【完結】ずっと好きだった

ユユ

文字の大きさ
146 / 173

帝国 (帝王の最期)

しおりを挟む
【 帝王の視点 】


噂の娘を目の前にして上手く言葉が出なかった。

噂は聞いていた。娘の母親の時から。
だが、帝国も妃や愛人は皆美しいか可愛い娘を召してきた。だから気にもとめてなかった。





セーレンが薬草を使って他の従属国を脅しているからとアクエリオンが調査に向かい、その後、レオンとブリアックが長く城を空けた。

何故こんなに長いのか間者に聞いてみた。

『優れた双子がおります。
メディ副団長も敵わない兄と、信じられないほどの美しい妹でした。

母親は更に美しく、双子の他にもう一人子を産んでいます』

『どれほど美しい』

『………』

『どんな表現でも怒りはせん』

『お妃様方が霞むほどです』


失敗した。あの時に母親の方を召していれば良かった。

双子ともう一人か。それではもう緩いだろう。

『双子の歳は分かるか』

『18歳で学生です』

『レオンを呼べ』



レオンは美女の話を省いた。

余の側妃にすると言ったら顔色を変えた。

自分が娶る気か?

強く命じて宰相を呼び、レオンとの話をするとレオンに賛同した。

『陛下、流石に外聞が悪いです』

気のせいか。



レオンとブリアックが交渉に出向き、レオンだけが先に帰ってきた。

『治療が必要なのか。何故幼い頃に治さなかった』

『帝国はそれだけ薬草や治療に長けているだけで、他所の国はそうではありません。
野犬に左腕を咬まれ、捻られながら引き摺り回されたそうです。

今でも痛みが残り、あまり動かせません。
王子の婚約内定までいったようですが、あの腕では王妃になるかも知れない妃は難しいと判断され取り消されました。

あれでは閨にも影響があります』

『それほどか』

『当時は腕は諦めた方がいいと言われるほどの怪我だったそうです』

『分かった』

『社交もせず、田舎で暮らしてきた令嬢で人見知りが激しく、兄のライアンが面倒をみています。
二人を一緒に滞在させるとなれば空いている宮を使わせねばなりません。
王太子妃宮にします。あそこは治療塔からも近いですから』

『ん~』

『父上が退位するまでには治療、婚約を経て婚姻が可能でしょう。引退後の楽しみとして取っておくのもよろしいかと思います』

『そうだな。だが、約束しなければならないのか?』

『署名して玉璽を押印するだけです。
不安で浮かない顔をした娘より、安心して微笑んでいる娘の方がいいでしょう。美しいなら尚更です』

『よし、分かった。護衛が二人でメイド無しか』

『信頼している証でしょう』

『そうだな。呼び寄せろ』

『到着したら優しい言葉を掛けてあげてください。帝王と聞いてかなり緊張していましたから。
身分差がありすぎて震えていました』

『田舎の男爵家ではな。
もちろん優しくしよう』

『では、ブリアックに伝書を出します』





商人を呼べば、私の瞳の色の小さな石のついたネックレスを選んだようだ。

『レオン、他には?』

『令嬢が望んだのはあのネックレスのみ。
仕方がないので適当に服などを作るよう私から商人に命じました』

『控えめな娘だ』

『恥ずかしがっておりましたね。今度花でも選んで贈ってあげてください』

『よし、次に晴れたら庭に出てみるか』

花を贈ったらレオンがやって来た。

『父上、何故あの花なのです』

『? 綺麗だろう』

『あの花の花言葉は軽蔑ですよ。部屋に閉じこもってしまったではありませんか。
別の花を用意しますから、メッセージカードでも書いてください』

『花言葉なんて……』

“花言葉を知らずに悪かった。
ただ美しいと思い贈ったのだ。
機嫌を直して欲しい”



数日後にティータイムを過ごした。

『ミーシェ嬢、申し訳ない。切り分けないと食べられない菓子を用意してしまったようだ』

『グスン』

『ミーシェ、切ってあげるから大丈夫。
陛下もこんなことで嫌いになったりなさらないから』

『ライアン』

『ほら、切れたよ。落ち着いて食べなさい』

なるほど。これでは閨も不自由だな。

『すまなかったな。次からはフォークかスプーンで済ませられる菓子を出させるから』

『ありがとうございます、陛下』




二週間が経った頃、レオンがミーシェと乗馬に出かけたと聞いた。

『何故だ!余の妃だぞ!』

『あれも治療の方針を決める為のものですし、痛みを抱えている者が他国でずっと閉じこもっていては心が病んでしまいます。
気分転換も必要です。

父上はそう簡単に外へ出られないでしょう』

『治療の方針とは何だ』

『手綱を持っているとすると、この角度は良くて、こうやって引くのは痛いそうです。
馬に餌をやれるのか、頬を撫でることができるのか、様々な動きをさせました。

医師には報告済みで、それを元にリハビリを再考するそうです』

『そうか、すまなかった』

『自分の父親の妻になる女に手出しなんかしませんよ。ガブリエルじゃあるまいし』

『は?』

『……ご存知だと思っていました。
生前、ガブリエルは父上の妾と楽しんでいました。

私には父親と女を共有するなどとてもできません』

『死んで当然だったという訳か』




ほとんど会えない日々ではあったが、会うとニコニコと美しさを綻ばせる。

ミーシェが来てから三ヶ月経とうとしていた。

医師も、大分良くなってきたと言っていた。
もう少しで娶れると思っていた。


『陛下、ダイアナ様より謁見の希望がございました』

『ダイアナ?』

『王太子殿下の第二側妃様です』

『30分後に会う』




会ってみると目の下にクマを作り、肌は荒れて、表情も険しかった。

『客人と王太子殿下についてご報告がございます。人払いをお願いいたします』

嫌な予感がして、人払いをして話を聞いた。

『王太子殿下は客人に入れ込んでいるようです』

『対応を任せているだけだ』

『では、何故私とユゲット様を客人と見立てて抱くのです』

『は?』

『これまでは淡白な閨だったのに、客人を迎えてから荒々しく抱くのです。顔は見ないようにして』

『其方の勘違いではないか?』

『ユゲット様が最初に仰ったのです。指摘されてから注視してお迎えいたしましたが、確かに私の顔を見ようとせず、正面を向く時はクッションを顔に当てます。

窓の近くて奉仕した時は王太子妃宮を見つめておられました。

そして、そんな閨について私を侮辱したメイドを罰したら、王太子殿下は私には大した価値はないが客人は希少な価値があると言って、私を3日間閉じ込めて、湯浴みも身支度もさせず、水と塩だけで過ごさせたのです。

きっと、陛下の退位を狙い、その後で客人を自分の妃に据えるおつもりですわ!』


『分かった。確かめよう』


夜、侍従に何人か兵士を集めさせ王太子妃宮に向かった。

王太子妃宮の外で警備をする兵を取り押さえさせ、中の使用人も連れてきた兵士に食堂に集めさせた。

二階へ進むと部屋の前に二人兵がいた。

『退け』

『なりません、陛下』

『押さえつけろ』

結局連れてきた兵士を全て使ってしまった。

一人で部屋に入り、扉を閉めた。

寝ているようだ。

毛布を剥ぎ、寝巻きのリボンを解いて衣をはだけさせると美しい胸がでてきた。

触れると吸い付くように沈み形を変える。

何て柔らかな胸なんだ。
これまでの女達とは雲泥の差だ。

鷲掴みにしたり頂を摘んだりしているうちに痛いほど勃ち上がっていた。

ベッドを降り、自身の服を全て脱ぎ、ミーシェの下着を脱がせた。

胸を口に含もうと、ミーシェに跨った時だった。

陰茎を掴まれたと思ったら覚えの無い痛みが一瞬走った。その後は強烈な痛みに変わり、股間に手を当てたら、あるべきはずのモノが無く、温かい液体でヌルヌルしていた。

パッと灯りがついた。
ミーシェは私の下にはおらず、壁際にいた。
右手にはナイフ、左手には布と肉片が握られていた。

その肉片を私の側に投げた。
良くみると陰茎だった。
そこで痛みの走る股間を見るとドボドボと血が吹き出していた。

私の陰茎を切り取った?

『ぎゃあああああ!!』

そこにライアンが飛び込んできた。

『大丈夫かミーシェ』

『ジェイがいるから大丈夫』

ミーシェの視線の先を見ると男が立っていた。
いつから居た!?

『ディーは?』

『宰相に会っているレオン様を呼びに行った』

『完璧だな』

『俺はこいつが連れてきた兵士を始末してくる』

『ありがとう、ジェイ』

『では私はこいつを始末するか』

『待て!私はダイアナがミーシェとレオンが出来ていると聞いたから』

『そんなわけないでしょう。私は自国の王子の恋人ですよ?』

そんな馬鹿な!

『医者を!助けて!』

『色狂いの変態が。私の大事なものに手を出せばどうなるかその身で知るといい』

髪を掴まれて胸を一突きされ、段々と意識が遠のいた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは、聖女。 ――それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王によって侯爵領を奪われ、没落した姉妹。 誰からも愛される姉は聖女となり、私は“支援しかできない白魔導士”のまま。 王命により結成された勇者パーティ。 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い。 そして――“おまけ”の私。 前線に立つことも、敵を倒すこともできない。 けれど、戦場では支援が止まれば人が死ぬ。 魔王討伐の旅路の中で知る、 百年前の英雄譚に隠された真実。 勇者と騎士、弓使い、そして姉妹に絡みつく過去。 突きつけられる現実と、過酷な選択。 輝く姉と英雄たちのすぐ隣で、 「支えるだけ」が役割と思っていた少女は、何を選ぶのか。 これは、聖女の妹として生きてきた“おまけ”の白魔導士が、 やがて世界を支える“要”になるまでの物語。 ――どうやら、私がいないと世界が詰むようです。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー編 32話  第二章:討伐軍編 32話  第三章:魔王決戦編 36話 ※「カクヨム」、「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...