夫の愛が偽りだったと知った妻は離婚という名の復讐を決意する

ユユ

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オークション

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王都に到着するとホテルにチェックインして旅の疲れを取りながら王都新聞に目を通す。

ホテルメイドが道具を持って客室にやってきた。オプションでマッサージを頼んでいた。馬車の長旅で全身が凝り固まっていた。
香油のマッサージと蒸しタオルで体が解れていく。最終的には眠ってしまい、夕食で起こされた。
レストランで叔父様と食事をしていると、叔父様の顔が険しくなった。

「あれ、シトロス伯爵じゃないか?」

振り向くと可愛らしい女性と腕を組んで席に案内されるヘンリー様がいた。私には向けたことのないような笑みを女性に向けている。
相手の女性はドレスを着てはいるが所作が付け焼き刃といった感じだが、愛らしい顔のおかげか不快というほどではない。ふわふわとした茶色寄りの金髪に水色の瞳をしていた。

席に着くと2人は手を握り合い、ヘンリー様に至っては彼女の手に何度もキスをしていた。
そして、ポケットから箱を出し、箱の中から指輪らしきものを彼女の指にはめた。

「素敵!」

女性の声が大きくなってここまで聞こえてきた。彼女が指にはめたものをヘンリー様に向けたことで私達にも見えた。この距離だからこそよくわかる。とても大きなルビーがついた指輪だ。
あの大きさのものはシトロス家だけの純粋な収益だけでは捻出するのは難しい。私が渡している情報で得た利益で買ったのは間違いないだろう。

「ちょっと待っていて」

叔父様は彼の後ろを通ってトイレに行ったフリをした。少しして戻ってくると顔が怒りに満ちていた。

「エリン、食事が終わったら向こうのラウンジへ行こう」

「はい」

食事があまり喉を通らずに残してしまった。
ラウンジはあえて人気のない席に案内してもらった。叔父様は聞かれたくない話をこれからするつもりなのだろう。

「従業員に聞いてきたが、ヘンリー・シトロスはよくこのホテルに長く滞在するので覚えられていた。 “よく奥様とご宿泊いただいております、本日は奥様との出会いの記念日なので特別なお祝いをしたいとご相談いただきました”、そう言ったんだ」

「っ!!」

「もう一つ、彼の王都への滞在に比べて、ホテルの従業員が言っていた宿泊の頻度と差があるんだ。つまりこのホテルじゃない場所も使っているか、愛人のために部屋を借りてるか、本当に共同事業があって子爵邸に滞在しているのか」

指から少しずつ冷たくなっていく。

「知ってしまったし、かなりの金を使っているはずだから徹底的に調査を入れた方がいい」

「……」

「エリン?」

「頭が回らないのでお任せしてもいいですか」

「もちろんだ、任せなさい」

部屋に戻ってひたすら泣いた。彼にとって私は妻じゃなかったということだ。


翌日は午後からオークションか会場へ参加した。
私がボーッとしているから、出品の度に叔父様に揺さぶられる。我に返り買うかどうか伝えると叔父様が札を上げ、私がまたボーッとしている間に競り落としていた。

次の品は小さいので叔父様は席を立って前に行った。
すると叔父様が座っていた席に誰かが座った。

「レディ、今日は具合が悪いのですか?」

オークション会場で何度か見かけたことのある男性から声をかけられた。

「少し」

「そんなときにオークションなどすると判断を誤りますよ」

「パートナーがおりますから」

「彼がパートナー?」

「オークション仲間という意味です。彼は私の叔父です」

「そうでしたか。何日滞在なさいますか?」

「明後日帰ろうと思います」

「観光とかはなさらないのですか? 再開発された西のエリアを見に行かれましたか?」

「そういえば開発が終わったと書いてありましたね。ですが気分が乗らないのです」

「レディ、叔父君と一緒にうちに来ませんか?」

「はい?」

「うちのコレクションを見たら元気が出るはずです」

「申し訳ありません、本当に今の私には心の余裕がないのです」

「見るだけですから。オークションが終わったらお迎えに上がります」

男性が立ち去ると叔父様が戻って来た。

「今の男は?」

「何度かお見かけしたことがあります。オークションが終わったらお屋敷に招待してコレクションを見せてくださるとおっしゃっていました」

「エリンを?」

「叔父様も一緒です」

「どうも格上に見えるな。オークションに何度か来ているなら身元はしっかりしているだろうし、行くか」

「はい」


オークションが終わると従業員が呼びに来た。ついて行くと、黒い高級な馬車が待っていた。

「エリン……フォーソード大公家の馬車だ」

叔父様が耳打ちをした。

「帰りたいです」

「今更無理だ、腹を括れ」

御者がドアを開けると中にはさっきの彼がいた。

「あなた方の馬車は後ろからついて来ますのでどうぞ乗ってください」

乗り込むと彼は自己紹介を始めた。

「私はルシアン・フォーソード。先月父が亡くなったので大公になってしまいました」

「私は彼女の叔父のアレックス・マークスと申します。兄ディオンが当主です」

「私はエリン・シトロスと申します。ヘンリー・シトロスが夫です」

「あなた方は千里眼の持ち主のようで気になっておりました。今日こそはお誘いしようと強引になってしまったことをお許しください」

「こちらこそ、大公様と存じ上げずに失礼いたしました」


今日競り落とした品の話をしていると、王都内の大公邸に到着した。
フォーソード大公家は元々公爵で、この屋敷もその当時のまま維持している。
昔の戦争の活躍で、フォーソード領と隣国の辺境伯の統治する土地を合わせて大公国として独立を許された。
従属国の位置付けの小さな国ではあるけど、与えられた辺境伯の土地はダイアモンド鉱山も含まれていて、それをフォーソード大公国の自由にできた。

応接間に案内されソファに腰を下ろすと早速質問をされた。

「あのアーサー2世の指輪はどうして見向きもしなかったのですか? 実は私の今回の目的はあの指輪だったんです。ですがシトロス夫人が興味を示さなかったので札を上げませんでした」

「本当に私の場合は勘なのです。鑑定ができるわけではありません。今回は本物かどうかは関係なくあの指輪はどのみち手を付けなかったと思います」

「何故です?」

「アーサー2世は息を引き取るまでの5年間、奇病で苦しんだといわれた王様でした。彼の死後130年以上経ってアーサー2世は毒殺だったことが公表されたのはご存知ですよね?」

「ええ」

「王宮の老朽化で修繕工事が入った際に、壁の中から日記が出てきました。それはアーサー2世の妻イザベラ王妃の愛人が綴ったものでした。イザベラ王妃が寝所で語った悪夢のようなアーサー2世の壮絶な苦しみが事細かに記してあったそうです」

「そこまでは知りませんでした」

「毒を盛り苦しむ様子をその目で確かめ、子守唄のように閨事の後に語るイザベラ王妃に愛人は恐怖を抱いていました。自分が同じ目に遭わないよう、彼女に合わせて楽しむように聴き続けました。アーサー2世が生き絶えるまで続きました。当時に告発できなくとも、いつかアーサー2世の無念を晴らしたいと綴ったのです。そのアーサー2世が指にはめていた指輪ですよ? 苦しみと悲しみと無念と血が染み込んだ指輪は持ち主のお墓に返すべきだと思うのです。私にはお墓に返すために大金を出す余裕はありません」

「なるほど、イザベラ王妃といえば聖母と呼ばれた方でしたね」

「はい。その日記は教皇宛に送られたので隠匿されずに済みました。近々、イザベラ王妃の墓は掘り返され、火葬され、汚れた土地に捨て置かれることになるはずです」

「聖母ではなく魔女として死後に裁くのですね。それにしても随分と詳しいんですね」

「その日記を読んだことがあります」

「え? どうやって?」

「実はその日記、一度私の所有物になったことがあるんです。合鍵のないウォード錠付きの小さく古い木箱が古物店に並んでいました。例の修繕工事のときに壁から出てきたそれは少し破損していて、中身が紙だったので安値で売っていたんです。私は史書に興味があったので購入して壊して読んだのです」

「その日記はどうしたんですか?」

「全部読んだ後、教皇様宛に送りました。国に渡そうか迷いましたが、イザベラ王妃が生前聖母として崇拝され、王家の力を強固にしていましたので、日記が葬られると考えました。教皇様にお渡しして隠匿されたら仕方ないなって。教皇様のお手元に届かない恐れもありましたけど」

「無事届いて良かったですね」

「はい。誠実な方でホッとしました。何せ聖女と呼ばれた王妃の裏の顔を暴く行為ですからね。王家と教会が悪い方向で親密な可能性もありましたから。何故か私が送ったことがバレていまして、近々墓を掘り起こすといった内容のお手紙が届きました。ちょっと怖かったです」

「それは怖かったですね」

「でも、アーサー2世や愛人の無念を晴らせて良かったです。彼は好きで愛人になったのではなくて、イザベラに目を付けられ婚約者がで亡くなって、そのまま引き込まれて逃げられなかったのです。それに、そんなイザベラ王妃の犠牲になった人はもっといたと思います」

「日記が発見されなければ、イザベラ王妃は奇病にかかった王を懸命に看病し続けた良妻で、愛人はイザベラ王妃の心の隙を狙って取り入った悪者のままだったのですね」

「そうですね。本当に良かったです」

「そろそろコレクションを見に行きましょうか。ご満足いただけるかわかりませんが」

彼は叔父と私をコレクションルームに案内してくれた。




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