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第四章 新たなる展開

4ー7 将来展望と先住民の音楽

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 その日からマイケルとサラは一緒に過ごす時間が多くなった。
 今までも一緒だったが、もっと親密度が増していた。

 周囲の者もそれを敏感に感じ取っていたが何も言わなかった。
 ただ、バカンスの終了前日、ベッドに入ってから、同室のヘンリーがマイケルに言った。

「マイケル、つかぬ事を聞くけれどサラと結婚の約束をした?」

「いや、・・・。
 どうして?」

「サラの君に対する態度が少し変わったね。
 前から、君に想いは寄せていたけれど・・・。
 それが大胆になった様に思う。
 座るときは必ずといっていいほど君の隣に座るし、今までより距離が近づいた。
 だから、二人で結婚の約束をしたのかなと思って・・・。」

「先日、彼女の誕生日に、サラから愛を打ち明けられた。
 僕も彼女を愛していると答えた。
 いずれは結婚したいと思っている。」

「そうか、・・・・。
 君になら妹を託せる。
 妹を大事にして欲しい。」

「ありがとう。
 ヘンリー、彼女は僕にとって大事な人だ。
 彼女が悲しむようなことはしないよ。」

「頼む。
 それと・・・・。
 来月には僕も二十歳になる。
 僕もメリンダに僕の心を打ち明けたいと思っている。
 いいかな?」

「僕に聞くことじゃないな。
 二人の関係だ。
 君はいい奴だと思っているが、メリンダがどう考えるかは彼女が判断するだろう。
 僕は、18歳のサラを一人の女性として見ているし、メリンダも19歳になって、一人前の女性だと思っている。
 社会的に認められた成人かどうかは別にして、メリンダは十分に大人の心を持っている。
 少なくとも僕が保護してやらなければならない幼子ではない。
 君がどんな風に打ち明けるのかは知らないが、結果はどうあれ、メリンダは自分の判断でそれに応えられると信じているよ。」

「分かった。
 ありがとう。」

 4月11日、束の間のバカンスが終わり、一行はそれぞれの思いを胸にニューベリントンに戻ったのである。
 
 ◇◇◇◇

 ニューベリントンに戻ってからも忙しい毎日が続いていた。
 毎月一回のレコーディングと地方公演、レイチェルの夏のモードコレクション、放送局や各種催しでの短いステージ、ラジオを含むトーク番組への出演、広告などの写真撮影など、分刻みのスケジュールをこなしている。

 だが週に一回の休暇は必ずとる様にしており、時折、ボランティアで擁護院や福祉施設などへの慰問も行っている。
 人気の方は全く落ちておらず、驚異的なCDの販売量になっている。

 発売するCDが悉くミリオンセラーになっており、それも500万枚以上の数値を叩き出し、既に、昨年一年間のMLSのCD全売り上げ枚数をフォーリーブスだけで超えている状況である。
 特に国内だけでなく海外での販売実績が確実に伸びていた。

 MLSは、クライベルトの企画に基づき、フォーリーブスのこれまでの曲を集成したCDの販売も6月に計画していた。
 ステージ演奏でのクラシック演奏も中に取り込む予定である。

 5月中旬にはそのレコーディングも予定されていた。
 7月の国内ライブを終えた段階で、当面の国内ライブを中断し、8月に海外でのライブが計画されている。

 当面、非常に要請の多いロペンズ連合で予定されている。
 場所は、ラングリッシュ、メラシアの三カ国で、各二日二回のステージが予定されている。

 6月にはベイリーとファラが結婚した。
 二人は、ブレディ邸の近くに新たに造られた集合住宅の初めての入居者になる。

 5月にヘンリーはメリンダに愛を打ち明け、メリンダもその愛を受け入れていた。
 当面、結婚はしないし、肉体関係も持たない。

 フォーリーブスの演奏活動を優先することもあるし、何よりメリンダの成人を待つつもりだったからである。
 四人でその件を話し合い、最終的にフォーリーブスの結成1周年を期して、マイケルとサラ、ヘンリーとメリンダの婚約を発表し、その一年後に、演奏活動を辞めることにした。

 既にクライベルト・タレント企画、マネージャー四人、それにバンドの8人には通知してある。
 演奏活動停止後は、事業活動を行うことにしており、その内容も詳細に渡り説明していた。

 これまでの音楽活動とは無縁の事業内容だったので、説明を受けた超能力者の面々は驚いたがすぐに賛成し、彼らも同じくマイケルたちと共に行動を共にすると言明した。
 マイケルの能力に全幅の信頼を置いている故であった。

 特に音楽家を志望していた8人の男女は、既にソロで自立できるだけの十分な能力を持っていたが、彼らは至高の 音楽を追求するには単独での音楽活動よりも、マイケルたちと共に行動する方がいいと判断した。
 至高の演奏は何処でもできるが、マイケル達と離れては、得られるものが無いと判断していたのであり、人に聞かせるための演奏よりは、自らの更なる向上を選んだのである。

 確かに現在の彼等ほどの腕前を持っていれば、いつでも望む時に演奏をできるはずであったし、聞いた者は世界最高水準の腕を認めざるを得なかったであろう。

 ◇◇◇◇

 7月のバカンスは、連邦北部の田舎町、バーリントンを訪れた。
 バーリントンの別荘は、リゾートホテルであり、契約によりマイケルとメリンダは24室を年間で1ヶ月、借り受けられることになっていた。

 ジャクソン夫妻は同行しない。
 事前に部屋割りで、各自の意見を聞くと、ベイリー夫妻は当然同室であり、そのほかに、ブレディ邸で皆が集まった時に、確認すると、オリヴァーとマギー、それにヴァレリーとロッシュが同室を希望した。

 マイケルとメリンダは、苦笑しながら了承した。
 但し、余り熱々を見せ付けないでねと言うと、あるカップルが平然と応えた。

「あれ、君たち二組のカップルの方が余程熱いと思ってるけれど、ちゃんと、することしたの?」

 今度は、マイケルとサラ、メリンダとヘンリーが赤くなる番であった。
 その様子を見ていたノートンとベアトリスも手を上げて同室にして欲しいと言った。

 それに煽られたか、エリスとリア、サキとクレア、マリーとジョシュアも手を上げた。
 マイケル以下四人は呆気に取られたが、すぐにマイケルが真顔になって言った。

「今回誕生日の人は誰もいないのだけれど、・・・。
 婚約パーティーはしなくてもいいのかな?」

 誰かがくすくすと笑い出し、やがて全員が笑い出した。
 結局ホテルの予約はかなり少なくなった。

 夫妻一組、カップルの6組が同室、それにマイケルたち四人の部屋で11室を予約したのである。
 7月5日午後二時には一行18名がバーリントン・リゾートホテルに到着した。

 バーリントンは、連邦北部のガレセット高原に位置する人口一万の小さな町である。
 しかもバーリントン・リゾートホテルはそのバーリントンの街並みから車で30分ほども離れた山中にある施設である。

 但し、非常に良く整った周辺施設を備えているので、マイケルとメリンダが選んだ経緯がある。
 ここは裕福な人たちの隠れ里的な趣があり、有名人の固定客も多い場所である。

 従ってリゾートホテルと言いながら、客室は高級ホテル並みの広さを持っているのが自慢でもある。
 無論、その代わりに契約料は非常に高く設定され、年間1室10日の使用権で1万ドレルになる。

 マイケル達の支払っている使用権料は大口割引で少し安くなっているが、それでも年間60万ドレルになる。
 部屋は、ブレディ兄妹とウォーレン兄妹の4人が隣り合った部屋を四室貰ったが、他はばらばらである。

 7月初めとあって左程客は多くはないが、それでも客室の6割ほどは埋まっている。
 7月後半から8月中旬にかけては、間違いなく満室状態になるという。

 ホテルはこれほど多数の若い客を一度に受けたことがなく、少々驚いていた。
 二人の十代の娘を除くと全員が二十代で18人であるからである。

 無論これまで、家族旅行で娘さんや息子さんを、連れてくる事例がないわけではないが、一度に団体で来るのは初めてのケースであった。
 マイケルとメリンダの素性はホテル側でも承知していた。

 だが、日頃有名人を数多く扱っているリゾートホテルであり、宿泊客に演奏を依頼するなどの無粋な真似はしなかった。
 但し、夕食のディナーショーに出演する予定のバンドマンや歌手達はマイケル達の宿泊を知ると、一様にしり込みした。

 何しろ音楽会で世界的に高名なフォーリーブスの一行である。
 下手な演奏は聞かせられない。

 予約の入った時点で、出演辞退が相次ぎ、出演予定の音楽関係アーティストは、僅かに一組が残っただけである。
 地元ガレセット高原地方に伝わる伝承的音楽を演奏する先住民族の楽団である。

 太鼓と笛を主体とするこの楽団はホテル専属であり、同時に構成員の一人一人が彼らの音楽に誇りを持っていた。
 従って彼らは逃げる必要も無かったのである。

 こうして、一行が始めてディナーショーに客として現れたとき、ステージ演奏を始めたのはキャリアークと称するこの先住民族の楽団であった。
 大小12種類に及ぶ太鼓と、三種類の木製の笛を使った20名からなる楽団である。

 食事も美味しかったが、この楽団の演奏も素晴らしかった。
 既存のビートとは異なるリズムは全く新たなイメージを膨らませるものであった。

 食事が終わって支配人に話をし、マイケルたちはバンドリーダーやこの楽団関係者と話をする機会を貰った。
 翌日の10時にロビーで話を聞くことができた。

 カレック連邦で優勢な民族とは明らかに骨相の違う民族で、痩身でかなり身長が高い。
 バンドリーダーは、ワヒシ・ファブスと名乗った。

 四人のほかにクレア達8人も同席を希望した。
 ワヒシは、彼等の伝承について色々話してくれた。

 ワヒシは彼等少数民族の族長でもあった。
 マイケルとメリンダは、ワヒシの記憶に入り込み、彼が忘れているものも知ることになった。

 マイケルが彼らの伝統的音楽の素晴らしさに言及し、彼らの音楽の一部を使わせてもらっていいだろうかと尋ねると、ワヒシは目を輝かせた。

「私達の音楽を広めてくれるなら、それはよろこばしいことだ。
 但し、どのような音楽になるのか聞かせて欲しい。
 その上で、キャリアークの全員が認めるなら、喜んであなた方が演奏することも認めよう。」

「そうですか。
 では、楽器の手配ができるかどうか支配人に聞いてみます。
 手配できれば、今夜にでもあなた方にお聞かせしたいと思いますので、あなた方のステージが終わったら少し残っていただけますか。」

「わかりました。
 是非とも拝聴させていただこう。」

 会談の後、支配人に事情を説明し、クリコレット二つ、ドラムセット一つ、それにフェンパニー一つ、ベリンバ三つを用意できるかどうか聞いてみた。
 支配人は、ベリンバ二つを除いてホテルに常備してあるものがあると言った。

 定期的に保守整備も専門業者が行っているということである。

「もし、皆様がキャリアークの演奏後に演奏をなされるならば、ディナーショーの開始時点でその旨をご披露申し上げて宜しいでしょうか。
 ご承知かと存じますが、会場はその後もカフェとして営業します。
 居残りされるお客様もございますので、その方々に出てくださいとは申せません。
 皆様が折角演奏されるのであれば、私どもも商売ではなく、お客様にもお聞かせいただきたいと存じます。
 その代わりと言っては何ですが、ベリンバ二つを手配する代金、楽器を貸し出す代金、会場準備については私どもでさせていただきます。
 無論、その前に専門業者を呼んで調整も済ませます。
 ただ、ステージ代金は、残念ながらお支払いできません。
 お客様のご依頼による演奏では規定上お支払いできないことになっているのです。」

「結構です。
 ですが、少なくとも今回の演奏は実験的なものですので、事前に公表するのは避けてください。
 支配人が申されるように、ディナーショーの開幕直前にお客様に披露されるのは構いません。」

 ヴァロン二丁はリアとロッシュが、アレリュート一丁はヴァレリーが、サロフォス一丁はマイリーが、サピュロス一丁はアムナがそれぞれ持参していた。
 その夜のディナーショーが始まるとすぐに支配人が挨拶に立った。

「本日はディナーショーに御来場ありがとうございます。
 公演予定は、周知の通りキャリアークの伝統的音楽でございます。
 その演奏の後、準備に15分ほど時間が掛かりますが、御宿泊されておりますフォーリーブス及びそのお仲間が伝統的音楽のリズムを元に作った新たな音楽をただ一曲だけ演奏される予定でございます。
 もし、お時間が許すならば是非ご拝聴いただきたいと存じます。」

 会場から一斉にオーッと歓声が沸きあがった。
 宿泊しているフォーリーブスの四人を見かけていたし、挨拶を交わした者もいる。

 だが、ここでその演奏が聞かれるとは思っていなかったのである。
 やがて、キャリアークの演奏が予定通り終了し、大勢の職員が出てきて後片付けをし、更に、多数の楽器を運んできた。

 それから真新しい楽譜を持った12名の若者達が入ってきた。
 一部楽器を携えているものもいる。

 特段のステージ衣装を身に着けているわけではない。
 だが、至極普通の衣装でも美男美女ばかりの集団は、それだけで魅了する。

 席を立った者は一人としていない。
 キャリアークの20人がそのままステージ近くのスペースに立っていた。

 また、手の空いている従業員が多数フロアの外れに並んで立っていた。
 全員が座り、多少の調整を済ますと、前触れも無しに演奏が始まった。

 最初にサロフォス、サピュロス、クリコレットの三つの綺麗な音色が小気味良いリズムで奏でられた。
 その旋律は先ほどキャリアークが演奏したばかりの「赤い河」であった。

 やがてドラムとフェンパニーが、軽快で複雑なリズムをたたき出し、正しく「赤い河」を再現した。
 そうして、三つのベリンバが異なる旋律を奏で始め、すぐにヴァロンとアレリュートが後を追う。

 聴衆は、伝統的なリズムと旋律でありながら、驚くほど深みのある演奏であることに気づいた。
 赤い河とは、ベレイアス山脈に源流を発し、このガレセット高原の中央に深い峡谷を穿ち、東のドーソンズ湾に流れ込む連邦第三の大河である。

 聴衆はこのガレセット高原の中を流れる急流が目の前に浮かんだ。
 激しくしぶきを上げ、時に数段の低い滝となり、やがてゆったりと流れる幅の広い大河に至る。

 周囲の断崖、河に水を求める動物達、更にはその河を遡上するドーソンズトラウトの姿を垣間見た。
 12人の演奏は、聴衆に雄々しく生命に満ち溢れた赤い河を心に刻み付けたのである。

 演奏が終わった時、聴衆全てが盛大な拍手を送った。
 ワヒシは前に進み出た。

 その顔は涙に濡れていた。

「あなた方は、私達では表現しきれない赤い河を見事に再現した。
 あなた方は、私達以上にグァハッシ族の心を知っている。
 あなた方が、私達の伝承的音楽に付随する新たな曲を演奏するのを認めよう。
 どうか、我々の心と音楽を広めてもらいたい。」

 マイケルはそれに応えた。

「ワヒシさん、ありがとうございます。
 あなた方の、グァハッシ族の伝統と心に恥じないような演奏をすると誓います。」
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