54 / 173
ハヴィエル・サルト(出会い)
しおりを挟む
【 ハヴィエルの視点 】
小さな領地だが海も少しあり温暖で豊かな土地を統治する男爵家の一人息子として生まれた。
男爵領とこの容姿のせいで誘いは絶えなかった。
学園で、ある娘と仲良くなった。
平民でも豊かな家の娘だった。ケイトリンという赤毛で薄茶色の瞳の可愛らしい娘だった。
商家の娘から伯爵家の令嬢まで縁談を持ちかけられたが、ケイトリンが頭から離れなかった。
ケイトリンは気さくに私に話しかけ笑顔を振り撒く。私は彼女に好きだと告げた。
ケイトリンは嬉しそうに私の手を握った。
父に相談したら貴族教育を受ける事で迎え入れることを承諾してもらえた。
卒業してすぐ婚姻をして貴族教育を始めたが進捗は芳しくなかった。
その矢先に、高熱にうなされること数日。
熱が下がり意識がはっきりすると目がほとんど見えなくなっていた。
何をするにもほとんど介助が必要で、ケイトリンは貴族教育と私の介助に嫌気がさしたのか離縁届を置いて家を出た。
大した介助はさせていないのに。
妻の実家に行くと、瞳の中心が白濁化していて嫌だと言っていたことがわかった。
それに貴族教育が嫌なのだとか。
『娘は男爵夫人を甘く見ていたようです』
『子供の頃から貴族という存在に夢見ていたので、現実は違うと反対はしていたのですが』
つまり恋愛結婚だと思っていたのは私だけだったわけだ。
『サルト領には足を踏み入れないように』
慰謝料を辞退してその足で従者と共に離縁届を提出しに王都へ向かった。
ついでに目を理由に国王陛下から登城義務の除外認定を受けた。これにより、国王が直々に発行する登城命令以外は何が届いても欠席を許されることになった。
年月とともにほとんど見えない目にも慣れ、聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされた。
それに言葉を発するタイミングや調子など些細な変化から嘘や悪意を聞き分けることができ、嗅覚で相手から発する匂いで判断がつくことも多かった。
嘘をついたと思われる者を問い詰めると汗をかきその匂いが私に警戒しろという知らせになる。
媚薬の類が混ざられてもわかる。
あれから10年。一昨年男爵位を継いで落ち着いたので挨拶と男爵になってからも登城義務の除外認定を継続してもらえるよう、この目を見せて印象付けてきた。
時間潰しに裏中庭のベンチを探していたところで人が近付いて来た。
使用人?貴族?どちらの匂いもする。
『お困りですか』
澄んだ声に一気に警戒心を解いた。彼女の声は私を心配している声だった。
聞けば令嬢なのに騎士団の雑用係をやっているという。
優しく話を聞き出すとだいぶ複雑なことになっているのが分かった。
従兄に思いを寄せていて、貴族の義務と叱られて、婚約したはいいがよく絡まれるらしい。
彼女なりに思いを断ち切ろうとして距離を置き、働いて生きがいを得ている頑張り者だった。
力になりたいとは思ったが、伯爵家の令嬢で独立をさせられない程の容姿をしているなら、目の不自由な私では守ってやれないだろう。
そう言うと彼女は笑っていた。
領地に戻り、父上に尋ねた。
『アネット・ゲランをご存知ですか』
『滅多にお目にかかれないヴィーナスと呼ばれる令嬢だな。他にもいろいろな二つ名があるが。
急にどうした』
『実は文通友達になりそうです』
『あのご令嬢とか!?』
『はい。悩みを抱えているようで、大きな問題は容姿のようです。どのように問題なのですか』
『美しいとも可愛いとも言えるが、国中の美女を集めても彼女に敵う女などいないだろう。デビューの時に目にしたが、多くの男達が惹きつけられた。
まだ少女だというのに見事な曲線美で悩殺していたよ』
『それほどですか』
『王子がいたら間違いなく娶られるだろうな。
うちは王女しかいないが、その王女のお気に入りと言われている。
だが滅多に表に出てこない。家族が守っているのだろう』
『近衛騎士団の雑用係をやっていました』
『それは……どうしてだ?』
『働くことへのやり甲斐と自立心のせいだと思いますが、まあいろいろと家族からの反対に抵抗しているようですが、最近負けて婚約したようです。
でもやっぱり心が追いつかないようで戸惑っていました。
私の目がちゃんと見えていたら助けてあげたのに』
『ハヴィエル…彼女は手に負えない』
『次期バトラーズ公爵夫人ですしね。
ですが心の綺麗な子でした。可哀想で』
『そうか。中身も美しいのか。
じゃあ、せめて文通で支えてあげなさい』
『そうします』
そして、何通かやりとりした後に返事が来なくなった。
しばらくしてゲラン伯爵夫人からお詫びの手紙が届いた。
『父上!』
『どうした』
『アネットの母上から手紙が届いて!
アネットが、大怪我をして王宮で治療を受けているから当面返事を書けないし手紙も読んでいないと』
『王宮でということは仕事中ということか?令嬢なのに大怪我なんて』
『アネットに会いたい』
『手紙を見せなさい。
……面会制限がかかっているから約束を取り付けないと行っても会えない。
王宮宛にして手紙を書けば目の負傷や意識がないわけではないなら読んでもらえるだろう』
『直ぐに誰かに書いてもらいます』
『ハヴィエル、もっと冷静になりなさい。
お前らしくもない』
『すみません』
手紙を書くと代筆で返事が来た。
“お手紙をありがとうございます。
屋敷に戻れておらず、痛みに苦しみ、失念しておりました。お手紙を放ってしまい申し訳ございません。
王宮で襲われて酸をかけられました。もう貴族令嬢としては引退です。
今、婚約の解消を交渉しているところで、除籍も狙っております。
どこまで治るかわかりませんが治療を終えたら、王都を離れて移住し、職を探そうと思っています。
文通は難しくなるかもしれません。お許しください”
小さな領地だが海も少しあり温暖で豊かな土地を統治する男爵家の一人息子として生まれた。
男爵領とこの容姿のせいで誘いは絶えなかった。
学園で、ある娘と仲良くなった。
平民でも豊かな家の娘だった。ケイトリンという赤毛で薄茶色の瞳の可愛らしい娘だった。
商家の娘から伯爵家の令嬢まで縁談を持ちかけられたが、ケイトリンが頭から離れなかった。
ケイトリンは気さくに私に話しかけ笑顔を振り撒く。私は彼女に好きだと告げた。
ケイトリンは嬉しそうに私の手を握った。
父に相談したら貴族教育を受ける事で迎え入れることを承諾してもらえた。
卒業してすぐ婚姻をして貴族教育を始めたが進捗は芳しくなかった。
その矢先に、高熱にうなされること数日。
熱が下がり意識がはっきりすると目がほとんど見えなくなっていた。
何をするにもほとんど介助が必要で、ケイトリンは貴族教育と私の介助に嫌気がさしたのか離縁届を置いて家を出た。
大した介助はさせていないのに。
妻の実家に行くと、瞳の中心が白濁化していて嫌だと言っていたことがわかった。
それに貴族教育が嫌なのだとか。
『娘は男爵夫人を甘く見ていたようです』
『子供の頃から貴族という存在に夢見ていたので、現実は違うと反対はしていたのですが』
つまり恋愛結婚だと思っていたのは私だけだったわけだ。
『サルト領には足を踏み入れないように』
慰謝料を辞退してその足で従者と共に離縁届を提出しに王都へ向かった。
ついでに目を理由に国王陛下から登城義務の除外認定を受けた。これにより、国王が直々に発行する登城命令以外は何が届いても欠席を許されることになった。
年月とともにほとんど見えない目にも慣れ、聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされた。
それに言葉を発するタイミングや調子など些細な変化から嘘や悪意を聞き分けることができ、嗅覚で相手から発する匂いで判断がつくことも多かった。
嘘をついたと思われる者を問い詰めると汗をかきその匂いが私に警戒しろという知らせになる。
媚薬の類が混ざられてもわかる。
あれから10年。一昨年男爵位を継いで落ち着いたので挨拶と男爵になってからも登城義務の除外認定を継続してもらえるよう、この目を見せて印象付けてきた。
時間潰しに裏中庭のベンチを探していたところで人が近付いて来た。
使用人?貴族?どちらの匂いもする。
『お困りですか』
澄んだ声に一気に警戒心を解いた。彼女の声は私を心配している声だった。
聞けば令嬢なのに騎士団の雑用係をやっているという。
優しく話を聞き出すとだいぶ複雑なことになっているのが分かった。
従兄に思いを寄せていて、貴族の義務と叱られて、婚約したはいいがよく絡まれるらしい。
彼女なりに思いを断ち切ろうとして距離を置き、働いて生きがいを得ている頑張り者だった。
力になりたいとは思ったが、伯爵家の令嬢で独立をさせられない程の容姿をしているなら、目の不自由な私では守ってやれないだろう。
そう言うと彼女は笑っていた。
領地に戻り、父上に尋ねた。
『アネット・ゲランをご存知ですか』
『滅多にお目にかかれないヴィーナスと呼ばれる令嬢だな。他にもいろいろな二つ名があるが。
急にどうした』
『実は文通友達になりそうです』
『あのご令嬢とか!?』
『はい。悩みを抱えているようで、大きな問題は容姿のようです。どのように問題なのですか』
『美しいとも可愛いとも言えるが、国中の美女を集めても彼女に敵う女などいないだろう。デビューの時に目にしたが、多くの男達が惹きつけられた。
まだ少女だというのに見事な曲線美で悩殺していたよ』
『それほどですか』
『王子がいたら間違いなく娶られるだろうな。
うちは王女しかいないが、その王女のお気に入りと言われている。
だが滅多に表に出てこない。家族が守っているのだろう』
『近衛騎士団の雑用係をやっていました』
『それは……どうしてだ?』
『働くことへのやり甲斐と自立心のせいだと思いますが、まあいろいろと家族からの反対に抵抗しているようですが、最近負けて婚約したようです。
でもやっぱり心が追いつかないようで戸惑っていました。
私の目がちゃんと見えていたら助けてあげたのに』
『ハヴィエル…彼女は手に負えない』
『次期バトラーズ公爵夫人ですしね。
ですが心の綺麗な子でした。可哀想で』
『そうか。中身も美しいのか。
じゃあ、せめて文通で支えてあげなさい』
『そうします』
そして、何通かやりとりした後に返事が来なくなった。
しばらくしてゲラン伯爵夫人からお詫びの手紙が届いた。
『父上!』
『どうした』
『アネットの母上から手紙が届いて!
アネットが、大怪我をして王宮で治療を受けているから当面返事を書けないし手紙も読んでいないと』
『王宮でということは仕事中ということか?令嬢なのに大怪我なんて』
『アネットに会いたい』
『手紙を見せなさい。
……面会制限がかかっているから約束を取り付けないと行っても会えない。
王宮宛にして手紙を書けば目の負傷や意識がないわけではないなら読んでもらえるだろう』
『直ぐに誰かに書いてもらいます』
『ハヴィエル、もっと冷静になりなさい。
お前らしくもない』
『すみません』
手紙を書くと代筆で返事が来た。
“お手紙をありがとうございます。
屋敷に戻れておらず、痛みに苦しみ、失念しておりました。お手紙を放ってしまい申し訳ございません。
王宮で襲われて酸をかけられました。もう貴族令嬢としては引退です。
今、婚約の解消を交渉しているところで、除籍も狙っております。
どこまで治るかわかりませんが治療を終えたら、王都を離れて移住し、職を探そうと思っています。
文通は難しくなるかもしれません。お許しください”
192
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは、聖女。
――それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王によって侯爵領を奪われ、没落した姉妹。
誰からも愛される姉は聖女となり、私は“支援しかできない白魔導士”のまま。
王命により結成された勇者パーティ。
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い。
そして――“おまけ”の私。
前線に立つことも、敵を倒すこともできない。
けれど、戦場では支援が止まれば人が死ぬ。
魔王討伐の旅路の中で知る、
百年前の英雄譚に隠された真実。
勇者と騎士、弓使い、そして姉妹に絡みつく過去。
突きつけられる現実と、過酷な選択。
輝く姉と英雄たちのすぐ隣で、
「支えるだけ」が役割と思っていた少女は、何を選ぶのか。
これは、聖女の妹として生きてきた“おまけ”の白魔導士が、
やがて世界を支える“要”になるまでの物語。
――どうやら、私がいないと世界が詰むようです。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編 32話
第二章:討伐軍編 32話
第三章:魔王決戦編 36話
※「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる