《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

文字の大きさ
170 / 210

170.蓮香7

しおりを挟む
「打てる手は打って、蓮香はとにかく新薬の開発を急いだの。
とにかく患者のデータを集めて世界中を奔走して。
そんな時に出会った患者の1人があの子。
ヨハン=クライン。
彼の両親は彼の強い希望もあって余命的には特効薬が間に合わない可能性が高い中、蓮香が主治医の1人になる事でデータを提供してくれたんだ。
だから蓮香が生きてる間の彼についてはよく知ってる。
彼が併発してた心臓の病も蓮香の人脈で見つけた腕利きの専門医に手術してもらうのに蓮香が付き添ったりしたの。
延命に力を注いだ患者の1人でもあったから、蓮香の思い入れも患者の中では強い方だと思う」

 しばらく沈黙した後、ゆっくりと話を再開した。

「だけど薬の開発は難航してて、とにかく自分の子供の看護は自分とあの2人の3人体制で徹底した。
だからかな。
未来視で死んだ自分の年齢は気がついたらとっくに過ぎてたの。
子供が8才になった時、やっと薬が出来上がって、治験の認可申請まではこぎつけた。
だけど····子供には時間が無くなってた」

 小さな手がトビの服をぎゅっと握る。  

「新薬を開発してもね、すぐに治験ができるわけじゃないんだ。
あらゆる申請をして、申請内容を精査されて、それから治験対象者を厳選される。
対象が子供で、難病だったなら特に。
しかも薬の開発者で、資金提供の関係で研究開発機関の役員の1人だった蓮香の子供は治験の対象としてすぐに選ばれる可能性は低くもあった。
そんな中であの子の容態は急変していった。
ついでにヨハンも。
このままだと確実に間に合わない事だけは確定したんだ」

 一息に話すレンの背中を慰めるようにトビが擦ると、何度か深呼吸して呼吸を整えた。
あの伴侶のついで扱いはこの際何も言うまい。

「ただ、何事も例外はある。
ストーカーの人脈には富裕層や医療関係者もいたし、子供の父親には社会的な影響力があった。
後は蓮香が悲劇的な母親として消えてしまえば世論が動いてあの子の治験が間に合う可能性が高くなる。
もちろん賭けだったけど····新薬の開発が終盤を迎えた頃から、蓮香はそうなるように動いてた。
蓮香が死んだ後にどうなったかはもちろん知らない。
でも魔の森であの子の織った組紐でできた飾りを持ったザガドが侵入してきて····ヨハンと一緒に治験を受けた子供の話を聞いた時、その子供は間違いなくあの子で····間に合った事だけは····やっと確証できた」

 そういえばレンは魔の森で黒炎に炙られたザガドを最初は見捨てようとして、腰の飾り紐を見てファルから庇ってたな。

『それを伴侶に渡した子供がどうなったか聞いてる?』

 あの時、レンはどんな気持ちだったのかを今更ながら考えさせられる。
 
「だけど····だけど、あの人も、あの子の父親も····誰も巻き込むつもりなんて····なかったんだ」

『も、行け』

 ふと今のレンより少しだけ声が低かった蓮香の言葉が頭を過った。

『大丈夫····もう完成してる』
『だけど····このまま、では····あの子は治験、の対象····な、らな····薬を作った、から、今度は私が邪魔、にな、る。
何、より今のあの子の状態で、は治験の開始にすら、このま、までは間に合わない。
だ、から、これで····な、くな····』

 夢見で聞いた苦しげな言葉の意味を理解する。
あの黒髪の男は、子供の父親は泣いていて、死に瀕しながらも蓮香は慰めていたんだろう。
そしてその後始末に現れた男がストーカーと称された男で、レンが今、彼と言った男だ。

「蓮香は····あの子が慕う2人を巻き込むつもりなんて····無かったのに。
今までの転生体と同じように手酷く殺される事になっても····子供とは無関係の誰かに殺される計画を立ててた、のに」

 吐息に嗚咽が混じる。

「ふっ····彼、が····っく····テンマ、が····ウタを····巻き込んだ」

 悔恨の色が滲む声を搾り出す。

 テンマとウタ。
それがあの2人の名前だろうか。

「ウタ、だけは····優しい、まま····いつか····自分じゃない、誰か、と····家族を持ってくれ、たら····その、人····っく、シイカに····もっと時間も、愛情も、注げる····お母さん····でき、たら····うっ、うっ····そ、そう、思って、た、のにっ····」

 シイカ、が子供の名前だろうか。
今のレンは恐らく蓮香の記憶に引きずられている。
言い終わらないまま、押し殺し切れずに声を出して泣き始めた。

「レンちゃん····」

 トビもどう声をかけるべきか迷っているようだ。
夢見で見た蓮香が殺された時の話や体の傷については皆知っているから、蓮香がどういう死を迎えたかはこれでわかったはずだ。
きっと誰もかけるべき言葉を見つけられないんだろう。
もちろん俺も。

 蓮香は何故死んだのか、何故死ぬ事が愛する者の為になったか、蓮香が最期に子供の父親に何を望んだか····その答えがこんなにも痛ましい蓮香の人生だったなんて、誰が想像できる?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...