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君のために

やっと

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 てんはつ直也なおやから電話があったことに気がついたのは、18時になってからだった。6時間もの間匂いで意識が曖昧になりながらも襲わずに耐えていた。自分の唇と腕を犠牲に。そこから、2人が家に着いたころには直也も気を失いつつあった。
 「直也!白斗はくと君!」
 「ご、めん。また頼っちゃって・・・」
 「うんん。今、医療班呼ぶね。槇、直也に薬を。白斗君に注射」
 「あぁ。」
 葉はスマホを取り出し電話をかけ、槇は鞄に入っていた、薬箱と白いケースを取り出した。薬を水と一緒に直也に飲ませる。そこで唇と腕から血が出ていることに気がついた。
 「俺の手当はいいから白斗をまずは」
 槇は「待ってろ」と言って白いケースを持って白斗に近づく。
 「うっ」
 槇が匂いにやられる。直也と同じ薬を飲み、息を吸った。
 「少しだけ苦しいからね」
 聞こえているかわからない白斗に声をかける。白いケースから注射器と液体を取り出した。直也が「お父さん・・・それは?」と掠れた声で聞く。 
 「強制的に発情を終わらせる薬。副作用が強い。直也。2日、3日目を覚さないのを覚悟して。それから、目を覚めた時・・・いや、何でもない。打つよ。」
 そう言って腕に注射した。

 悲鳴のような声がした。

 あんな白斗の声を俺は聞いたことがなかった。

 苦しそうで、辛そうで。

 俺は白斗を幸せにしたいのに・・あんな声を出して欲しくないから俺は白斗のためにここに入ったのに・・・幸せにできてない。
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