《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

文字の大きさ
172 / 210

172.幽世の白い2人

しおりを挟む
「朔月····」

 ファルがぼそりとその名を口にした。
いつの間に隣に来たんだ?

「レンちゃんはどないなったん····」

 最悪の事態を想定したのか、トビの顔色は明らかに悪い。

「朔月ぅ、まだ寝てるぅ?」

 そんな俺達などおかまいなしに相変わらずゼノリア神は呑気な口調でまだぼうっとしている朔月に呼びかけた。

 朔月はゆっくりと立ち上がる。
深い紫色の衣の上に透け感のある紫地に金糸で刺繍が施された衣を羽織り、革靴だけは黒色だ。
親之の記憶の中にある神官と衣服の形は似ているが、色合いは神官が身につけるものではなかったように思う。
長い髪はハーフアップにして棒状で装飾のついた飾りを数本刺して纏められていた。
動くとシャラリと小さく澄んだ音がする。

 まだ覚醒しきっていないのか、朧気に周りを見回して少しだけ歩を進めるが、木々の影から踏み出そうとして止まる。

「大丈夫だよぉ。
ここは幽世の一部に僕が作った箱庭なんだぁ。
太陽の光も作り物だしぃ、眩しくならないしぃ、夜じゃなくても橋の上で好きな蓮を見ても火傷しないよぉ」

 火傷?
どういう事だ?

 華奢な白い手を影から出し、日に当てて何かを確認すると橋の中程まで歩いて行く。
その後ろをゼノリア神がぴたりとくっついて歩く。

 中程までで止まると、今度は空を見上げた。

「ほら、眩しくないでしょ?」

 レンより少しだけ小さな背の朔月をゼノリア神が上からのぞき込むと、朔月が腕を伸ばして白い頬を両手で包む。

「ゼノ?」

 鈴が鳴るような耳に馴染む雄にはない声音だ。

「そうだよぉ。
目が覚めたぁ?」

 頬にある手に自らの手を優しい手つきで添える。

「なにゆえ?」
「蓮香の策に乗ってあげようかなってねぇ、思ったんだぁ」
「蓮、香····」
「そうだよぉ。
僕の世界の困ったちゃんが呪物を呼び込んだのもあるんだけどねぇ。
それにぃ、朔月にも会いたかったんだぁ」

 まだ夢現のような幼げな口調が蓮香の名前に反応して少し覚醒する。

 ゼノリア神はそっと上から形の良い額に唇を落とすと、頬から手を離させ、その手にも交互に唇を落とした。
そのまま後ろから小さな体を抱きしめる。

 と、ザワリとファルが殺気立つ。

 それに反応したのは朔月だ。
こちらに初めて血色の目を向けた。

「····鷹親?」
「そうだよぉ。
ほら、もう1人ぃ」
「親之?」
「ふふふ、僕、頑張ったでしょぉ?」

 ゼノリア神は褒めて、とばかりに後ろから朔月をぎゅうぎゅう抱きしめる。
そんな神の頭に朔月はこちらを見ながら後ろ手に手を伸ばして撫でながら話すが、その様子にファルは殺気を出していて正直息苦しい。
しかも黒竜の殺気なんて獣の性を持つ獣人には危機感しか与えないが、状況的には生温かい目で見てしまうという違和感付きだ。

 レンという番の体のはずだが、俺が今感じている朔月への感情は恐らく親之だった時の郷愁のような感覚で、現実味がない。

「礼を申します。
もう、あの方の呪いの影響はあの方々には無いのですね」
「うん、朔月の寿ぎのおかげだよぉ。
ただぁ、それとは別で呪いがこっちの世界に来ちゃったんだぁ」
「····因果、でございましょうね」
「やっぱり気づいたぁ?」
「レンは無論でございましょうし、しかし今の蓮香だけでは雪火の助けがあっても····」

 言いながら何かに気づいたように1度口を閉ざす。

「誠に、蓮香は苦労性でございますね」

 やがてくすくすと笑いながら、神から手を下ろした。

「蓮香は腹黒いけどぉ、結局優しいからぁ」
「左様でござりますね。
今世の今上も絆されてしまったほどに」

 楽しげにころころと笑いながら話を弾ませる。

「あー、記憶を見てるぅ?」
「所詮は消え去る自我と思うて敢えて見てはおりませなんだが、何も解らぬままに呪力を奮う事も、ましてや彼の御柱より賜った神刀を手にする事もできますまい」
「そうだねぇ。
あの神は僕よりよっぽど格が上で、面倒だものぉ」
「左様でございましょう?
ふふふ、そのような御柱に····ふ、その他の御柱方に····ふふ、千年かけた自身の寿ぎと魂をかけてこのような啖呵を切る、とは····くっ、ふふふ、改めて記憶を見ると、ふくっ、蓮香は自我を持ってから死するまで長きに渡ってよく、怒りを継続しておりました事····ふふふふふ」

 笑いを堪える事は出来なかったのか、上品だが声を出して笑い始める。
静観している俺達は朔月の反応に正直困惑する。

 朔月も蓮香も、悲惨な人生だった。
なのに当人の1人があんな風に楽しそうに笑う意味がわからない。

 見えない壁を隔てた白い2人の世界を固唾を飲んで見守る。

「えぇ、笑っちゃうぅ?
蓮香の人生もぉ、朔月と同じで悲惨だよぉ?」
「千年分の生と死の記憶を持って生きていたのですから、同じような人生を辿っても蓮香の方が私よりも悲惨でござりましょうし、レンは幼き精神で更に間近の生であった蓮香の記憶を持ってしまったのですから、穏やかな生を生きてはいても死を意識する程には悲惨でござりましょうね」

 同情するような話とは裏腹に、口調は楽しげだ。

「しかし、だからこそ蓮香には怒りが生じて人生を苛烈に、御柱方にすらそれをぶつけられる程に心おきなく生を謳歌したのでしょう。
事象だけを見れば悲劇でございましょうが、当人の心情は全くの別物」

 そこまで楽しげに話して、ふと苦笑した。

「もちろん娘に加え、絆し絆された他者が在った事で心残りはございましょうが、あのような数々の憂き目にあっても後悔なく生き抜いた生を本人は誇らしく思うております。
ならば始まりという罪を犯した私は、ようやったと笑うて私が本来の最期の転生体である蓮香にできる事を潔う引き受ける事のみではありせぬか」

 そうして朔月はゼノリア神からすっと体を離して向き合い、深く頭を下げる。

「御柱におかれましてはこの朔月のみならず、同じ御魂を持った蓮香の願いを叶え賜られました事、心より御礼を申し上げまする」
「改まって朔月からそうされるとぉ、照れるぅ。
頭を上げてよぅ」

 慌てるゼノリア神にゆっくりと頭を上げて微笑む。

「これでも略式で御座いますのに」
「だってぇ、僕達が小さくて堕ちそうになったのを助けてくれたのが朔月と蓮香だよぉ。
僕だけじゃなくてぇ、他の神だってたくさん感謝してるのいっぱいいるんだからねぇ。
蓮香なんてぇ、他の世界の神々との争奪戦だったんだよぉ」
「まあ、それは何とも有難い事で御座いましたね」

 更に慌てて身振り手振りを始めた神を温かい目で見つめる。

「んおっほん。
とにかくぅ、そういう事だからぁ、僕のお願いも聞いてよねぇ」
「勿論で御座います。
本来無いはずの呪物は私が滅しましょう」

 わざとらしい咳払いをしてお願いをする神に快く了承し、後ろを見送る神を背にして朔月がこちらに向かって歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...