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37.1番目の王弟
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「····ファル?」
「なんだ、まだ消えてなかったのか」
急斜面のふきのとうは取り終わり、レン達の行った方向へ歩くと2人と1匹の黒い集団の背が見える。
少し距離があるから、会話は微かにしか聞こえない。
何の話をしてるんだ?
足早に追い付くと全員一方向を見ている。
何か黒い炎らしきものに纏わりつかれてる····人か?
「おい、あれは人なんじゃ?!」
駆け寄ろうとして、ファルに後ろ手に制止された。
「侵入者だ。
お前であっても助けるのは許さん。
それがルールだ。
レンもわかっているな」
「····うん。
あっち行こう、グランさん」
レンは俺の手を繋いで元来た道を戻ろうとする。
心なしか表情が硬い。
「ぐっうっ、死ぬわけ、いかん。
頼む、黒竜、兄、の、伴侶、をたす、け····」
うつ伏せで倒れていた侵入者は肘をついて何とか上体をおこしながら、声を絞り出す。
立ち去ろうと手を引いていたレンがその掠れた声に顔だけ振り返り、眉をひそめて体ごと振り返った。
「何故そんな事をせねばならん。
侵入者には等しく死を」
黒い炎がさらにその濃さを増した。
「ぐぅあああああ!!!!」
侵入者が途端に苦しみだし、ゴロゴロと転がる。
レンは一瞬呆けたように侵入者を見てから、ハッとしてファルに走り寄った。
「ファル、待って!」
「何だ?」
「お願い、黒炎を消して!」
「駄目だ、例外は認めん」
「そうじゃないの!
お願い!」
「レン、今までもこうしてきた。
グランや熊や兎が例外なんだ」
ファルはあくまで冷静に話すが、その間も炎の勢いは増す。
「違う!
違うの!
お願いだから待って!」
悲鳴のようなレンの声についにファルが根負けした。
指をパチンと鳴らすと一瞬で炎は消えた。
「レン、自分が何をしたのかわかっているのか。
魔の森の主として裁かねばならなくなるんだぞ」
「····ごめん、ごめんなさい、ファル」
俺はファルのレンに向ける殺意に戦慄する。
団長が言っていたのはこの事か。
今更ながらにファルが魔獣の王として君臨する黒竜なのだと認識する。
一瞬だが竦んだ足を動かし、レンを背に庇う。
「···レン、どうして止めた?
理由があるはずだ。
ファル、頼むから理由だけは聞いてやってくれ」
レンは騎士である俺達ですら戦慄する殺気を向けられても体を竦ませる事なく、ただファルを沈痛な面持ちで見つめる。
「理由は?」
やがてファルがポツリと洩らす。
「····組紐、が····どうしてそれを持ってるのか、知りたい」
レンは戸惑うような、大きな不安に押し潰されるような、震える声で答える。
「クミヒモ?」
「彼の腰についてる飾り紐。
それは····ここにあるはずがない、のに、どうして····」
後半は自分に問うように小さくかき消えた。
ファルが俺を押し退け、レンの首を左手で軽く絞める。
射殺すような金の目を、レンはただ見つめ返した。
「番であれば殺さないと?」
「僕とファルは伴侶じゃない。
番なだけなら正気を保ったまま、竜なら殺せるよね」
何を言ってる?!
「グランさんは動かないで。
森には森のルールがある。
それを破ったのは僕だよ。
森の主が殺すと決めたなら、仕方ない」
思わずファルを引き剥がそうと一歩踏み出したが、レンに制止される。
「よくわかっているじゃないか。
死にたいか?」
「今はまだ死にたくはないよ。
知りたい事ができた」
何で2人とも淡々と話せる?!
俺1人が右往左往するのがもどかしい。
「····そうか。
もしお前が望む答えがその男になければ、すぐに殺す。
お前に危害を加えても殺す。
その時お前がそれを止めれば、お前も殺す」
「わかった」
ファルが手を離す。
軽く締めただけだと思っていたが、首が少し赤くなっている。
レンは男に近より、体を仰向けた。
全身が焼けただれ、顔も識別できないほど腫れ上がって惨たらしい。
不思議だが身につけた衣服は燃えていない。
レンの言っていた腰の飾り紐は確かに俺も見た事がない。
紐そのものの糸のより方も、花の形に型どられた結び方も独特だ。
レンは状態を確認するように全身に触れていく。
「深くまで熱にやられたか。
かろうじて息はあるけど、気管も火傷したね」
普通なら治癒魔法でも助からない。
だが瀕死の俺達を救ったレンなら助けられるのだろう。
レンは両手を男の胸に当てて目を閉じる。
レンの手が金色に光り、ゆっくり男の全身を包んでいく。
俺もこうやって救われたのか。
レンの額に汗が浮かび、やがて顎を伝って落ちていく。
男の火傷が徐々に元の肌に戻る。
こんな治癒魔法は見た事がない。
「····ぅ····」
顔も全身の皮膚も元に戻った頃、小さく呻いて男が朱金の目を開けた。
髪は赤銅色だ。
同じタイミングでレンも目を開く。
状態を見てほっと息をついたかと思ったら、男に向かって倒れそうになった。
「おい!」
男が驚きつつも受け止めようとレンに手を伸ばして····空を切った。
いつの間にか移動したファルがレンを抱え上げていた。
「····ファル?」
「運の良い奴だ。
ついてこい」
レンの問いかけは無視したが、抱く腕は優しく、安心したように目を閉じたのを確認して歩き出した。
ウォンもそれに続く。
「ほら、場所を変えるぞ」
「····わかった」
俺も男に声をかけて後に続いた。
竜人でこの色の髪と目。
第4王子として知識だけはあった。
ワルシャマリ国の1番目の王弟だ。
「なんだ、まだ消えてなかったのか」
急斜面のふきのとうは取り終わり、レン達の行った方向へ歩くと2人と1匹の黒い集団の背が見える。
少し距離があるから、会話は微かにしか聞こえない。
何の話をしてるんだ?
足早に追い付くと全員一方向を見ている。
何か黒い炎らしきものに纏わりつかれてる····人か?
「おい、あれは人なんじゃ?!」
駆け寄ろうとして、ファルに後ろ手に制止された。
「侵入者だ。
お前であっても助けるのは許さん。
それがルールだ。
レンもわかっているな」
「····うん。
あっち行こう、グランさん」
レンは俺の手を繋いで元来た道を戻ろうとする。
心なしか表情が硬い。
「ぐっうっ、死ぬわけ、いかん。
頼む、黒竜、兄、の、伴侶、をたす、け····」
うつ伏せで倒れていた侵入者は肘をついて何とか上体をおこしながら、声を絞り出す。
立ち去ろうと手を引いていたレンがその掠れた声に顔だけ振り返り、眉をひそめて体ごと振り返った。
「何故そんな事をせねばならん。
侵入者には等しく死を」
黒い炎がさらにその濃さを増した。
「ぐぅあああああ!!!!」
侵入者が途端に苦しみだし、ゴロゴロと転がる。
レンは一瞬呆けたように侵入者を見てから、ハッとしてファルに走り寄った。
「ファル、待って!」
「何だ?」
「お願い、黒炎を消して!」
「駄目だ、例外は認めん」
「そうじゃないの!
お願い!」
「レン、今までもこうしてきた。
グランや熊や兎が例外なんだ」
ファルはあくまで冷静に話すが、その間も炎の勢いは増す。
「違う!
違うの!
お願いだから待って!」
悲鳴のようなレンの声についにファルが根負けした。
指をパチンと鳴らすと一瞬で炎は消えた。
「レン、自分が何をしたのかわかっているのか。
魔の森の主として裁かねばならなくなるんだぞ」
「····ごめん、ごめんなさい、ファル」
俺はファルのレンに向ける殺意に戦慄する。
団長が言っていたのはこの事か。
今更ながらにファルが魔獣の王として君臨する黒竜なのだと認識する。
一瞬だが竦んだ足を動かし、レンを背に庇う。
「···レン、どうして止めた?
理由があるはずだ。
ファル、頼むから理由だけは聞いてやってくれ」
レンは騎士である俺達ですら戦慄する殺気を向けられても体を竦ませる事なく、ただファルを沈痛な面持ちで見つめる。
「理由は?」
やがてファルがポツリと洩らす。
「····組紐、が····どうしてそれを持ってるのか、知りたい」
レンは戸惑うような、大きな不安に押し潰されるような、震える声で答える。
「クミヒモ?」
「彼の腰についてる飾り紐。
それは····ここにあるはずがない、のに、どうして····」
後半は自分に問うように小さくかき消えた。
ファルが俺を押し退け、レンの首を左手で軽く絞める。
射殺すような金の目を、レンはただ見つめ返した。
「番であれば殺さないと?」
「僕とファルは伴侶じゃない。
番なだけなら正気を保ったまま、竜なら殺せるよね」
何を言ってる?!
「グランさんは動かないで。
森には森のルールがある。
それを破ったのは僕だよ。
森の主が殺すと決めたなら、仕方ない」
思わずファルを引き剥がそうと一歩踏み出したが、レンに制止される。
「よくわかっているじゃないか。
死にたいか?」
「今はまだ死にたくはないよ。
知りたい事ができた」
何で2人とも淡々と話せる?!
俺1人が右往左往するのがもどかしい。
「····そうか。
もしお前が望む答えがその男になければ、すぐに殺す。
お前に危害を加えても殺す。
その時お前がそれを止めれば、お前も殺す」
「わかった」
ファルが手を離す。
軽く締めただけだと思っていたが、首が少し赤くなっている。
レンは男に近より、体を仰向けた。
全身が焼けただれ、顔も識別できないほど腫れ上がって惨たらしい。
不思議だが身につけた衣服は燃えていない。
レンの言っていた腰の飾り紐は確かに俺も見た事がない。
紐そのものの糸のより方も、花の形に型どられた結び方も独特だ。
レンは状態を確認するように全身に触れていく。
「深くまで熱にやられたか。
かろうじて息はあるけど、気管も火傷したね」
普通なら治癒魔法でも助からない。
だが瀕死の俺達を救ったレンなら助けられるのだろう。
レンは両手を男の胸に当てて目を閉じる。
レンの手が金色に光り、ゆっくり男の全身を包んでいく。
俺もこうやって救われたのか。
レンの額に汗が浮かび、やがて顎を伝って落ちていく。
男の火傷が徐々に元の肌に戻る。
こんな治癒魔法は見た事がない。
「····ぅ····」
顔も全身の皮膚も元に戻った頃、小さく呻いて男が朱金の目を開けた。
髪は赤銅色だ。
同じタイミングでレンも目を開く。
状態を見てほっと息をついたかと思ったら、男に向かって倒れそうになった。
「おい!」
男が驚きつつも受け止めようとレンに手を伸ばして····空を切った。
いつの間にか移動したファルがレンを抱え上げていた。
「····ファル?」
「運の良い奴だ。
ついてこい」
レンの問いかけは無視したが、抱く腕は優しく、安心したように目を閉じたのを確認して歩き出した。
ウォンもそれに続く。
「ほら、場所を変えるぞ」
「····わかった」
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竜人でこの色の髪と目。
第4王子として知識だけはあった。
ワルシャマリ国の1番目の王弟だ。
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