【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ハヴィエル・サルト(移住の受け入れ)

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【 ハヴィエルの視点 】


『酸か……酷いことをする』

『完治は難しいのですか』

『無理だな。皮膚は焼け爛れたようになり恐ろしい見た目になるし、引き攣って可動範囲が狭まる。
例えば、指の場合は指同士がくっついてしまったりするんだ』

『側にいられたらいいのに』

『……』



数週間後、父が王都から帰ってきた。

『犯人はバトラーズ公爵令息に仮想をしていた侯爵令嬢だ。令息絡みの襲撃は初めてではないようだ。

財産の没収と侍女の処刑と令嬢の流刑になった。しかも特級罪人としての流刑だ』

『特級罪人』

『これで彼女が王家にとってどの位置にいるのか明らかになった。
もう彼女に手出しする者は馬鹿くらいだろう。

婚約解消はバトラーズ公爵令息が拒否をしていた様だが、国王陛下の介入で解消が成された。

面会の予定を組んできた。
お前が本気なら説得して来い』

『いいのですか!?』

『いいも何も、既に心を奪われているではないか。移住先を探しているなら他所に取られたら困るだろう。婚約を解消したのだからチャンスだぞ』

『ありがとうございます』

『だが、誘致しても彼女の心が手に入るとは限らない。向こうの方が格上だし、彼女には忘れられない初恋の相手がいるのだろう?
その辺りの覚悟をしてから行きなさい』



やっと面会日になりアネットと話せた。
久しぶりに声が聞けて嬉しかったが、時折痛みを堪える声も聞こえた。
なぜ婚約がこんな危険なことに…。

『移住の地をサルトにしてくれないか。友人の再出発の地になったら嬉しい』

『ご迷惑では?』

『そんなわけがない。イエスと言ってくれたら手助けするよ』

『少し考えさせてください。どこまで治るのかにもよりますので』

『分かった』


面会を終えて少し歩くと側で声がした。

『これはバトラーズ公爵令息』

『サックス侯爵令息』

『話は全て聞きました。ステファニーまで利用なさるとは。驚きましたよ、もっと高潔な方かと思っていました。

大事な従妹に二度と近付かないでくださいね』

名前と話の内容から、アネットの元婚約者とアネットの想い人だと分かった。

バトラーズ公爵令息は苛立ち、従兄のサックス侯爵令息は怒りに満ち溢れていた。強い殺気まで漂っている。

そして僅かに感じた言葉の紡ぎ方からアネットと従兄は両想いだと分かった。

父の言う通り、私は一生片想いになりそうだ。だがもうチャンスを逃すつもりはない。



後日、アネットから了承の手紙が届き、海に近い土地を急いで均し、小規模の屋敷を建てた。

王宮を出る日にまた会うように王都に来て宿を取っていた。午前中に王宮を出てからゲラン邸に寄り荷物を取って宿に来るというので昼間過ぎくらいかと思っていたがやってきたのはティータイムの時間だった。

『お別れをしてきて時間がかかってしまいました。ごめんなさい』

『……いや、ちゃんと別れられたんだね?』

『はい』

『ならいい。明朝の出発にしよう』

平静を装うのが大変だった。彼女から男の匂いがしたからだ。しかも男の体臭と精液の匂いだ。

想い人いとこに抱かれてきたのだと分かった。

こんなに心を乱されるものなのか。前妻ケイトリンとは恋愛だと思っていたが、この感情を知ってからは今がソレだと分かる。

あたたかくなる心。何時も離れない存在。焼けるような嫉妬心。間違いない。


翌朝、従兄の匂いの消えたアネットに安堵した。あのまま同じ馬車に乗っていたら私は何をしでかしたか分からなかったから。



サルト領で既に宿の予約をしていたようで、ひとまず別れたが、使用人を迎えに行かせた。

『旦那様、お連れのレディを宿に泊めるのは危険です。美し過ぎます。変装なさっているようですが隠しきれていません』

その言葉に慌てて金を持たせた。
宿代一週間分を支払ってアネットを連れて来させた。

次に父上に会わせた。

『ハヴィエルの父でジェロームと申します。サルト邸へようこそ』

『アネット・ゲランと、あっ、アネット・フィンネルと申します。一代限の領地無し社交免除の準子爵になります。
よろしくお願いいたします。

居候をさせていただくことになりました。
一日でも早く新居に移りますのでご容赦くださいませ』

『ハヴィエルの友人なのだから堂々と滞在してください。私は引退して息子が継ぎました。私の許可は必要ありません。

部屋は充分ですか?何か足りないものがあれば仰ってください』

『サルト様、ハヴィエル様と同じように気兼ねなくお話しください。気が引けます』

『分かった。娘のように話しかけよう。
明日、町でも案内させよう』

『まずはハヴィエル様のお母様にご挨拶をしませんと。お花を買いに行ってお墓に案内してもらうことは可能ですか』

『もちろんだ。妻も喜ぶよ』

『どんなお花がお好きかしら。教えてくださいますか』

『黄色か白の花が好きだった』

『ではその色にしますわ』

すっかり父上と仲良くなって、翌日には父上も付いてきて町で花を買い墓参りをした。

庭の花でいいと言ったが、今回はそれでは駄目だと引かなかった。
白と黄色で様々な種類の花束を作ったようだ。実に珍しいブーケが仕上がったと父上が言った。

『確かにごちゃついていますが、一つ一つ楽しめますわ。香りだって違いますし。
自分で買うなら好きな物、人からもらうなら挑戦ですわ』

『挑戦?』

『日頃選ばない物を手にして楽しむチャンスなのです』

『妻も興味津々だな』

『はい、そうだと嬉しいです。

シルビア様、少し騒がしくしてしまいますがお許しください。お気に召さないことがあるようでしたら夢に出てきていただければ直しますので仰ってください。

出来ないことも多いので、その時は諦めてください。その代わりにお供えの要求をお伝えくだされば賄賂をお渡ししますわ』

『ハハッ、君は本当に、』

『愛らしいお嬢さんだ』

母上の墓参りが笑いに包まれたのは初めてだった。

そういえばケイトリンは一度と墓参りをしたことが無かったし、聞いてきたことも無かった。








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