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第8話:婚約
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鉄の棍棒で軽く殴ってやると、魔王の副官ゲイルは動かなくなった。
魔王――この世界の魔物と魔族を牛耳る存在。人類にとっての敵であり、平和を脅かす存在。そんなものの下っ端をのうのうと放してやるわけにはいかない。
それに、こいつは俺の大切なものに化けて騙そうとした。それだけで、許せないことだった。
俺は鉄の棍棒をその場に置き、村の人たちを縛っている縄を解きに行った。
縄自体に魔法を使って強化していたようだが、術者が死亡したので、簡単に解くことができた。牧場一帯が歓声に包まれる。
「アレルお坊ちゃんありがとう!」
「もうダメだと思ったよ。本当に感謝しかない」
「私生きてる!? アレル様ありがとうございます!」
俺への感謝の叫びは留まることを知らなかった。
一段落ついたところで、俺は父さんと母さん、リアのもとに向かった。
「本当にごめん! 家を出るときにろくに挨拶もなしで、勝手に出て行って!」
やっぱり、怒ってるよな?
俺なら、リアがある日突然いなくなったら心配する。心配させておいて、ひょっこり帰ってきたら怒りたくもなる。一発や二発、殴られても仕方ない。ぐっと歯を食いしばった。
「……まったくっ! 目当てのスキルが手に入らなかったからって拗ねて村を出るなんてばっかじゃないの!」
――温かくて、柔らかいものが当たった。
「えっと……リア?」
「本当にバカ、バカ、バカ! ……でも、帰ってきてくれて良かった」
リアは俺の胸に顔を埋める。
そして、上目遣いで俺を見つめた。
「……もう離れないって、勝手にどこか遠くに行かないって、約束してくれる?」
「ああ、リアに心配をかけるようなことはしない」
「そう……なら許す!」
「もう怒ってないのか?」
「怒ってるわよ。……でも、それ以上に、嬉しいから。相殺して許してあげる」
「それはどうも」
そのまま五分くらい、リアは俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
俺はリアの頭を優しく撫でていた。
「……昨日、酷いこと言ってごめんな。あの時はパニックになってて、おかしくなってた」
「ぐす……。もう気にしてない。いつものアレルを見たら本心じゃないってわかったから」
「でも、あれはちょっとだけ俺の本心が混ざってたかもしれない」
「どういうこと……?」
リアの俺を見る目が鋭くなる。
俺は大きく深呼吸した。
「その……俺は家族としてリアを見られてないっていうか……お前って妹キャラって感じじゃないだろ?」
「ドツいてもいい?」
「そこ! そういうところが妹じゃないんだって。妹ってのはこう、兄を甘やかしてくれるもんなんだよ」
「それはアレルの願望」
「かもしれないけど、俺が思うリアってのは……」
「どうしたの……?」
「えっと……」
「早く言いなさいよ。怒らないから」
「それ怒るときの常套句!」
……と、言ったものの、ここまで来たら言うしかないよな。この件でリアに隠し事は無しだ。俺の本心をありのまま伝えるのが誠意だと俺は思う。その結果、リアに嫌われてしまったとしても。気持ち悪いと言われてしまったとしても。
「お、俺は! リアをこう……妹というより彼女……じゃなくて嫁……でもなくて……そう、パートナーみたいに思ってたんだ!」
「パ、パートナー……!?」
リアの唇がキューっと締まり、顔が真っ赤に染まる。
「そ、それはえっと……プロポーズってことでいいのかしら?」
「プロポーズだったらOKしてくれる?」
「そ、それはしてくれるなら真剣に考えるわ」
「あぁ……やっぱり駄目だったか」
「なんで諦めてのよ! プロポーズしてから玉砕しなさいよ!」
「リアがOKしてくれるならプロポーズするんだけど」
「それ私がプロポーズしてるみたいじゃない! ズルくない!?」
「わかった。じゃあオレトケッコンシテクダサイ」
「なんで棒読み!? ……まあいいわ、アレルがそこまで言うのなら仕方なく結婚してあげなくもないわね」
俺とリアがやり取りしている間、父さんと母さんは( ゜д゜)って感じの顔で俺たちを眺めていた。
「えーと、じゃあ二人はその……なんだ、結婚したいって感じなのか?」
「まあ、そんな感じの方向性で。……ってやっぱさすがにダメだよな。貴族ってそういうの厳しいだろうし……」
貴族の家は色々と厳しい。父さんは貴族の中でも変わり者なので、頭が柔らかいのだがさすがに血が繋がってないとはいえ家族と結婚するのは反対されても仕方がないと思う。
「まあ、いいんじゃないか?」
「いいのか!?」
「結婚はしたい者同士でするべきだからな。俺も母さんも止める権利なんてないぞ」
父さんは、母さんの肩に手をまわした。母さんは周りを伺いながら、嬉しそうにそれを受け入れる。
そういえば、この二人は政略結婚を強引に断って結婚したんだっけ。
止める権利が無いっていうのはそういう意味なのかもしれない。
「リア」
俺は彼女の名前を呼んで、抱き寄せる。そして、流れるように唇を奪った――。
親の前でラブラブカップルやるのってめちゃくちゃ恥ずかしい。でも、リアは嫌がらなかった。
「こりゃあ、近いうちに式上げないとなぁ」
「そうですね」
父さんと母さん、二人の先輩は微笑えんでいた。
魔王――この世界の魔物と魔族を牛耳る存在。人類にとっての敵であり、平和を脅かす存在。そんなものの下っ端をのうのうと放してやるわけにはいかない。
それに、こいつは俺の大切なものに化けて騙そうとした。それだけで、許せないことだった。
俺は鉄の棍棒をその場に置き、村の人たちを縛っている縄を解きに行った。
縄自体に魔法を使って強化していたようだが、術者が死亡したので、簡単に解くことができた。牧場一帯が歓声に包まれる。
「アレルお坊ちゃんありがとう!」
「もうダメだと思ったよ。本当に感謝しかない」
「私生きてる!? アレル様ありがとうございます!」
俺への感謝の叫びは留まることを知らなかった。
一段落ついたところで、俺は父さんと母さん、リアのもとに向かった。
「本当にごめん! 家を出るときにろくに挨拶もなしで、勝手に出て行って!」
やっぱり、怒ってるよな?
俺なら、リアがある日突然いなくなったら心配する。心配させておいて、ひょっこり帰ってきたら怒りたくもなる。一発や二発、殴られても仕方ない。ぐっと歯を食いしばった。
「……まったくっ! 目当てのスキルが手に入らなかったからって拗ねて村を出るなんてばっかじゃないの!」
――温かくて、柔らかいものが当たった。
「えっと……リア?」
「本当にバカ、バカ、バカ! ……でも、帰ってきてくれて良かった」
リアは俺の胸に顔を埋める。
そして、上目遣いで俺を見つめた。
「……もう離れないって、勝手にどこか遠くに行かないって、約束してくれる?」
「ああ、リアに心配をかけるようなことはしない」
「そう……なら許す!」
「もう怒ってないのか?」
「怒ってるわよ。……でも、それ以上に、嬉しいから。相殺して許してあげる」
「それはどうも」
そのまま五分くらい、リアは俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
俺はリアの頭を優しく撫でていた。
「……昨日、酷いこと言ってごめんな。あの時はパニックになってて、おかしくなってた」
「ぐす……。もう気にしてない。いつものアレルを見たら本心じゃないってわかったから」
「でも、あれはちょっとだけ俺の本心が混ざってたかもしれない」
「どういうこと……?」
リアの俺を見る目が鋭くなる。
俺は大きく深呼吸した。
「その……俺は家族としてリアを見られてないっていうか……お前って妹キャラって感じじゃないだろ?」
「ドツいてもいい?」
「そこ! そういうところが妹じゃないんだって。妹ってのはこう、兄を甘やかしてくれるもんなんだよ」
「それはアレルの願望」
「かもしれないけど、俺が思うリアってのは……」
「どうしたの……?」
「えっと……」
「早く言いなさいよ。怒らないから」
「それ怒るときの常套句!」
……と、言ったものの、ここまで来たら言うしかないよな。この件でリアに隠し事は無しだ。俺の本心をありのまま伝えるのが誠意だと俺は思う。その結果、リアに嫌われてしまったとしても。気持ち悪いと言われてしまったとしても。
「お、俺は! リアをこう……妹というより彼女……じゃなくて嫁……でもなくて……そう、パートナーみたいに思ってたんだ!」
「パ、パートナー……!?」
リアの唇がキューっと締まり、顔が真っ赤に染まる。
「そ、それはえっと……プロポーズってことでいいのかしら?」
「プロポーズだったらOKしてくれる?」
「そ、それはしてくれるなら真剣に考えるわ」
「あぁ……やっぱり駄目だったか」
「なんで諦めてのよ! プロポーズしてから玉砕しなさいよ!」
「リアがOKしてくれるならプロポーズするんだけど」
「それ私がプロポーズしてるみたいじゃない! ズルくない!?」
「わかった。じゃあオレトケッコンシテクダサイ」
「なんで棒読み!? ……まあいいわ、アレルがそこまで言うのなら仕方なく結婚してあげなくもないわね」
俺とリアがやり取りしている間、父さんと母さんは( ゜д゜)って感じの顔で俺たちを眺めていた。
「えーと、じゃあ二人はその……なんだ、結婚したいって感じなのか?」
「まあ、そんな感じの方向性で。……ってやっぱさすがにダメだよな。貴族ってそういうの厳しいだろうし……」
貴族の家は色々と厳しい。父さんは貴族の中でも変わり者なので、頭が柔らかいのだがさすがに血が繋がってないとはいえ家族と結婚するのは反対されても仕方がないと思う。
「まあ、いいんじゃないか?」
「いいのか!?」
「結婚はしたい者同士でするべきだからな。俺も母さんも止める権利なんてないぞ」
父さんは、母さんの肩に手をまわした。母さんは周りを伺いながら、嬉しそうにそれを受け入れる。
そういえば、この二人は政略結婚を強引に断って結婚したんだっけ。
止める権利が無いっていうのはそういう意味なのかもしれない。
「リア」
俺は彼女の名前を呼んで、抱き寄せる。そして、流れるように唇を奪った――。
親の前でラブラブカップルやるのってめちゃくちゃ恥ずかしい。でも、リアは嫌がらなかった。
「こりゃあ、近いうちに式上げないとなぁ」
「そうですね」
父さんと母さん、二人の先輩は微笑えんでいた。
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