【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ハヴィエル・サルト(出会い)

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【 ハヴィエルの視点 】

小さな領地だが海も少しあり温暖で豊かな土地を統治する男爵家の一人息子として生まれた。

男爵領とこの容姿のせいで誘いは絶えなかった。

学園で、ある娘と仲良くなった。
平民でも豊かな家の娘だった。ケイトリンという赤毛で薄茶色の瞳の可愛らしい娘だった。

商家の娘から伯爵家の令嬢まで縁談を持ちかけられたが、ケイトリンが頭から離れなかった。

ケイトリンは気さくに私に話しかけ笑顔を振り撒く。私は彼女に好きだと告げた。
ケイトリンは嬉しそうに私の手を握った。

父に相談したら貴族教育を受ける事で迎え入れることを承諾してもらえた。

卒業してすぐ婚姻をして貴族教育を始めたが進捗は芳しくなかった。

その矢先に、高熱にうなされること数日。
熱が下がり意識がはっきりすると目がほとんど見えなくなっていた。

何をするにもほとんど介助が必要で、ケイトリンは貴族教育と私の介助に嫌気がさしたのか離縁届を置いて家を出た。

大した介助はさせていないのに。

妻の実家に行くと、瞳の中心が白濁化していて嫌だと言っていたことがわかった。
それに貴族教育が嫌なのだとか。

『娘は男爵夫人を甘く見ていたようです』

『子供の頃から貴族という存在に夢見ていたので、現実は違うと反対はしていたのですが』

つまり恋愛結婚だと思っていたのは私だけだったわけだ。

『サルト領には足を踏み入れないように』

慰謝料を辞退してその足で従者と共に離縁届を提出しに王都へ向かった。

ついでに目を理由に国王陛下から登城義務の除外認定を受けた。これにより、国王が直々に発行する登城命令以外は何が届いても欠席を許されることになった。


年月とともにほとんど見えない目にも慣れ、聴覚や嗅覚が研ぎ澄まされた。
それに言葉を発するタイミングや調子など些細な変化から嘘や悪意を聞き分けることができ、嗅覚で相手から発する匂いで判断がつくことも多かった。

嘘をついたと思われる者を問い詰めると汗をかきその匂いが私に警戒しろという知らせになる。
媚薬の類が混ざられてもわかる。

あれから10年。一昨年男爵位を継いで落ち着いたので挨拶と男爵になってからも登城義務の除外認定を継続してもらえるよう、この目を見せて印象付けてきた。

時間潰しに裏中庭のベンチを探していたところで人が近付いて来た。

使用人?貴族?どちらの匂いもする。

『お困りですか』

澄んだ声に一気に警戒心を解いた。彼女の声は私を心配している声だった。

聞けば令嬢なのに騎士団の雑用係をやっているという。
優しく話を聞き出すとだいぶ複雑なことになっているのが分かった。

従兄に思いを寄せていて、貴族の義務と叱られて、婚約したはいいがよく絡まれるらしい。

彼女なりに思いを断ち切ろうとして距離を置き、働いて生きがいを得ている頑張り者だった。

力になりたいとは思ったが、伯爵家の令嬢で独立をさせられない程の容姿をしているなら、目の不自由な私では守ってやれないだろう。

そう言うと彼女は笑っていた。



領地に戻り、父上に尋ねた。

『アネット・ゲランをご存知ですか』

『滅多にお目にかかれないヴィーナスと呼ばれる令嬢だな。他にもいろいろな二つ名があるが。

急にどうした』

『実は文通友達になりそうです』

『あのご令嬢とか!?』

『はい。悩みを抱えているようで、大きな問題は容姿のようです。どのように問題なのですか』

『美しいとも可愛いとも言えるが、国中の美女を集めても彼女に敵う女などいないだろう。デビューの時に目にしたが、多くの男達が惹きつけられた。
まだ少女だというのに見事な曲線美で悩殺していたよ』

『それほどですか』

『王子がいたら間違いなく娶られるだろうな。
うちは王女しかいないが、その王女のお気に入りと言われている。

だが滅多に表に出てこない。家族が守っているのだろう』

『近衛騎士団の雑用係をやっていました』

『それは……どうしてだ?』

『働くことへのやり甲斐と自立心のせいだと思いますが、まあいろいろと家族からの反対に抵抗しているようですが、最近負けて婚約したようです。

でもやっぱり心が追いつかないようで戸惑っていました。

私の目がちゃんと見えていたら助けてあげたのに』

『ハヴィエル…彼女は手に負えない』

『次期バトラーズ公爵夫人ですしね。

ですが心の綺麗な子でした。可哀想で』

『そうか。中身も美しいのか。
じゃあ、せめて文通で支えてあげなさい』

『そうします』


そして、何通かやりとりした後に返事が来なくなった。

しばらくしてゲラン伯爵夫人からお詫びの手紙が届いた。

『父上!』

『どうした』

『アネットの母上から手紙が届いて!
アネットが、大怪我をして王宮で治療を受けているから当面返事を書けないし手紙も読んでいないと』

『王宮でということは仕事中ということか?令嬢なのに大怪我なんて』

『アネットに会いたい』

『手紙を見せなさい。

……面会制限がかかっているから約束を取り付けないと行っても会えない。
王宮宛にして手紙を書けば目の負傷や意識がないわけではないなら読んでもらえるだろう』

『直ぐに誰かに書いてもらいます』

『ハヴィエル、もっと冷静になりなさい。
お前らしくもない』

『すみません』



手紙を書くと代筆で返事が来た。

“お手紙をありがとうございます。
屋敷に戻れておらず、痛みに苦しみ、失念しておりました。お手紙を放ってしまい申し訳ございません。

王宮で襲われて酸をかけられました。もう貴族令嬢としては引退です。

今、婚約の解消を交渉しているところで、除籍も狙っております。
どこまで治るかわかりませんが治療を終えたら、王都を離れて移住し、職を探そうと思っています。

文通は難しくなるかもしれません。お許しください”





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