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4.
しおりを挟む「ねぇ」
「………………、っ、こんばんは」
可愛らしい声に重い瞼を開ければ、走馬燈にでてきた少年が無表情で立っていた。倒れ込んだままの姿勢で挨拶すると、ぐしゃりと顔を歪められる。ごめんよ。俺の声なんて聞きたくないだろうに。
それでも俺が風紀室に呼ばれた日には、彼は必ずここにやってくる。
俺の不幸が目に見えてわかる時間だから。
「……しんどかった?」
「うん」
「辛かった?逃げたかった?怖かった?」
「うん」
「……死にたくなった?」
「……うん」
問答が続く。
「うん。うん。そっか、じゃあ良いや。……約束、忘れてない?」
「……わすれ、て、ない、よ」
そういうと、漸く満足したようで彼は去っていった。俺は俺を飲み込もうとする睡魔に逆らうことなく目を閉じる。
「おい」
またしても聞こえた今度はひっくい声に瞼をうっすら開けると、何故か部屋から出てきたらしい風紀委員長が、俺の頭のすぐ側にしゃがみこんで俺を見下ろしていた。彼に刷り込まれた恐怖で、カタカタと手が細かく震える。
それをうつ伏せに床にくっ付いた腹の下に隠せば、俺を真顔でただ見つめていた風紀委員長は、何を思ったのか俺を抱え上げ、再び風紀室に入っていく。
傷つき過ぎた身体では大した抵抗も出来ず、俺はソファにドサリと投げ落とされた。痛む腰に呻き声が漏れる。ドロドロに汚れた身体を綺麗に拭かれたソファに横たえられるのは、何とも気まずい。
思わず染み付いた奴隷根性で床に降りようとすれば、それを遮るように上にのしかかられた。
「なァ、『約束』ってなんだ?」
「……せんぱい、にはかんけー、ないです、よね」
彼の名誉を貶める訳にはいかないので、次に飛んでくるであろう拳に耐えながら返す。どうせならとオマケに嘲笑も加えて見上げれば、意外にも彼は眉を顰めただけで。何故か拳は降ってこなかった。
「……彼奴はお前の被害者だなァ。それも強姦被害者の1人だ。そいつとお前に今更何故関わりがある?」
「……」
「また何か糞みてェな事でも企んでんのか?なァ」
「……」
冷酷な響きを持って告げられる言葉の一つ一つが恐ろしい。押し倒されのしかかられ、眼前にそのトラウマレベルの顔を近付けられて尋問され。微細に震える感触は、きっと今も彼に伝わっているはずだ。
それでも黙秘を貫く姿勢を見せる。絶対に言わない。言わない。いわない。いえない。
言って、何になる。
言ったら誰かが助けてくれるのか。
俺に興味を持ってくれるのか。
俺をーー。
力の入らない手を握る。ともすれば涙が出そうな程ギチギチと心臓が痛む感覚。でも自業自得だから、俺はついぞ口を噤むのだ。
しかし、そんな俺の様子で拷問癖のある風紀委員長が満足してくれるはずもなく。ニヤリと恐ろしい形相で嗤う目の前の男に、俺は今度こそ恥ずかしげもなくブルリと震え上がってしまった。
あぁ、また始まる。もういやだ。でも何も言えない。
「……じゃあ教えてもらうまでぶち犯すわァ。お前は何も言えねぇよな?だってお前もそうしてきたんだからさァ」
そうだよ。分かってんだって五月蝿いな。
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