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17.「あれを野放しにする、と?」
しおりを挟む王都の中心街は今日も賑わっていた。劇場や美術館などが立ち並ぶ付近の広場には噴水があり、その周りを様々な屋台が囲んでいる。肉や魚を調理したもの、果物を串に刺した物などの食べ歩きができる店から、雑貨やアクセサリーを扱う屋台もある。
ここは、貴族や民たちが皆笑顔で過ごせる場所だった。
そんな広場が見える路地の入り口辺りで、ルトガーはある人物を待っていた。
「公爵令息殿」
「ああ、来たか。」
みずみずしい果物を切り分けて売っている屋台の横から広場に入り向かってきた男は、次期バーデン侯爵のヴィム・バーデンだった。昨日突然ヴィムのところに、今日この時間、ここへ来るようバルシュミーデ家から知らせが届いたのだ。
合流した2人は、その場で雑踏に紛れて立ったまま話し出した。ここは民や貴族が入り混じり皆が楽しんでいるような場なので、護衛がいようがいい服を着ていようが、特に目立つこともないのだった。
「アイブリンガー侯爵の件だ。」
「な……、っなぜ、あなた様が」
「彼の人とはかねてからの友人でね。
君はまともな人間だと思っているんだが、どう落とし前をつける?」
「……。」
もちろんこのまま済ますつもりは無かった。アイブリンガー侯爵もそうだが、その周りを怒らせたらバーデン侯爵家は没落コース一直線だ。
王家にほど近いバルシュミーデ公爵家までアイブリンガー家についていたとあっては、早急に対処しなければならない。
ヴィムは、これ以上怒りを買わないよう上手く立ち回る必要がある。
「……父には、早々に引退してもらい私が家を継ぎます。そして我が家の三男は家を追い出し平民として――」
「ほう? あれを野放しにする、と?」
ルトガーの目が光る。家から出すということは責任も放棄するということだ。そんなことをしたら逆恨みでシュテファニに魔の手が及ばないとも限らない。悪手だ。
「い、いえっ……。フーゴは、強制労働施設に、入れます!」
「ふむ。」
「体を酷使し働くことで、自分の愚かさを受け入れ改心することでしょう!」
「まあ、無難だな。それではそのように。」
「は、はいっ」
「ああ、侯爵譲位の件は、王に話を通しておく。恙無く済ませよ。」
「ありがとうございます!」
話が終わるとルトガーは去っていった。残されたヴィムは、そこまでは考えていなかったが弟を強制労働施設に入れることになってしまった。
家から追い出し、バーデン侯爵家と縁を切る。それで終わりだと思っていた。しかしルトガーによって、それは責任放棄でしかない、そんなことは許さないと圧がかかった。
可愛い弟ではないが、家族だ。情はある。強制労働となればとても厳しい環境だと聞く。訓練もろくにしてこなかった弟は、三日と持たないだろう。
ヴィム・バーデンはこの日、弟の起こした不祥事の落とし前とはいえフーゴを、無情にも切り捨てるという決断をした。
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