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第11章 交流戦

11ー1 ドレス

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 11ー1 ドレス

 交流戦のためにムスタファ王国からの一団がメルロープ王国の王都ラキシスを訪れたのは火の季節に入って間もないころのことだった。
 サニタリア王立魔法学園の生徒たちは、期末試験が終わっていつもならそれぞれの実家へと帰っているところだったが、今年は、違っていた。
 多くの生徒たちが寮に残って交流戦を見届けようとしてサリタニア王立魔法学園も王都もちょっとしたお祭り騒ぎだった。
 わたしは、というと。
 『グリンヒルデ』の自分の部屋で格闘していた。
 ドレスと。
 それは、ブルーのレース織りの美しいドレスで、ルシーディア様からおくられてきたものだ。
 わたしは、事前に採寸したわけでもないのに自分の体にぴったりとフィットしているそのドレスを身にまとい鏡を覗き込んでいた。
 「まあ!」
 ウルティア様とリリアさんとルルゥさん、それにサナまで加わって鏡の中のわたしを覗き込んだ。
 「なんて美しいのかしら」
 ウルティア様がほぅっと吐息をつくと、リリアさんも興奮した様子で言った。
 「本当に、まるで妖精のように美しいですわ、カイラ様」
 「妖精じゃないわよ」
 マオが歌うように告げる。
 「カイラは、精霊のように美しいのだから」
 それからリリアさんにわたしは、髪を結い上げられ飾り立てられた。
 可憐なブルーの星のような花々を髪に飾られ、頬や唇に薄く紅をさされると、わたしは、見違えるように乙女になっていた。
 「これならルシーディア様もお喜びになられること間違いなしでございますよ」
 ルルゥに言われてわたしは、複雑な気持ちだった。
 わたしは、つい先日、ルシーディア様の婚約者に選ばれたばかりだった。
 それは、婚約破棄を前提にした契約だったのだけれど、何も知らないアルタス様やウルティア様は、驚きつつもとても喜んでくれていた。
 それは、婚約者がいなかったわたしがやっと婚約できたこと。
 しかも相手が王太子であるルシーディア様であったためであった。
 しかし、ルシーディア様は、最近、カーレンリース様との婚約を破棄されたばかりだったし、アルタス様もウルティア様もだいぶ心配されていた。
 いわく。
 ルシーディア様は、乙女心をもてあそばれているのではないか。
 そういってアルタス様とウルティア様は、心配されていたのだ。
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