春の明日になりたい

はる

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チョコチップクッキー

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ハルは一旦帰宅すると、シャワーを浴びて少し仮眠を取った。

起きてから、「こんな山奥に潜んでやがったのか…」と、地図を見ながら呆れ声でハルは言った。

服を着替え、銃を幾つも忍ばせる。

敵組織のトップの顔写真。

見覚えがあるどころではない。

恨みしかない相手だ。

それがまさか敵の大ボスだったなんて思いもしなかった。

ハルの心は激昂していた。

その反面、自分より序列が上のナンバー2が殺された事実に緊張もしていた。

無駄死にするつもりはないが、自分も無事では済まないだろう。

そんな時、ふとクレハの顔が浮かんだ。

不思議だった。

死など怖くない。むしろ死に場所を探していたくらいだった。

でもクレハの事を思うと生に名残惜しさを感じてしまった。

ハルは、昨日着ていた上着を手に取った。

クレハのタバコの匂いがした。

それだけで何故か心が暖かくなる。

上着のポケットに手を入れると、何かの手触りを感じた。

そこには、チョコチップクッキーと手紙が入っていた。

「何かあったらいつでも電話しなよ」という手書きと、電話番号が書いてあった。

ハルは少し迷ってから電話をかけた。

すると、ものの1秒で「しもしもー?」という声が聞こえた。

「なんだよその出方…」

あまりに早く出たので驚きつつもハルは鋭く突っ込む。

「さっそく電話してくれてありがとう、ハル。」

スマホの向こうから聞こえる声が優しい。

電話だと対面の時とまた違った感じがして、その新鮮さすら心地よく感じてしまう。

「いや…まぁ…なんか用があった訳じゃねーけど…」

ハルは頭をかきながらボソボソと言った。

「ハハ、用がなくても電話してくれよ。声聞けて嬉しいしさ。」

その言葉に顔が赤らむのがわかり、電話で良かったと思った。

「…字、意外と綺麗だよな。」と、話題をそらした。

「そうか?あ、クッキー良かったら食べてな。一応手作りだから。」

「手作り?嘘だろ…。クレハがスイーツ作りなんて。」

「なんだ?文句でもあるのかい?」

「いやなんか…似合わねーなって思って。砂糖と塩間違えたりしてねーよな?」

「俺をなんだと思ってるんだ。まったく、相変わらず生意気だな。」

スマホの向こうからクククという笑い声が聞こえ、つられてハルも少し笑った。

「なぁ、クレハ。」

「ん?」

「僕も、声…聞けてよかった。」

「ハル…」

「じゃあな。」

ハルは強引に電話を切った。

これ以上声を聞くと離れられなくなりそうだったから。

そして、クレハがくれたクッキーを口に含んだ。

「うま…」

甘じょっぱい味が口いっぱいに広がり、チョコレートの粒が口内の熱に溶けていった。
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