【完結】一夜の過ちで、社長の子を妊娠しました〜妊娠がバレたら、社長の溺愛が限界突破しました〜

来栖れいな

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第55話・入院の日、静かに踏み出す一歩

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12月中旬。
詩織は35週目に入ったその日、病院への入院を迎えた。

入院とはいえ、体調に異常があるわけではない。
けれど怜司は、何かあってからでは遅いと早めの決断をした。

「……やっぱり、少し早いですよね?」

出発前、靴を履きながら詩織がぽつりとこぼすと、
怜司は隣でコートの襟を整えながら、静かに言った。

「お前に何か起きてからじゃ、取り返しがつかない。俺は、最悪を考えて動く」

それは怜司なりの“守る”という意思の表れだった。

詩織は、そっとお腹に手を当てた。

(この子を守るために。怜司さんは、いつも先に動いてくれる)

「……ありがとうございます。ちゃんと、行ってきますね」

「俺も一緒にいる。今日はずっと」

そう言って、怜司は車の助手席側のドアを開けた。
詩織がゆっくりと乗り込み、シートベルトを留める。

車内は静かだった。
ただ、窓の外に流れる冬の街並みが、季節の移ろいを静かに告げていた。



病院に到着すると、受付で名前を伝え、個室の病室へ案内される。
詩織が過ごすのは、家族の宿泊も可能な広めの特別室だった。

荷物をばあやが先に搬入してくれており、整えられた部屋はすでに落ち着いた雰囲気だった。

「寒くないように、毛布も増やしておきましたからね、詩織様」

ばあやが笑いながら声をかけ、詩織はこくんと頷いた。

(これから、ここで赤ちゃんを産むんだ)

ベッドに腰を下ろしたとき、初めて心臓が高鳴るのを感じた。
現実味が、静かに、確実に詩織に迫ってきていた。

怜司はそばに座り、詩織の手を取る。

「ここが、君が子どもを迎える場所だ。安心して、準備してくれ」

詩織は小さく笑った。

「はい……頑張ります」

その言葉には、決意と、不安と、ほんの少しの希望が混ざっていた。


その夜。
ベッドに横になった詩織は、まだ眠れずに天井を見つめていた。

隣には、付き添い用の簡易ベッドで眠る怜司の姿。

部屋の灯りは消えているけれど、窓の外に浮かぶ街の光が、柔らかく天井を照らしていた。

(これから、どんな日になるだろう)

胸の奥で、また一歩、新しい家族の物語が始まろうとしていた。


——————

12月25日。
病室の窓の外には、イルミネーションの光がかすかに揺れていた。

ここは、個室の特別病棟。
街の喧騒からは離れているけれど、窓から見える遠い明かりが、今日という日が特別であることを教えてくれる。

「……メリークリスマス、詩織」

「ふふ……病室で言われるなんて、変な感じですね」

怜司が持ち込んでくれたケーキの箱を見て、詩織は目を丸くする。

「こんなに可愛い……」

中には小さなホールのフルーツケーキ。
生クリームは控えめで、色とりどりの果物が花のように飾られていた。

「君が食べられそうなものを、事前にリサーチしておいた。病院にも確認は通してある」

「……怜司さん、ほんとに準備が完璧すぎてびっくりします」

「詩織と子どもが無事なら、それでいい」

そう言って、怜司はさっと小皿にケーキを取り分けた。
ベッドサイドのテーブルに並ぶ湯気の立ったハーブティーと一緒に、それはささやかな聖夜のごちそうとなった。


フォークですくったケーキは、甘すぎず、やさしい味がした。
詩織はゆっくりと噛み締めながら、ふと、お腹に手を当てる。

「来年の今頃は……この子と三人で過ごしてるんですね」

「そうだな。家で、にぎやかになってるはずだ」

怜司はそう言って、詩織の隣に腰を下ろす。
ほんの少しだけ笑った表情を見て、詩織も微笑み返す。

けれど――その胸の奥に、ふっと小さな影が落ちた。

「………怜司さん」

「ん?」

「……私、本当にこの子を無事に産めるかな」

そう呟いた詩織の声は、ごく小さく、震えていた。

「……初めてだから、何が起こるか分からなくて。
痛みとか、不安とか……全部、自分に乗り越えられるのかなって……」

怜司は黙って、そっと詩織の手を握った。

「大丈夫だ。詩織は強い」

「……強くない…です。怖いもん……すごく、怖い……」

ぽろりと涙が零れる。
詩織はそれを拭おうともせず、怜司の手にぎゅっと力を込めた。

怜司は、手を離さなかった。
何も言わず、ただその手をしっかりと包み込んでいた。


夜が更け、ケーキの甘い香りが病室に残る中、
詩織はそっとベッドに横たわり、怜司に背中を預けるように眠りについた。

その背中を、怜司は最後まで見守っていた。
まるで、世界で一番大切なものを抱きしめるように。
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