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82.過去最高の疲労感~ナルバドside

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 俺は努めて心を落ち着けたくて何度か深呼吸した。

「一応確認するけどその子の髪、かつらじゃないよな?
起きて目を開けたら赤とか青とか緑とか、間違っても黒目とかじゃなかったりしない?」

 とりあえずまさかの確認してみる。
というか、まさかにすがりたい。

「あはは、バルさんそんなわけないっすよ。
鬘があったら黒以外にするっす。
でも何で黒目ってわかったっすか?」

 うん、予想通りまさか撃沈っす。
ぺぺ、相変わらず軽いっす。
絶対何も考えずに連れてきたパターンっすね。
その軽さが今は滅茶苦茶羨ましいっすよ。

 なんて現実逃避したいけど、現実なんだよな。
俺は特大のため息を1つ吐いて気持ちを切り換える。

「とりあえず客室に連れてって寝かせといてくれ。
で、用件はそれだけ?」
「いえ、隊長から何か受け取れって言われてたんですが、聞いてませんか?」

 隊長から?
当然だけど俺は何も聞かされてない。
ダルシンも腑に落ちない顔をして腕が疲れたのか人属を抱え直す。

 ちなみにあの子はたまたま隠し通路で転がってたらしい。
何で転がってたら拾ってくるかな。
落ちてる物は勝手に拾っちゃダメだろ。

 突然3人がやってきたり、肝心の隊長からは何も連絡なかったり、クソ虫のとこにいたはずの人属が転がってたり····そういえばラスとも連絡が取れないんだよな。
殿下と他国の王室御用達もやってる商会と黒竜の番が城に来た途端、ねぇ。

「お前ら、今日は満月だ。
わかってるだろうけど、そんな日にこんなもん持ち込んだ責任取って今日はうちに泊まって交代でその子の面倒見ろ。
暇な奴は地下に待機して何かあった時に手伝えるようにしといてくれ」

 ぶっちゃけ滅茶苦茶に嫌な予感がする。
絶対に城で何かが起こってる。
隊長もラスも心配だけど、今日は俺もここを動けないのがつらい。

「もしかして何かあったとかですか?」

 多分俺が態度に出したからだろうけど、モンテが窺うように俺の方を見る。
モンテはフィルメなのもあってかこの3人の中では1番他人の機微に聡い。

「え、マジっすか!
何があったっすか!」

 ペペ、お前はもう少し聡くなれ。
モンテの爪の垢飲ませてもらえ。
ダルシンは察した顔してこっち向き直ったぞ。

「今は何とも言えないけど、少なくとも城で何かが起きたんだと思う。
隊長はお前達をここに避難させたかったんじゃないかな」
「俺、城にもど····」
「駄目だ」

 おい、その子抱えたまま行こうとすんな。
いや、抱えて無くても行っちゃ駄目だろう。
とりあえずダルシンの言葉は遮っておく。

「隊長がお前達をここに寄越したんなら、間違いなく起こった何かには気づいてるはずだよ。
それに今は料理長やってるけど、隊長は国中から集まった荒くれ達を束ねて近衛でこき使ってた実力者だ。
お前達がいてもむしろ邪魔になるから外に逃がしたんだと俺は判断する。
それにどういう理由だろうと自分達が拾ってきた子供の面倒はちゃんと見ろ。
言っとくけど、満月の日に連れてきたのはお前達なんだよ。
責任を放棄して具合も悪い人属の子供をよりによって放置するつもりか?
言っとくが俺にはその子の面倒見てる余裕はないぞ?
絶対に隊長は許さないだろう」

 グッとダルシンは眉を寄せて座り直す。
他の2人もはっとした顔に····うん、ペペはなってねぇわ。

「そっすよね、バドさん。
んじゃ、俺厨房借りていっすか?」

 ニカッと笑って····ん? 厨房?

「え、いきなり何か作るのか?
朝飯食ってなかったのか?」
「いえ、食べてます。
ペペ?」

 モンテも戸惑ってるな。
ダルシンは····多分いつも通りにペペの話は軽く聞き流してる顔だな。

「違うっす!
めっちゃうまい氷菓子作るっす!
バドさん楽しみにしといて下さいっす!
あ、卵と牛乳拝借するっす!

 そう言うとダルシンから人属を奪ってモンテの上に物を扱うようにポンと置く。
モンテは落とさないように慌てて支える。

(ひぃ!
やめてぇ!
もっと丁寧にやってくれぇ!!!!)

「モンテはレンを頼むっす。
ほら、ダルシン行くっすよ!」
「は、え、俺?!」
「氷魔法使うっすよー!」

 面食らった同僚の二の腕を掴んで無理矢理立たせ、問答無用で引きずってった。

 ペペ、多分ここに来る前から作りたくてうずうずしてたよなっす。
そういうとこ昔っからあるんだよなっす。
おかげで特に隊長大好きなダルシンも大人しくなったけどさっす。

 ····おっと、思わず俺とペペの口調が混じった。
やべぇ、この数十分で過去最高に疲れた。
とりあえず帰って寝たい。
あ、ここ俺の家だったわ。

「えっと、とりあえずその子寝かして来といて?」
「····はい」

 俺は静かに人属を横抱きにして何とも言えない引きつった顔のモンテを見送った。
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