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十一話 幼き狐
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俺のお披露目が終わった後の初めての特進コースでの授業は、模擬の戦闘訓練となった。
対戦相手は呪符に封じられた然程強くない妖怪や怨霊だ。然程と言っても、一般人にはたまったものではないが。
封印されるものは大抵退治するのが難しいか危険なモノ。あるいは元が神である荒魂を一時的に落ち着かせるためである。
しかしこの訓練用のモノは訓練用に捕まえた奴らだ。妖怪の俺からしても可哀想な事ではあるけれど、そいつらも目立って悪い事をしたからそうなる破目になるのだ。ある意味自業自得なため、俺にはどうしようもない。
だからそんな救いを求めるような潤んだ目で見ないでほしい。
目の前の子狐の妖怪に俺は思わず息を呑む。可愛い……なんだこの生き物は。なんだこの生き物は。大事な事なので二度言いました。
そうじゃなくて、落ち着け俺。これは退治対象。訓練なんだ。倒さなければ……そう自分に言い聞かせるも印を組むことが躊躇われる。
「……きゅーん」
だからそんな悲しそうな鳴き声を出さないでくれ。
周りが別の妖怪や怨霊を倒していくなか、俺だけが身動きを取れていなかった。そんな所に既に自分の相手を倒した翔がこちらにきた。
「何やってんねんひぃちゃん。ちっこい狐やんか。とっとと倒したらええやん」
「何て酷いことを言うの翔!」
俺は翔のあまりに冷たい言い様に思わず迫った。
「うおっ、なんやねんひぃちゃん。そないに興奮して。てか顔近いわぁ、このままキスしてええか?」
その言葉に翔から無言で離れて肘鉄を溝内に決め込む。
「うぐっ! 愛が、愛が痛い……」
とりあえず翔は捨て置き、もう一度子狐を見直す。首を傾げるその姿に再びキュンとしながら俺は近づき抱き上げる。
子狐は暴れるどころか俺にすり寄ってきた。
「きゅんきゅん!」
「人懐っこいなぁ、お前」
よしよし頭を撫でると嬉しそうに鳴く。
それにしてもこの子狐……妖狐にしては妖力が大きい。訓練用の封印の札に簡単に捕まるとは思えない。幼いから簡単に捕まったとも考えられない。
それにこの気配、感じたことがある。何処でだ……?
そんなに最近ではない。どちらかというと少なくとも数百年くらいは前な気がする。
……思い出した。1000年前の都で晴明が対峙した九尾の狐ではないだろうか。
確か玉藻前。とても美しい美女だった。美貌もさることながらその教養も優れていて当時は鳥羽上皇に寵愛を受けていた。
玉藻前と契りを交わしてから鳥羽上皇が体調を崩し始めて、それを#晴明__せい
めい__#が見抜いて本性を暴くも一度逃した。それから度々女を攫うことがあって、それを見かねた鳥羽上皇が晴明を軍師にして討伐軍を編成して討伐したけどこれも失敗に終わったんだっけ。
それでもう一度弱った所を討ったら、近づく人間や動物等の命を奪う巨大な毒石、殺生石になったんだよな、確か。
それを玄翁和尚が、殺生石を破壊したって書物では描かれているけど、確か俺と晴明とで破壊してあらゆる土地に飛散したのではなかったか。
かなり手こずっていたから記憶に残っている。
だからこそ身に染みている。その強大な妖力を。
けれど目の前にいるこの子狐はどうだろう。気配こそ玉藻前に似ているが、いくら妖力がでかいと言っても比べてしまえば雲泥の差だ。
それに玉藻前は女だ。この子狐を見ればわかるがオス。一瞬玉藻前の欠片から生まれた分身かと思ったけれどそれも違うらしい。
でも決して玉藻前とは関係ないなどあり得ない。
「お前一体玉藻前の何なんだ……?」
「玉藻は母上でし」
「そーかお母さんか……ん?」
俺は一体誰と会話しているんだ?
ちらりと翔を見るも、俺に相手にされなかったのがショックなのか地面に落書きしながらいじいじしていた。
いい年して何を拗ねてるんだか。呆れながらも俺は首を傾げる。
「僕でし。貴方に抱かれている子狐でし」
「え……?」
抱いている子狐を思わずじっと見つめる。
「お前……なのか?」
「きゅっ!」
元気よく返事をする姿は本当に和む。それよりも、この子はさっき何て言った? 玉藻前が母親だと言わなかったか?
そもそもいつの間に子どもを産んだんだ? 1000年前なのは確かだがそれにしては幼いきが……。今は置いておくか。
「それで、お前がここに来た目的はなに?」
「貴方が力ある術師と見てお願いがあるでし。僕をあなたの式にして欲しいでし」
「は……? どうしてまた」
式に下るなんてあまり得ではないと思うのだが。それこそ九尾の狐なら尚更だ。妖狐と違って九尾の狐の本来は瑞獣ずいじゅう。麒麟や白虎のように神聖な獣であるため神に近い存在だ。
プライドが高い彼らが、いくら本性が大妖怪とは言え今は人間の姿をしていう俺の下に付きたいなんて……。
目的を詳しく聞きたい所だが、再びのうるうる攻撃に俺はあっけなくその可愛さに完敗してあっさりとその子狐を式にした。
なんてちょろいんだ俺。
対戦相手は呪符に封じられた然程強くない妖怪や怨霊だ。然程と言っても、一般人にはたまったものではないが。
封印されるものは大抵退治するのが難しいか危険なモノ。あるいは元が神である荒魂を一時的に落ち着かせるためである。
しかしこの訓練用のモノは訓練用に捕まえた奴らだ。妖怪の俺からしても可哀想な事ではあるけれど、そいつらも目立って悪い事をしたからそうなる破目になるのだ。ある意味自業自得なため、俺にはどうしようもない。
だからそんな救いを求めるような潤んだ目で見ないでほしい。
目の前の子狐の妖怪に俺は思わず息を呑む。可愛い……なんだこの生き物は。なんだこの生き物は。大事な事なので二度言いました。
そうじゃなくて、落ち着け俺。これは退治対象。訓練なんだ。倒さなければ……そう自分に言い聞かせるも印を組むことが躊躇われる。
「……きゅーん」
だからそんな悲しそうな鳴き声を出さないでくれ。
周りが別の妖怪や怨霊を倒していくなか、俺だけが身動きを取れていなかった。そんな所に既に自分の相手を倒した翔がこちらにきた。
「何やってんねんひぃちゃん。ちっこい狐やんか。とっとと倒したらええやん」
「何て酷いことを言うの翔!」
俺は翔のあまりに冷たい言い様に思わず迫った。
「うおっ、なんやねんひぃちゃん。そないに興奮して。てか顔近いわぁ、このままキスしてええか?」
その言葉に翔から無言で離れて肘鉄を溝内に決め込む。
「うぐっ! 愛が、愛が痛い……」
とりあえず翔は捨て置き、もう一度子狐を見直す。首を傾げるその姿に再びキュンとしながら俺は近づき抱き上げる。
子狐は暴れるどころか俺にすり寄ってきた。
「きゅんきゅん!」
「人懐っこいなぁ、お前」
よしよし頭を撫でると嬉しそうに鳴く。
それにしてもこの子狐……妖狐にしては妖力が大きい。訓練用の封印の札に簡単に捕まるとは思えない。幼いから簡単に捕まったとも考えられない。
それにこの気配、感じたことがある。何処でだ……?
そんなに最近ではない。どちらかというと少なくとも数百年くらいは前な気がする。
……思い出した。1000年前の都で晴明が対峙した九尾の狐ではないだろうか。
確か玉藻前。とても美しい美女だった。美貌もさることながらその教養も優れていて当時は鳥羽上皇に寵愛を受けていた。
玉藻前と契りを交わしてから鳥羽上皇が体調を崩し始めて、それを#晴明__せい
めい__#が見抜いて本性を暴くも一度逃した。それから度々女を攫うことがあって、それを見かねた鳥羽上皇が晴明を軍師にして討伐軍を編成して討伐したけどこれも失敗に終わったんだっけ。
それでもう一度弱った所を討ったら、近づく人間や動物等の命を奪う巨大な毒石、殺生石になったんだよな、確か。
それを玄翁和尚が、殺生石を破壊したって書物では描かれているけど、確か俺と晴明とで破壊してあらゆる土地に飛散したのではなかったか。
かなり手こずっていたから記憶に残っている。
だからこそ身に染みている。その強大な妖力を。
けれど目の前にいるこの子狐はどうだろう。気配こそ玉藻前に似ているが、いくら妖力がでかいと言っても比べてしまえば雲泥の差だ。
それに玉藻前は女だ。この子狐を見ればわかるがオス。一瞬玉藻前の欠片から生まれた分身かと思ったけれどそれも違うらしい。
でも決して玉藻前とは関係ないなどあり得ない。
「お前一体玉藻前の何なんだ……?」
「玉藻は母上でし」
「そーかお母さんか……ん?」
俺は一体誰と会話しているんだ?
ちらりと翔を見るも、俺に相手にされなかったのがショックなのか地面に落書きしながらいじいじしていた。
いい年して何を拗ねてるんだか。呆れながらも俺は首を傾げる。
「僕でし。貴方に抱かれている子狐でし」
「え……?」
抱いている子狐を思わずじっと見つめる。
「お前……なのか?」
「きゅっ!」
元気よく返事をする姿は本当に和む。それよりも、この子はさっき何て言った? 玉藻前が母親だと言わなかったか?
そもそもいつの間に子どもを産んだんだ? 1000年前なのは確かだがそれにしては幼いきが……。今は置いておくか。
「それで、お前がここに来た目的はなに?」
「貴方が力ある術師と見てお願いがあるでし。僕をあなたの式にして欲しいでし」
「は……? どうしてまた」
式に下るなんてあまり得ではないと思うのだが。それこそ九尾の狐なら尚更だ。妖狐と違って九尾の狐の本来は瑞獣ずいじゅう。麒麟や白虎のように神聖な獣であるため神に近い存在だ。
プライドが高い彼らが、いくら本性が大妖怪とは言え今は人間の姿をしていう俺の下に付きたいなんて……。
目的を詳しく聞きたい所だが、再びのうるうる攻撃に俺はあっけなくその可愛さに完敗してあっさりとその子狐を式にした。
なんてちょろいんだ俺。
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