魔王様、天使は経費で落とせません!

冬島六花

文字の大きさ
2 / 7

2.魔王城でのお仕事

しおりを挟む
 現代日本で地味な経理OLとして暮らしていた丹波まりあことマリア(魔界ではカタカナ表記が標準らしい)は、異世界でも魔王城の経理職として働き始めた。

 

 衣装は天使のドレス。日本から転移してきたスタッフは、基本的にこれが制服らしい。

 仕事自体は、事前に聞いていた通り、なんてことはなかった。むしろ想像より楽で、拍子抜けしたくらいだ。

 

 仕事は九時五時。残業なし。実務は紙ベースなので、パソコン操作で眼精疲労になることもない。

 そして始めの一ヶ月ほどは、地味に経理天使としての職務を全うしていたのだが……。

 

 大きな問題は、ズバリ魔王。

 私を花嫁にしたわりには、夫婦らしい進展は何もない。

 暮らす部屋は別だし、日中は二人とも仕事。おまけに魔王は夜も仕事があるのだ。

 

(魔王様、よくよく見ればカッコいいから、もっと話したり、一緒にご飯を食べたり、あとエッチなこととか……したいんだけどなぁ)

 

 元来、お気楽な私は、魔界での生活に満足しつつも、魔王との関係についてはやや物足りない思いだった。

 初対面でプロポーズを断ってしまった私だが、今ではすっかり魔王に惚れ込んでいた。

 身体が大きく美形で、そして何より、気が優しいのだ。

 正直、私が生粋の魔界っ子だったなら、プロポーズを受け入れていたんじゃないかと思う。

 日本育ちで意地っ張りな私は、時々仕事で魔王とやりとりするときも、強い口調で言い返してしまっている。

 

(まぁでも、過ぎたことは仕方ないか。私、まだ魔界に来たばかりだしね)

 

 だから魔王との関係進展をひそかに祈りつつ、日々の業務をこなしているのだった。

 新人なので、本業以外の雑務はそれなりにあった。うかうかしている訳にもいかない。

 特に新人は、季節のイベント準備にも当然駆り出される。



 そんなこんなで、冷たい風が吹き、雨が雪に変わる日もちらほら出てきた十二月末。

 そう、年末、大晦日だ。

 魔王城でも、年越しパーティの準備が粛々と進められていた。

 

「マリア~! そこ、斜めになりすぎ! もうちょい真っ直ぐにして」

 

 脚立を跨ぎ壁に新年の飾りを付ける私に、アイナが声をかけた。

 アイナは黄金色の髪を頭の上でお団子にまとめた女子だ。耳にはたくさんピアスを付け、天使のドレスを身に纏っている。

 彼女も現代日本からの転移組で、以前は介護の仕事をしていたらしい。人間界にいた頃はロックバンドのTシャツなどのカジュアルな服装が好きだったらしく、こちらでの優雅なファッションにはまだ慣れないとぼやいている。

 初対面のときは、ギャルっぽくて苦手だな、なんて思っていたけれど、明るくて気の利く女子だ。魔界生活においては、彼女のエネルギーに助けられている。

 アイナの勤務先の介護施設では四季折々のイベントが企画されていたという。年越しパーティもその一つだ。

 だからアイナは今年の魔王城の年越しパーティに、責任者として大抜擢されたのである。

 テキパキとした仕事ぶりに、マリアは尊敬する。



「はい、こうかな?」

「オーケー。ばっちりよ。じゃあ次こっちお願いね!」

 

 アイナはそう言うと別の飾り付け作業を指示した。

 私は言われた通りに次の場所へ脚立を移動させる。

 

「うん、いい感じ! 今夜のパーティ、楽しみね」

「だねぇ。どんな人たちが来るんだろう」

 

 私はダンスホールを見回す。城内のスタッフが、所狭しとパーティの準備をしていた。

 大晦日は、魔界でも一年の終わりを迎える特別な日だ。



「それにしても、魔王様の人望ってすごいね~」

「そうね。私もびっくりしちゃった」



 魔王城のダンスホールはかなり広い。今夜はここがいっぱいになるくらい、来客があるらしい。

 

(魔王様のお嫁さんになりたい女子なら他にもたくさんいるはずなのに、どうして私が選ばれたんだろう?)

 

 初対面、二人きりの場面でいきなりプロポーズされたから断ってしまったが、日頃の魔王の姿を知っていたら、違った返事をしたのではないか――そう思うのだ。

 

 魔王様ご本人は、執務室にこもって事務作業中だ。

 仕事納めはすでに済んでいるが、魔王本人は年末進行が大詰めで、余裕がないらしい。

 伝聞形なのは、私が魔王の忙しさまで把握していないからだ。

 プロポーズを無下なく断ってしまった私。しぶしぶ入籍したものの、魔王は気を遣い、部屋を別にしてくれたのだ。

 日々の暮らしは完全に分かれているものだから、顔を合わせる機会もそう多くはない。

 

「今日のパーティー、魔王様ご本人は間に合うのかしら?」

「うーん、どうだろう。スタートに合わせて来てくださるとは思うけれど、仕事で抜けるかもねぇ」

 

 意外なことに、魔王にはこなさなければならない事務作業が大量にあった。

 あの厳つい身体は肉体仕事でこそ活きそうなものだが――なかなか世の中、上手くはまわらないものである。

 溜め息を吐きながら、私は飾り付けを続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...