぇら種族よかずっと視力は優れてるが?」

 二重の意味でこいつ本当に空気読んで欲しい。繋がりは最初から知られたくないし両方口封じしなきゃいけなくなるよね?

 それに……。

「私どう考えるしてもグルージャに勝つすてます」
「はい。自分は敗北しました。この状況では、流石に」
「……おい若造共。ひとつ、勘違いしてっが」

 コーシカはぐるる、と喉を鳴らし不機嫌さをありありと見せつけた。


「命を奪い取れっつってんだよ。殺し合いに置いて、幹部には死以外の敗北は有り得ねぇって、言ってんだ」

 ……。
 どれだけ殺せる状況でも、命を奪わないと約束じゃないって事か。


「です、ぞね」

 前任の居ない幹部。
 下剋上し、前任が死ぬことによって次の幹部が繰り上がる。だからこそコーシカが幹部と同等の願いを持つ私に手を貸す条件だったのだ。

 私は深く細く息を吐く。緊張をほぐすように。

「殺せ。殺せる覚悟もない甘ったれに、貸せる手は無い」

 グルージャと目が合った。
 私は首筋に刃を当てる。

「殺せ」

 日は、陰る。
 血のように赤い太陽が山の隙間に沈んでいく。

 タイムリミットがわかりやすく近付いた。


「──私は、殺さなき」

 グルージャの高速を解いてコーシカの方にぶん投げた。

「ほぉ?」
「私はね、使うが可能の物はなんでも使う程の謙虚なレディなのですよ」

 一歩ずつ下がってリックさん達の傍に行く。警戒を解かないように。

「グルージャの縄さばきは素晴らしきものですた。特に捕縛術。私はあれが知るしたき。教授願うです」

 トプン。

 太陽が山に潜った。


「だから、またね」

 ──ドカァッ!


「姫さんてめぇ、ようやく追い付いた!」

 門を吹き飛ばしながら化け物クラップが入ってきた。
 人様の屋敷だからちょっとは破壊衝動抑えた方がいいと思う。

「……グレンさん、リックさん。2人を頼むです。支えるして」

 私は冒険者2人に小声で指示を出す。
 コーシカの耳が小さく動いた。

「こんばんは、クラップサマ! また会えるなど嬉しき!」
「てっっっめぇ、街中で目撃情報あっちこっちで作りやがって……! 金髪エルフだったか? あ? そんなんでこの俺を誤魔化せるとでもッ!?」

 実際誤魔化せたんだからいいよ。

「ちなみに、エンバーゲール殿下は何処に?」
「言うとでも? クアドラード王国の狙いは第2王子なんだろ、青眼」

 へぇ、目の仕組み、バレてるのか。
 眼を通してクアドラードに語られている気分。

 あ、なるほど。だからグルージャは戦闘スタイルを確定させないために動かなかったのか。
 使った武器もソードブレイカーのみ。恐らくサブウェポンだろう。

 ザリ、とさらに一歩後ろに進む。

「──ところで、今日は風が少なきですね」
「「「「は?」」」」

 私は今にもお前を殺すぞフォームで、袋をぶん投げた。
 幹部側の地面にぶつかり口が緩んだ。

「ッ!」
「逃げるですよ!」

 ブワッと広がるのは大体は真っ白な粉塵。

 私はグレンさんとリックさんの腕を引っ張って崩れた外壁から身を乗り出した。

「え、ちょっと待って」
「あの、リィンさん?」
「この先ってもしかしなくても」
「崖ーーーー!!!」


 必死にえんやこら登った階段の標高から、一気に飛び降りた。


「「「ーーーーーーーーッ!」」」


 それぞれが個性ある叫び声を上げる中、リックさんだけは大爆笑している。人生楽しそう。


 私は紙を取り出した。
 グレンさんの魔力が詰まった式神を。

 〝サイコキネシス〟!

 目指すは赤屋根の商店。
 崖に生えていた木をサイコキネシスで引っ張り抜いて、全員を乗せると、突撃ダイナミックお邪魔しますを繰り広げた。



「お、俺の店ーーーーーーーーッ!」



 今にもお前を殺すぞフォームで投げた粉塵?
 あれね、キッチンで作った調味料をいくつか混ぜたやつ。

 そう、お手製の。火も通してないし味付けもしてないけど、私お手製の愛情ポイズンたっぷりの不整脈ドキドキ料理だよ。


 さぁ、目指すは要塞都市。
 私達は第2都市を脱出することに成功した。
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