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2.魔王城でのお仕事
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現代日本で地味な経理OLとして暮らしていた丹波まりあことマリア(魔界ではカタカナ表記が標準らしい)は、異世界でも魔王城の経理職として働き始めた。
衣装は天使のドレス。日本から転移してきたスタッフは、基本的にこれが制服らしい。
仕事自体は、事前に聞いていた通り、なんてことはなかった。むしろ想像より楽で、拍子抜けしたくらいだ。
仕事は九時五時。残業なし。実務は紙ベースなので、パソコン操作で眼精疲労になることもない。
そして始めの一ヶ月ほどは、地味に経理天使としての職務を全うしていたのだが……。
大きな問題は、ズバリ魔王。
私を花嫁にしたわりには、夫婦らしい進展は何もない。
暮らす部屋は別だし、日中は二人とも仕事。おまけに魔王は夜も仕事があるのだ。
(魔王様、よくよく見ればカッコいいから、もっと話したり、一緒にご飯を食べたり、あとエッチなこととか……したいんだけどなぁ)
元来、お気楽な私は、魔界での生活に満足しつつも、魔王との関係についてはやや物足りない思いだった。
初対面でプロポーズを断ってしまった私だが、今ではすっかり魔王に惚れ込んでいた。
身体が大きく美形で、そして何より、気が優しいのだ。
正直、私が生粋の魔界っ子だったなら、プロポーズを受け入れていたんじゃないかと思う。
日本育ちで意地っ張りな私は、時々仕事で魔王とやりとりするときも、強い口調で言い返してしまっている。
(まぁでも、過ぎたことは仕方ないか。私、まだ魔界に来たばかりだしね)
だから魔王との関係進展をひそかに祈りつつ、日々の業務をこなしているのだった。
新人なので、本業以外の雑務はそれなりにあった。うかうかしている訳にもいかない。
特に新人は、季節のイベント準備にも当然駆り出される。
そんなこんなで、冷たい風が吹き、雨が雪に変わる日もちらほら出てきた十二月末。
そう、年末、大晦日だ。
魔王城でも、年越しパーティの準備が粛々と進められていた。
「マリア~! そこ、斜めになりすぎ! もうちょい真っ直ぐにして」
脚立を跨ぎ壁に新年の飾りを付ける私に、アイナが声をかけた。
アイナは黄金色の髪を頭の上でお団子にまとめた女子だ。耳にはたくさんピアスを付け、天使のドレスを身に纏っている。
彼女も現代日本からの転移組で、以前は介護の仕事をしていたらしい。人間界にいた頃はロックバンドのTシャツなどのカジュアルな服装が好きだったらしく、こちらでの優雅なファッションにはまだ慣れないとぼやいている。
初対面のときは、ギャルっぽくて苦手だな、なんて思っていたけれど、明るくて気の利く女子だ。魔界生活においては、彼女のエネルギーに助けられている。
アイナの勤務先の介護施設では四季折々のイベントが企画されていたという。年越しパーティもその一つだ。
だからアイナは今年の魔王城の年越しパーティに、責任者として大抜擢されたのである。
テキパキとした仕事ぶりに、マリアは尊敬する。
「はい、こうかな?」
「オーケー。ばっちりよ。じゃあ次こっちお願いね!」
アイナはそう言うと別の飾り付け作業を指示した。
私は言われた通りに次の場所へ脚立を移動させる。
「うん、いい感じ! 今夜のパーティ、楽しみね」
「だねぇ。どんな人たちが来るんだろう」
私はダンスホールを見回す。城内のスタッフが、所狭しとパーティの準備をしていた。
大晦日は、魔界でも一年の終わりを迎える特別な日だ。
「それにしても、魔王様の人望ってすごいね~」
「そうね。私もびっくりしちゃった」
魔王城のダンスホールはかなり広い。今夜はここがいっぱいになるくらい、来客があるらしい。
(魔王様のお嫁さんになりたい女子なら他にもたくさんいるはずなのに、どうして私が選ばれたんだろう?)
初対面、二人きりの場面でいきなりプロポーズされたから断ってしまったが、日頃の魔王の姿を知っていたら、違った返事をしたのではないか――そう思うのだ。
魔王様ご本人は、執務室にこもって事務作業中だ。
仕事納めはすでに済んでいるが、魔王本人は年末進行が大詰めで、余裕がないらしい。
伝聞形なのは、私が魔王の忙しさまで把握していないからだ。
プロポーズを無下なく断ってしまった私。しぶしぶ入籍したものの、魔王は気を遣い、部屋を別にしてくれたのだ。
日々の暮らしは完全に分かれているものだから、顔を合わせる機会もそう多くはない。
「今日のパーティー、魔王様ご本人は間に合うのかしら?」
「うーん、どうだろう。スタートに合わせて来てくださるとは思うけれど、仕事で抜けるかもねぇ」
意外なことに、魔王にはこなさなければならない事務作業が大量にあった。
あの厳つい身体は肉体仕事でこそ活きそうなものだが――なかなか世の中、上手くはまわらないものである。
溜め息を吐きながら、私は飾り付けを続けた。
衣装は天使のドレス。日本から転移してきたスタッフは、基本的にこれが制服らしい。
仕事自体は、事前に聞いていた通り、なんてことはなかった。むしろ想像より楽で、拍子抜けしたくらいだ。
仕事は九時五時。残業なし。実務は紙ベースなので、パソコン操作で眼精疲労になることもない。
そして始めの一ヶ月ほどは、地味に経理天使としての職務を全うしていたのだが……。
大きな問題は、ズバリ魔王。
私を花嫁にしたわりには、夫婦らしい進展は何もない。
暮らす部屋は別だし、日中は二人とも仕事。おまけに魔王は夜も仕事があるのだ。
(魔王様、よくよく見ればカッコいいから、もっと話したり、一緒にご飯を食べたり、あとエッチなこととか……したいんだけどなぁ)
元来、お気楽な私は、魔界での生活に満足しつつも、魔王との関係についてはやや物足りない思いだった。
初対面でプロポーズを断ってしまった私だが、今ではすっかり魔王に惚れ込んでいた。
身体が大きく美形で、そして何より、気が優しいのだ。
正直、私が生粋の魔界っ子だったなら、プロポーズを受け入れていたんじゃないかと思う。
日本育ちで意地っ張りな私は、時々仕事で魔王とやりとりするときも、強い口調で言い返してしまっている。
(まぁでも、過ぎたことは仕方ないか。私、まだ魔界に来たばかりだしね)
だから魔王との関係進展をひそかに祈りつつ、日々の業務をこなしているのだった。
新人なので、本業以外の雑務はそれなりにあった。うかうかしている訳にもいかない。
特に新人は、季節のイベント準備にも当然駆り出される。
そんなこんなで、冷たい風が吹き、雨が雪に変わる日もちらほら出てきた十二月末。
そう、年末、大晦日だ。
魔王城でも、年越しパーティの準備が粛々と進められていた。
「マリア~! そこ、斜めになりすぎ! もうちょい真っ直ぐにして」
脚立を跨ぎ壁に新年の飾りを付ける私に、アイナが声をかけた。
アイナは黄金色の髪を頭の上でお団子にまとめた女子だ。耳にはたくさんピアスを付け、天使のドレスを身に纏っている。
彼女も現代日本からの転移組で、以前は介護の仕事をしていたらしい。人間界にいた頃はロックバンドのTシャツなどのカジュアルな服装が好きだったらしく、こちらでの優雅なファッションにはまだ慣れないとぼやいている。
初対面のときは、ギャルっぽくて苦手だな、なんて思っていたけれど、明るくて気の利く女子だ。魔界生活においては、彼女のエネルギーに助けられている。
アイナの勤務先の介護施設では四季折々のイベントが企画されていたという。年越しパーティもその一つだ。
だからアイナは今年の魔王城の年越しパーティに、責任者として大抜擢されたのである。
テキパキとした仕事ぶりに、マリアは尊敬する。
「はい、こうかな?」
「オーケー。ばっちりよ。じゃあ次こっちお願いね!」
アイナはそう言うと別の飾り付け作業を指示した。
私は言われた通りに次の場所へ脚立を移動させる。
「うん、いい感じ! 今夜のパーティ、楽しみね」
「だねぇ。どんな人たちが来るんだろう」
私はダンスホールを見回す。城内のスタッフが、所狭しとパーティの準備をしていた。
大晦日は、魔界でも一年の終わりを迎える特別な日だ。
「それにしても、魔王様の人望ってすごいね~」
「そうね。私もびっくりしちゃった」
魔王城のダンスホールはかなり広い。今夜はここがいっぱいになるくらい、来客があるらしい。
(魔王様のお嫁さんになりたい女子なら他にもたくさんいるはずなのに、どうして私が選ばれたんだろう?)
初対面、二人きりの場面でいきなりプロポーズされたから断ってしまったが、日頃の魔王の姿を知っていたら、違った返事をしたのではないか――そう思うのだ。
魔王様ご本人は、執務室にこもって事務作業中だ。
仕事納めはすでに済んでいるが、魔王本人は年末進行が大詰めで、余裕がないらしい。
伝聞形なのは、私が魔王の忙しさまで把握していないからだ。
プロポーズを無下なく断ってしまった私。しぶしぶ入籍したものの、魔王は気を遣い、部屋を別にしてくれたのだ。
日々の暮らしは完全に分かれているものだから、顔を合わせる機会もそう多くはない。
「今日のパーティー、魔王様ご本人は間に合うのかしら?」
「うーん、どうだろう。スタートに合わせて来てくださるとは思うけれど、仕事で抜けるかもねぇ」
意外なことに、魔王にはこなさなければならない事務作業が大量にあった。
あの厳つい身体は肉体仕事でこそ活きそうなものだが――なかなか世の中、上手くはまわらないものである。
溜め息を吐きながら、私は飾り付けを続けた。
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