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第一章 いじめを止めずに見ているだけなのも同罪
4 クリスタル神殿の神託
しおりを挟む勇者アフロ様はクリスタル神殿に来ていた。
クリスタル神殿に魔族が巣を作ったので、
「魔族の手に落ちたクリスタル神殿を奪還せよ!」
と、皇帝からクエストを受けていたのだが。
緊張感のないアフロ様は意気揚々に、
「さあ、俺についてこい!」
と言ってクリスタル神殿の奥へ奥へと入っていく。
猫耳をぴくりと動かす魔法少女ミルクちゃん。
ブンッと剣を振る女戦士アーニャさん。
二人はるんるんに駆けて、アフロ様の後を追っていく。
はぁ……ため息が漏れてしまう。
以前のわたしなら誇らしい気持ちであふれていた。
けれど……。
正直、わたしの本音は……。
最近、ちょっとアフロ様の強引さに飽きていたところだった。
たしかに初めはよかった。
基本的にわたしはドM。ぐいぐいくる男子は嫌いじゃない。むしろアフロ様くらいストレートに誘ってくれたほうがこっちも気が楽。後腐れもないし。どうせみんなだってやってる……。
でしょ?
イケナイことだけど……それでも、わたしは……。
そんなわたしの横顔が、クリスタルの壁に映っていた。キラキラと光り輝くクリスタルの神殿。どこもかしこも鏡のようだ。まるで自分の心を見透しているような気がして……。
ううう……。
なんとも居心地が悪くなってきた。
(心にやましいことがあるから?)
ぶん、とわたしは首を振った。
それでも、今はみんなが憧れる勇者パーティにいるんだ。
ちゃんとアフロ様を奉仕できるようにがんばろう。身も心も……。
(アフロ様のためにっ!)
そんなわたしの目の前で、戦闘が始まった。
荒れ狂う魔物たちを、みんなは勇猛に倒していく。
剣速をふるうアフロ様の攻撃はやっぱりかっこいい。
(きゃああ……)
思わず見惚れてしまった。
すると、アーニャさんが腕を怪我した。血が流れている。
オークの爪に引っ掻かれたようだ。
わたしはすぐに、「ヒール」と詠唱して回復してあげた。
白い光りに包まれたアーニャさんの傷が癒えていく。
ありがと、とウィンクするアーニャさん。
すっと立ち上がると、そのまま飛んだ。虚空で剣を振りあげ、
「おりゃあ!」
と、オークを頭から切る。
すると、背後から物凄い衝撃が走った。
ドドドドドド!
と、派手な爆音とともに魔法弾が撃ちこまれている。
振り向けば、ミルクちゃんが、
「あはははは!」
と、笑いながら詠唱している。
「最上級火炎攻撃魔法“インフェルノぉぉぉ!」
ドッカーン! とクリスタル神殿のなかが炎に包まれ……。
魔物たちは息も絶え絶えとなった。
すると、ボスである巨大なデーモンが死に際に言葉を残した。
「人間界は魔族が侵略する……覚悟しろ勇者アフロよ……グフッ……」
(あ……これ、よくある展開……)
アフロ様は剣を振って血のりを払った。
「ふん、どんな魔族が襲ってこようとも、俺が人間界を救ってやる」
「きゃあ、かっこいいです~アフロ様ぁ」
「一生ついていくぞ! 戦士アーニャは命にかえても勇者を守ると誓おう」
なんて黄色い声をあげる、ミルクちゃんとアーニャさん。
わたしも何か言おうと、
「あ、わたしも……」
と、言いかけたとき。
鎮座するクリスタルの奥から人影が現れた。
ひとりの老人だった。
彼はおもむろに勇者に話しかける。
「わしは予言者マルコス。神託があるので心して聞くがいい」
アフロ様は後頭部をかく。
「では早めに頼む。皇帝にクリスタル神殿奪還の報告をしたいからな」
ほっほっほ、予言者マルコスは嗄れた声で笑うと言葉をつづけた。
「“火の女神から加護を受けた者が魔族を焼き払うだろう”」
すると、神託を告げた予言者マルコスは、どこにいったのか煙のように消えていった。
「なんだったんだ?」
アフロ様は肩をすくめ、
「火の女神だと? フン、そんなものに頼らなくとも俺が魔族を倒してやる」
と、吐き捨てた。
うふふ、と笑うアーニャはアフロ様に肉薄する。
そんなことよりも、アフロ様とイチャつきたいのだろう。
すぐにアフロ様の腕に身体を寄せて、
「なあ、アフロ、戦いも終わったし……今夜はいいだろぉ」
と、甘えた言葉を紡ぐ。
「ああ、ずる~い! ミルクもっ」
なんてプンスカ怒って猫耳を振るミルクちゃん。
ぎゅっとアフロ様の腕に絡まっていく。
満更でもなくニヤつくアフロ様の歩調は、軽やかなステップを踏んでいる。
(うーん、モテモテ……わたしが入る隙がない)
そんなわたしは冷静になっていた。
クリスタルに映る自分の姿を見つめ、
「これでいいのだろうか?」
と、自問自答する。
イチャつきながらクリスタル神殿を出ていくアフロ様たちを見つめ、
「大丈夫だろうか?」
と、不安な声が漏れてしまう。
アフロ様が何人女を抱いても構わないし、わたしのことも抱いたっていい。
だけど……。
「神託を無視していいのかな?」
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