風音樹の人生ゲーム

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 講義の内容は既に大体理解している。この無駄に回転の早い頭は、見るだけで大抵の事を理解してくれるから。それもあってだろう。顔と家の権力しかない(それがあるなら十分とも言えるだろうが)無能な双子の弟とその母は、幼い頃から俺を大層憎んでいた覚えがある。
 確かに今思ってみれば、もうすぐ無くなる命に良く働く脳があって長く在る命にそれがないなんて不条理だ。出来ることならあげたいくらいだ。俺が死んだ後、脳を入れ替えてみてはいかがだろうか。


 そんな取り留めもないことを考えつつ歩いていれば、いつの間にか教室の扉の前に立っていた。腫れた頬に触れながら扉を開ければ、教室の中が一瞬静まり、そして再び喧騒に包まれる。とっくに授業は始まっている時間だろうに、彼等は今日も自由気ままだ。

 俺が在籍しているX組は不良問題児成績ゴミ共が集まる混沌クラスで、中等部からほぼ全校生徒に嫌われている俺にも、特別な興味を抱く生徒はあまりいない。
 今も教壇に経つ教師など見えていないように騒ぐ彼ら。

 ポツンと教壇に立つだけでその本分をこなせていないらしい半泣きの教師は、扉を開けた俺が目に入るやいなや俺をキッと涙目で睨みつけ、叫んだ。


「なぜ遅刻している!!毎日だぞこの能無しめ!」

 ーーガァン!!!

 ようやく標的を見つけたとばかりに元気よくギャンギャン喚き立てる教師をぼんやりと眺めていると、誰かが教師に分厚い教科書を投げつけた。
 教師の鼻先スレスレで黒板にぶち当たったそれに、教師が息を呑む。


「うるせーよお前」


 いよいよ泣き出した教師にすっかり興味をなくしてしまった俺は、これ幸いとばかりにいそいそと自分の席に向かった。そして朝っぱらから吐き疲れて訪れる眠気にうとうとしながらも、スマートフォンをいじる。

 ちなみに教師は咽び泣きながら出ていってしまった。


 
 よし、寝てしまおう。












 風音樹は人形だ。

 それが、X組の生徒達の共通認識だった。
 淡い茶色の髪に同色の目。色白で線が細く、パッと見天使のような容姿をしている彼は、しかし悪魔のような所業で中等部を震撼させた。

 しかし、根っからの問題児ーー中には極道やら暴走族やらに所属している者もいる彼らにとって、樹の行いは特段彼を恐れ嫌う原因にはならない。何なら尊敬している生徒すらいたりするのだが。
 人並み以上の美しい容姿を持った彼は、クラスメイト達に存外好まれていることを知らない。

 誰とも関わらないでただ日々を怠惰に過ごす樹の観察日記をつけるストーカー体質の変態によると、彼は毎日毎回食事の度にトイレで嘔吐をしているらしい。恐らくは摂食障害だろう、と告げた彼にクラスメイトがドン引きしたのはまた別の話。
 顔色は常に真っ青で、風紀の監視のせいで常にどこかを怪我している。それでも中々動かない表情は、動かしたと思えば嘘くさくぎこちなく。


 まるで壊れかけの人形だ。


 いつか壊れて、消えてしまうのではないか。ーーそんな風に考えてしまうような儚さを、彼は持っている。


 すやすやと眠る人形を見て、生徒達はいつもの如くカメラを構えた。
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