夫の愛が偽りだったと知った妻は離婚という名の復讐を決意する

ユユ

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実家の父

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1週間後。

大公様から名前で呼ぶように懇願され、その代わり私達に敬語は使わないよう要求した。身分差もあるし居候だし。

「エリン、アレックス殿、モーガンの絵が出品されるらしい」

彼は手紙を読みながら教えてくれた。

「ルシアン様はモーガンの絵をお持ちでしたね」

「対の絵を探しているんだ。コレかもしれない」

「その絵の大きさも連絡をいただけるようお願いしておくといいと思います。違うサイズにしているとは思えませんから」

ルシアン様の持っている画家モーガンの絵は、必ずもう1つの絵と対になっていることで有名だ。
1つの絵を割ったように描いた場合と、物語の2ページのようになっている場合があって、後者の場合は判断が難しいこともある。片方にしか署名をしていないので、解釈のすれ違いで対であることを見逃してしまうから。
モーガンはいろいろなサイズの絵を描く。葉書サイズもあれば人より大きなものもあるが、対の大きさは必ず同じだった。

「ルシアン様、このロケットペンダントは?」

「なんとなく気に入って買ったんだ。チェリーの絵が面白くてな。何で傷のあるチェリーを選んだんだか」

蓋を開けると中には絵がはめてあって、それは枝にぶら下がった何故か傷のあるチェリーの絵。

「あ!」

「どうした!?」

「これもモーガンの作品だと思います」

「これが?」

「実は私も同じロケットペンダントを持っているんです。中の絵は美しい鳥で、嘴の先が少し赤いんです。てっきりそういう模様の鳥かと思っていましたが、こちらのチェリーを食べた鳥なのではないでしょうか」

私と同じロケットペンダントを見て量産品なのかなと思ったけど、ルシアン様は大公様。そんな物を収集するはずはない。だから気になって中を見せてもらったのだけど、私の絵と違う。じっとよく見ると、チェリーの色と嘴の先の色が同じように感じた。

本来のチェリーの果肉は赤くはない。だけど色を付けないと鳥の嘴と同じ色になってしまい、対の絵というヒントがなくなってしまうからあえて皮の色をつけたのだろう。チェリーの方は鮮明に描かれているけど、鳥の方は背景をぼかして描いてあった。

「そのペンダントは何処に!?」

「実家ローズヴェルの私室です」

「ローズヴェル邸に行こう! 手紙を出す」

「ええ!?」

「ルシアン様、ローズヴェル邸は馬車で数日かかりますよ?」

「いいじゃないか。向こうの古物店も覗けるし、シトロス伯爵のことも報告しなければならない。そうだな、調査結果を手土産にして訪ねよう。どうかな?」

お父様への報告は避けて通れないものね。

「わかりましたわ」



私達は調査結果が出るまで、フォーソード邸に滞在し、古物店やオークションへ行き買い付けをしたり、美術館をみたりして過ごしていた。

シトロス邸を出てから80日近くが経った頃、揃った調査報告書を持って、3人でローズヴェル邸に向かった。

大公様を連れ帰った私と叔父様に、両親は驚いていた。友人になり調査をしてくれたと説明して報告書を父に渡した。

調査報告書
 ヘンリー・シトロス伯爵の素行調査
 シトロス伯爵家の財務状況

帳簿をどうやって調べたのかは秘密だと言われた。

モリーンについては……

モリーンの母ジュリーは裕福なバウンズ子爵と再婚したが、連れ子のモリーンはバウンズ籍に入っていない。モリーン・バウンズと名乗ることは許されているらしい。

ジュリーの初婚相手は男爵家の三男。だが男爵邸の下男と浮気をしてモリーンを妊娠。それが理由でジュリーは離婚された。

ジュリーはモリーンを連れて実家に帰った。
その後、夜会でバウンズ子爵と出会った。

ヘンリー様は、当時交際していた女性と会うために王都へ来ていた。プレゼントを買おうと宝石店に行ったときにモリーンと出会った。
声をかけたのはモリーンの方だった。

ヘンリー様が恋人と別れてモリーンと交際を始めたのが1年前。王都に来ては3つの高級宿を使い分けて逢瀬を重ねていた。
2人の使った宿やレストランや宝石店やドレス店の従業員から証言が取れている。
2人は夫婦だと認識されていた。ヘンリー様が会話の中で“妻”とモリーンのことを指したからだ。

ヘンリー様が1年間で購入した品物と金額と店と日付の一覧、そしてシトロス伯爵家の帳簿を要約したものも添付してあった。

私が教えた情報で得た利益をほとんど恋人に使っていて、ここ3ヶ月は利益以上に使い込んでいた。多分あの指輪が影響していると思う。

今回の滞在期間中もヘンリー様は買い物を続けているし宿代かかっている。3~4ヶ月の王都の高級宿代と食事代だけでかなりの額だ。
前回の逢瀬の支払いを見ると目眩がしてくる。収入を全てシトロス家に入れなくて良かった。たまに大きな収益が見込めそうな品だけ教えていただけだから。まあ、それも教えなければ私と実家と叔父様で分けることができたのだけど。

お父様は報告書を私に返した。

「おまえとあいつの結婚に難色を示したのは、良い噂を聞いていなかったからだ。だがおまえは結婚すると言い切った。それはあいつが心を入れ替えておまえを大事にする決意をしたか、おまえが女関係について容認する覚悟があるのだろうと思っていた。どちらも違ったようだな。出会いのこともちょっと違う。あいつは骨董品を買いに来たのではなく売りに来ていたんだ。よく古い装飾品を売りに来ると店員から聞いた。母親か祖母かはわからないが、シトロス伯爵家が保管していた昔の装飾品をこっそり金に変えていたのだろう。それも転売の上手いおまえがいるならなんとかすると思ったが、あいつは派手に使うようになったのだな」

「あのとき、きちんとお父様のお話を聞くべきでした」

「……それで?」

「ヘンリー様との結婚は5年になりました。子を授かっていない以上、彼がどう動くのかわかりません。私は離縁を申し立てます」

「それで?」

「ヘンリー様のいう共同事業はありませんでした。アリバイに使っていたリッヂモンド子爵家は何も知りません。
私はもう彼に支援はしません。恋人との交際費がかさんでいるのですぐに立ち行かなくなります。もしお金の無心に来た場合、断って欲しいのです。それと私の動きを悟られたくありません」

「わかった」

「離婚後はマークス家の領地に家を借りて暮らすつもりです」

「何故だ」

「え?」

「普通は実家に帰って来るものだろう」

「ですが、邪魔になるかと」

「おまえ1人増えたところで邪魔になどならん」

「……ありがとうございます、お父様」

「大公閣下、娘が大変お世話になりました」

「私の方が世話になったのですよ。おかげで古物のコレクションが増えました。まだまだ手に入れたい品がありますので助けていただきたいのです。今回も私が探していた品を彼女が実家の部屋に保管していることがわかり、図々しくも見せてもらいについてきたのです」

「そうでしたか。エリン、話はわかったから大公閣下のお望みの品を見せて差し上げなさい」

「はい」

あのお父様が、私がヘンリー様と離婚すれば当然実家に帰ってくるものだと思っていたことに驚いてしまった。

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